メタルスライムと経験豊富(?)なギャル
あーし、経験豊富だから。
あーしは美濃瑠奈。JKだ。
ギャル友達からはよく『みのるん』と呼ばれる。
トレードマークは金髪サイドテールとイヤリングだ。
「そのイヤリングかわいいね〜。どこで買ったの?」
「あー……。これ彼氏に貰ったから、
どこで買ったかは分からないんだよね〜。」
「えー! いいなー!
やっぱ彼氏いる人って違うな〜。」
「言うて、あーし、経験豊富だから。」
「キャーーッ! さすがみのるん!
ウチらにできないことを平然とやってのける
そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「アッハハハ……」
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「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
女子トイレの個室内で、あーしは懺悔した。
「嘘をついてごめんなさい…!」
そう。今のは全部ウソです。
ちょっと見栄を張ってしまいました。
本当は彼氏なんて生涯17年間で1度も存在しません。
このイヤリングだって自費で購入しました。
経験だって……
「はぁ………」
高校に入ったら自然と彼氏ができるものだと思ってた。
でもそんなのは あーしみたいな下々の民の空想でしかなく、
現実とはオアシスの無い砂漠のように厳酷だった。
そもそも!
「あーしは、ギャルですらない…。」
調子に乗って髪を金色に染めただけの高校デビュー民。
どこまでいってもしょうもないのがこのあーし。
「消えたい…。生まれ変わったらカモノハシになりたい。」
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放課後。
もう今日は誰とも会いたくなかったので、
あーしにしては珍しく、1人で帰ることにした。
「(この下駄箱の中にラブレターの1つや2つ、
入ってたりはしないものだろうか……。)」
なーんて、期待はしてないけど……
『ポトッ』
靴箱の扉を開けると、何かが落ちてくる。
この四角い形状、間違いない。
古のオタクが夢にまで見る古代遺物・ラブレターだ。
過呼吸になりながら下駄箱の名前と自分の名前が一致していること、ラブレターの宛先と自分の名前が一致していることを、何度も確認する。
「(あああ、あーしにラブレター!?
いや嬉しいけど!嬉しいけど気は確かか!?)」
いや待て待て…。これはラブレターじゃないかもしれない。
――『果たし状』。
私との勝負に挑まんとする生粋の決闘者かもしれない。
ひとまずは、読んでみないと何も分からない!
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拝啓、美濃瑠奈様。
ひと目見た時から、あなたのことが好きでした。
あなたとすれ違うたび、心が高鳴りました。
寝ても覚めても、あなたのことが忘れられません。
放課後、体育館裏で
あなたの返事をお待ちしております。
PS.この手紙のことは誰にも言わないで下さい。
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「ラブレターだぁぁぁぁぁぉぁぁ!!!」
来た!ついに来たよ お父さんお母さん!
青い春がクラウチングスタートでやって来たよ!
「……いや待てよ?」
この字、女子が書いたものじゃないか?
しかも宛名が書いてないし……。
あーしは賢い女、美濃瑠奈。
この世には『嘘告』なる文化があるらしい。
体育館裏に来たあーし。
『ドッキリ大成功』の看板を持ったギャル友。
あーしの愚行を嘲笑う趣味の悪い女。
そんなもん想像しちゃったら行きたくない!
