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不良スライムと堅物生徒会長

※やや刺激の強い表現が含まれます。ご注意ください。

起床。そこは見慣れぬ天井だった。

眼鏡(めがね)を装着し、周囲を見回してみる。

すると、正面の扉が がちゃりと開いた。


そこに居るは、タオル1枚のみを羽織(はお)った女。

水の(したた)るその青く透き通った肌からわかる通り、

彼女は正真正銘のスライムである。


彼女は此方(こちら)をちらりと見て、

(われ)が目覚めていることに気がつき、

気の抜けた甘ったるい声で話しかけた。


「おはよー。昨日(きのう)はよく眠れた?」

「…………まあ。」

「そんなフキゲンそーな顔しないでよー。

 あんなに昨日(きのう)の夜 熱く熱く愛し合った仲じゃん。」

「そういう所が気に食わんのだ!」

「おー、怖っ。さてと着替え着替え〜。」


女はそそくさと箪笥(たんす)(あさ)る。

(おぼろ)げだった頭が()え、昨晩のことを色濃く思い出し始める。


「(…ああ、そうか。)」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(われ)は彼女と一晩を共にしたのか。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


果たして何故(なにゆえ)こんなことになってしまったのか。

(われ)昨日(さくじつ)の出来事を(かえり)みることにした。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


(われ)善理(よしり)式隆(しきる)は県立曽礼成(それなり)高等学校の生徒会長である。

今週は『服装指導ウィーク』ということで、

校門の前に立ち、風紀の乱れが無いかを確認している。


「はいそこ! スカートが3cm短い!」「ウッザ…。」

「そこの君! 第1ボタンを閉じなさい!」「細かっ!」

「イヤホンを付けたまま歩くな死にたいのか!」「ちっ。」


うむ。やりがいのある仕事だ。万事順調である。

だがそんな中、(われ)の眼前に天敵とも呼べる存在が現れる。


「んはっすー、かいちょー。」

「なんだその間の抜けた挨拶は!」


小室(こむろ)アンナ。(われ)と同学年同クラス。

(われ)らが生徒会における逆賊(ぎゃくぞく)。俗にいう『ギャル』だ。


「そもそも!その格好は何だ。」

「え? カワイイっしょー?」

「否定はせんが、」

「せんのかい。」

「まずそのだらんだらんとした靴下! だらしない!」

「これはルーズソックス!」

「スカートが短い!」

「短くて誰か困んの!?」

「ピアスは校則で禁止だ!」

「これはイヤリングだよ!?!?」

「髪色!」

「もともとだよ!?!?!?」

「あ、そうか。すまない。」

「あ、はい。」


「「・・・・・。」」


「とりあえずもうすぐ始業のベルが鳴る。

 遅刻はしたくないだろう。(ただ)ちに行け。」

「え、いいの? ラッキー♡」

「昼休み、すぐに生徒会に来るように。」

「ガーン。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


――昼休み


「でねー、体育館裏にオバケが出たらしくてー。」

「えー? マヂやばーい。」


『オホン。繰り返す。繰り返す。

 2年C組 小室(こむろ)アンナさん!

 生徒会室でお待ちしております。すぐ来るように!』


「あーた、何やらかしたのよ。」

「……てへっ☆」

「おい。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「遅い!」

「ちゃんと来たじゃないですかー。」

「昼休みになったらすぐに来いと言っただろう!?」

「わたしは都合のいいことしか覚えません!」

何故(なにゆえ)いけしゃあしゃあとそんなことを!

 …まあいい。ここに呼んだ理由は分かっているな?」

「密室に男女2人きり……。はっ!

