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止雨
落ちず中を漂う極小の粒
じっとりと肌に着く、水滴に満たない雫
霧ほど濃くもなく
霞ほど儚くもなく
何よりも雨ほども強くなく
弱く、しかしそこにある空気の膜
息をするのも苦しく
前に進むことすら億劫で
じっとしていても、じっとりとまとわりつく
そんな朝露と決して涼しくはない日差しの中
形なんてないはずなのに、
集まって形となって流れ落ちる
落ちた雫は地に跡を残すのに
漂う粒はどこにも証を残さない
ただ、いつもよりも空気の密度が高いだけ
まるで街が海の底に沈んだかのように
動きも緩慢で、ゆっくりと動く
地面が濡れていると表現するほどでもないほど、少しだけ濡れていた
水たまりよりもなお滑るその地面は、まるで滑りのある海の底のようで
苦しい息もまた、ゆっくりと吸って吐く
まるで、レギュレーターから吸う酸素のように
やはりここは沈んだ街
落ちる事をしらず、宙にとどまる雫が創る
アトランティス
雨上がりの、でもまだ雨の降りそうな空の
朝のしかし、熱気に蒸発した湿度の
そんな空気は重く感じます




