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憧背
遠く遠くに背を見ていた。
すぐ隣の、とても遠い貴方の背を。
貴方は周りを見ない。
貴方は貴方のままに、
このどこまでも続く世界を、
どこまでも続く時間を、
疾く走る。
私はいつも背を見る。
横顔だと信じていたそれが、背だと気が付く。
私はここにいるのに、
貴方はそこにいる。
彼方を行く貴方を、
此方より見る私、
私はいつまでも貴方を想うのに、
貴方はいつも一人で、自分を見つめている。
遠く遠くから、貴方を見ていた。
永遠に響く、貴方をたたえる歌と共に、
近く近くにと、必死に手を伸ばして、
幾星霜を超えて、音の響きすらも超えて、
いつか共に見た、朝焼けに向かって
遠く遠くに背を見ていた。
すぐ隣の、とても遠い貴方の背を。
私はいつも横顔を見る。
貴方がそんなにも速く走っても、私は貴方の隣に居たいから
私はここにいるから、
貴方はそこにいる。
いつも一緒に、同じ速度で歩いていたはずなのに
気付けば、背を見ていた時の悔しさ。
それでも、その人は何も変わらなくて、
私だけが取り残されたように感じてしまいます。