 さてはわたしにあーんなことやこーんなことで

 風紀の(みだ)れパーリナイ☆する気なの!? この変態!!!」

「変態は君だ。」


頭を抱える(われ)を彼女がニマリと笑って覗き込む。

本当に、彼女は(ことごと)(われ)の心を掻き乱す。


「君は、その服装を直す気はないのか?」

「これっぽっちもないわ!」

何故(なにゆえ)。」

「これがわたしだから!」

「ふむ。」


くるりと旋回(せんかい)してアンナがポーズを決める。


「カワイイ!イズ!わたし! オーケー?」

「It's crazy.」

「オー、オー。サシミ イズ オイシー。」

折檻(せっかん)。」

「アイタタタタタ!腕がぁーーーー!!!」


流れるような腕挫腕固(うでひしぎうでがため)に彼女は絶叫する。


「もう!」


彼女の肉体が液化し、自然な動作で背後に回る。


「い、いつの間に!?」

「そもそもスライムにホネはないんだから、

 固め技を決めたところで勝てるわけないじゃない。」

「盲点だった。」

「素直でよろしい。」


形勢逆転。流動的な肉体に拘束され、

見事に彼女に身体の自由を奪われてしまう。


「いーっつも思ってたんだけどさー。

 かいちょーって顔はいいよね。性格はあれだけど。」

「だったら…なんだ……。」

「…どうして息が荒いのかな? 運動したから? それとも?」


彼女が耳元でねっとりと(ささや)く。


「興奮、してるの?」


アンナが(われ)の秘部に手を触れようとする。

(われ)は途端に恐ろしくなり、一心不乱に暴れて抜け出す。


「あ、逃げちゃった。」

「い、いきなり何をするんだ君は!」

「えー。いいじゃん別にー。」

「お父さんお母さんが悲しむぞ。」

「待ってそれはわたしに効く。」


『キーンコーンカーンコーン』

5限目開始5分前のチャイムが静寂を壊す。

(われ)はそれに対し(ひそ)かに安堵(あんど)していた。


だがアンナは会長席のメモに何か書いたかと思えば、

それを(われ)に手渡し、またもや耳元で(ささや)いた。


「これ、わたしの住所。今日は両親居ないから。」

「な!? え!? は!?」

「ふふ。じゃあねー、かいちょー♪」

「あ、ちょ、待て、まだ話は………!」


もう遅い。彼女は既に生徒会室を飛び出し、

まるで脱兎(だっと)の如き速さで走り去っていった。


「何なんだよもう……。」

耳にはまだ、彼女の嬌声(きょうせい)の感覚がじんわりと残っていた。

身体は不思議とじんじんと熱くなっていた。

だがその熱もすぐに冷めた。


『キーンコーンカーンコーン』

授業開始のチャイムである。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「(今日は本当に散散な日であった。)」

布団(ふとん)に倒れ込んだ(われ)はただ悲嘆していた。


結局、あの後の(われ)は授業に遅刻するという、

生徒会長あるまじき行いをせねばならなくなってしまった。

それは()が人生唯一の失態だったと言ってもいい。

(はなは)遺憾(いかん)である。


「おっと、いかんいかん!

 こんなことをしている暇は無い!

 明日の小テストに向けて勉強をせねば!」


鉢巻(はちまき)を巻き、眼鏡(めがね)を掛け直し、

気分一新して目の前の机に向かう。


そこからはただの単純作業だ。

問題を解く。丸付けをする。振り返る。

問題を解く。丸付けをする。振り返る。

ただそれの繰り返し。苦ではない。苦ではないはずなのに。


「集中……できん…………!」

アンナ(あの女)の顔が(しき)りに頭を(よぎ)る。

その度に身体に異常症状が発生した。

動悸(どうき)、息切れ、発汗、発熱、そして思考の混濁。

(われ)は何か重大な病気に(かか)ってしまったに違いない。

いや、そうでなければならない。そうでないと、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(われ)が、小室(こむろ)アンナに欲情していることになる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ああ、なんという恥辱(ちじょく)屈辱(くつじょく)。生き地獄。

今の(われ)は下半身の下僕(げぼく)となっていた。

知識だけで経験に(とぼ)しい愚かな(われ)は、

その感情の無くし方をただ一つしか知らなかった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


(われ)はある集合住宅の一室の前に立っていた。

もしこれが悪戯(いたずら)だったら、住人に迷惑どころじゃないが、

今の(われ)はその可能性を考慮できるほど冷静ではなかった。


『ピンポーン』

震える手で呼び鈴を鳴らす。


「へぇ〜。本当に来たんだ〜。」

「・・・!」


アンナが(われ)を、薄いレースのパジャマ姿で出迎える。

息の荒い(われ)を見て、アンナは事情を察したのか、

(かす)かに口角を上げて、手招いた。


「いつまで立ってる気? ほら、早く入りなよ。」

「あ、はい。」


(われ)は彼女に誘われるがままに、

ぽすんと寝室のベッドの上に座らされた。

(ほの)かな彼女の残り()が、私の心を揺さぶった。


そうしてぼんやりと今置かれた状況を受け入れていると、

ばたんと大きな開閉音を立てて、

下着姿のアンナが2Lのスポーツドリンク片手に現れた。


「お待たせ〜。」

「・・・!?!?」

「ああ、これ? 必要でしょ。長時間の運動には。」


どんっ!と音を立ててそれを床に置く。

下の階の方、ごめんなさい。


「さて、始めよっか。」

「・・・。」

「その『何を?』って表情やめて。

 純粋ぶっちゃって。本当は分かってるんでしょ?

 かいちょーがこれからナニされるのか。

 だから、わざわざウチまで来たんだもんね〜?」


ああ、駄目だ。


「もうとっくにバレているんだよ。

 君が本当はどーゆー人物なのかってこと。」


このままじゃ()とされると分かっているのに。


「ね? む・っ・つ・り・ス・ケ・ベ・さん?♡」


ぷつん、と理性の糸が切れる音がした。

そこからの記憶はあまり定かではない。

一つ鮮明なことがあるとすれば、昨晩、

()飲み子のように彼女の肉体を求めたということだけだ。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「情けない……本当に………。」

「…ブツブツ言う暇あったら服着たら?」

「幻滅しただろう。昨日の(われ)を見て。」

「いや。別に。むしろ新たな一面見れて嬉しかったかな。」

「そうか。」

「ひとまず服着て。」


その後、彼らは持ちつ持たれつの関係になるわけだが、

それはまた、別の話………。

診断名:恋の病

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