…でも、でももし本当に本当のラブレターだったら…
うーん。
「まあいいか! 女子でも!」
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あーしは結局、体育館裏に向かうことになった。
だがいざこういう場面に出くわすと、
どうも緊張してしまうのだ。
「よーし、『1、2の3』の3で行くぞ。
よし、行くぞ。行くぞ! 1……2の……3!」
誰も居なかった。
「誰もいないな……。やっぱり嘘告だったか……。」
じめじめした薄気味悪い空間を見渡す。
そんな時、あーしに声を掛ける人物がいた。
「……そんなとこで何やってるんですか?」
「げっ。委員長。」
プラチナ色の髪、三つ編みのおさげで、
丸いメガネを掛けた、銀色の肌を持つ女。
あーしのクラスの学級委員。通称 委員長。
これほど人間らしいというのに、
彼女がスライムだというのには驚きだ。
「委員長がなんの用だよ。」
「質問しているのはこっちですよ。
……さては何かやましいことがあるんじゃないですか?」
「いやぁ…それが…… あ。」
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PS.この手紙のことは誰にも言わないで下さい。
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「『それが』、なんですか?」
「い、いや! なんでもない!なにも!」
「嘘ついてませんか?」
彼女の深紅の瞳が、あーしをいぶかしげに覗き込む。
「嘘はついてない! やきそばパンに誓ってもいい!」
「あなた、どれだけやきそばパン好きなんですか…。
まあいいです。あなたの言い分はよく分かりました。」
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合格です♡
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あーしの肉体が、銀色の液体に包まれる。
「ちょっ……! 委員長…! これ、なんの…つもり!?」
「今は苦しいかもしれませんが、直に楽になります。」
「せ、説明になってない……し…………。」
「……また後で会いましょう。」
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あーしが目覚めた時、そこは暗い部屋の中だった。
手にひやりとした冷たい感覚がある。
手錠か何かで固定され、
ベッドの上から逃げられないようにしてあるらしい。
「いったいここは……?」
「やっと気がついたんですね。」
部屋の電気が点き、その風景に絶句する。
一見ごく普通の女子の部屋だが、
1つだけ異質な点があったからだ。
目の前にはカメラが設置されていて、
その後ろには委員長が笑顔で立っていた。
「その『状況がうまく飲み込めない』表情! とても素敵。」
「い、委員長? いったいどういう……。」
「あら、ラブレターは読んでくれなかったの?」
「………え?」
ということは、あのラブレターを書いたのは……!
「あのラブレターは私が愛を込めて書いたもの。
だから私があの場に姿を現すのは必然。」
「じゃあなんで最初、知らない振りしたの!」
「試してたのよ。あなたの善性を。」
「……どういうこと?」
委員長がにっこりと微笑む。
「私はね、今まで何人もの男性と関係を持ったわ。
それである日、ふと思ってしまったのよ。
『女性を抱くのは男を抱くのと何が違うんだろう』って。」
「変態ッッッ!!!」
「…今の私にそんなこと言っても逆効果よ?
身動きもろくに取れない幼気な少女が、
心の底から私を嫌い罵倒しているこの状況。
なにか唆るものがあるとは思わない?」
早くもあーしは体育館裏に行ったことを後悔していた。
この生理的嫌悪感に耐えられなかったからだ。
「あなたも分かるでしょう? 経験豊富なら。」
委員長があーしに近づいてくる。
彼女はあーしが経験豊富どころか、
そういった経験が一度もないことを見抜いた上で、
それを敢えて指摘せずにこの状況を楽しんでいる。
なんという女なんだ。
委員長はそのままベッドの上に乗り、
逃げ場のないあーしと無理やりキスをした。
あーしが必死で守り抜いてきたファースト・キスだった。
「あらあら、そんな泣きそうな顔して。
大丈夫。安心して。最初は優しくしてあげるから。」
委員長の耳打ちで、あーしは己の運命を悟った。
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あれから何度も何度も身体を貪り食われた。
あーしはもう、純粋無垢の身では無くなっていた。
「ふぅー……! ふぅー……!」
結局、最初から最後まで、ずっと。
主導権は委員長に握られたままだった。
触れられるたびに気持ち悪くて、
触れられるたびに気持ち良くて、
そんな未知の快感に、あーしは心を乱された。
こんなの絶対イケナイはずなのに、
とっても恥ずかしいことをしているはずなのに、
あーしはもう、彼女の虜になっていた。
「気持ち良かったよ。ありがとう♡」
「あ、ぁあーしも、き、きもちよかったぁ……。」
きっとあーしは、彼女から逃げられないだろう。
逃げようとすら考えなくなってしまうだろう。
でもそれを不幸だと思わないのは、
あーしがおかしくなってしまったのか、それとも……。
貴方も知ってるでしょう?
メタルスライムは、経験が豊富だって。