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幼馴染スライムと奥手の男子

オレたちは、ずっと一緒だった。

オレはごく普通の男子高校生・ヒロ。

それと、こいつは幼馴染のミナ。


白いワンピースとつばの広い帽子を好んで身につけ、

その隙間から水色の肌が透けて見える。

そう、ミナは正真正銘のスライムなのだ。


そしてミナは今、オレの部屋で、

オレと一緒に某格ゲーをプレイしている。


勝った方は負けた方に何でも命令できるという条件で。


「よっしゃあ!!! これでオレの勝ちだな!」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


ミナがコントローラーを床に叩きつける。

……一応それ、オレの私物なんだけど……。


「ヒロくん、もう1回ッ!!!」

「ミナが3回勝負って言ったんじゃん。

 とにかく、この勝負、オレの勝ちで……」

「やだやだやだやだやだやだやだやだ!!!」

子供(ガキ)か!」


ミナが手足をぶんぶんと振り回して抗議する。


「あっ!」

「なんだよ。」

「ヒロくん、もしかして、

 次 勝てる自信がないんでしょ?

 だからこうやっていじわるしてるんでしょ!」

(ちげ)ェよ! 普通にオレが勝ったから……」

「やーいやーい!いーくじーなしーっ!」

「―――――ッ!!」


さすがにカチンと来た。


「い、いいぜ、そこまで言うんだったら、やってやる。」

「ほんと!」

「ただし………。」


オレはミナを指差す。


「オレがこの勝負で勝った場合、

 さきの『なんでも言うことを聞く』とは別で、

 オレにミナのおっ●いを揉ませろ!」


どうだ!さすがにこれは受諾できまい!

人間として何か大切なものを失くした気がするが、

この際もう、勝てば良かろうなのだ!!!


だからミナ。早く引き下がって、

(いさぎよ)くオレの言うことを聞いて、

とっとと帰ってテスト勉強をするんだ!


そうすれば、高校を一緒に卒業できる!

ただでさえミナは成績がやばいんだから、

ここはオレがなんとしてでも……



「いいよ。」

ミナがコントローラーを持ち直す。


「その提案、のった。」

「(ノッチャッタァァァァァァァ!?!?)」


ど、どどどどどどどうしてなんでどゆこと!?

やややややばばやばい! ええええええええ!?


『READY…………FIGHT!!!』


ミナ! 一体全体どういうつもりだ!!?

もしミナがこの勝負で負けたりしたら……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヒロくん♡ おいで♡

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いやァァァァァァァァ!!! 変な妄想しちゃった!!

クソ、思春期めッ!!! 死んでしまえオレ! 2回死ね!!!


「ねぇ、ヒロくん。」

「すまんミナ。今話しかけないで!

 しゅ、集中してるからッッッッッ!!!」


ミナは液晶画面に顔を向けたまま、

その表情を一切変えることなく、言った。


「私、ヒロくんにだったら、何されてもいいよ?」

「え???」


『2P、Winーーッ!!!』


あ、死んだ。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「やったやったやったーーっ♪

 これで正真正銘、私の勝ちねっ!!」


ミナが立ち上がって、

くるくるとステップを踏みながら大喜びする。


「いやいやいや、今のは反則だろ!

 ミナがプレイ中にへ、変なこと言うから!」

「変なこと?」

「そうだ! あれが無かったら………んむッ!?」


………あれ?

なんでオレ、ミナとキスしてるんだ??



そうこう混乱している間に、

ひんやりとした何かが、口を強引にこじ開けて、

オレの口の中を撫で回す。


ミナを引き離そうとするが、あまりに力が強すぎる。

変に暴れたせいで、オレが床に押し倒されてしまった。


「…………ぷはっ」

オレはようやく解放され、

無事に新鮮な酸素を取り込むことが出来た。


当の彼女は左頬に手をあて、

恍惚(こうこつ)とした表情でオレを見下ろしていた。


そしてオレに床ドンし、

完全にがんぎまっちまった眼で言った。


「私は、ずっとこうしたかった。」

「………ふぇ?」


突然のことに脳が処理しきれず混乱した。


「私は昔からずっと、君のことが、

 大好きだったんだよ。ヒロくん。…いや、ヒロ。」


ミナが左手でオレの右頬をそっとなぞる。


「ヒロ。覚えてる? 初めて会った時のこと。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


それは或る夏の日のことであった。

オレはその日、虫取り網とカゴを(たずさ)えて、

近所の公園に遊びに来ていた。


「返してよーっ!」

「ぐへっへへへへ! ヤなこった!」

「この人形はもう、ミー達のもんでヤンス〜。」


太っちょな男子とガリガリの男子の二人組が、

女子の人形を無理やり奪い取っている現場に出くわした。


「(あ、スライム。)」

よく見れば、その少女の肌は海のように鮮やかで、

だけど、それと同時に朝露(あさつゆ)のように透き通っていた。


今の日本でこそ、スライムは人間と同等に扱われているが、

田舎だったこともあって、

その頃はまだスライムに対する差別意識は残っていた。


『スライムは劣った人種だ。』

『むやみにスライムに近づいてはいけない。』

『スライムには何をしてもいい。』

『スライムは地球を侵略しようとしている。』

そんな根も葉もないような、心ない言葉が乱立し、

信じられないことだが、それが当時の常識だった。


オレはその場を立ち去ろうとした。

だがその瞬間、オレは彼女と目が合ってしまった。

瑠璃(るり)色の瞳に、オレの意識は吸い込まれた。


『目は口ほどに物を言う』というように、

彼女の声なき叫びが、オレの心を強く突き動かした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お人形さん返せゴルァァァァァァァァァ!!!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ひっく……ひっく……」


「ちぇっ。邪魔しやがって……。」

「行きましょうぜアニキ。

 こんなやつに割く時間がもったいないでヤンス。」

「……ふん。」


まあ当然だけど、勝てるわけはなかった。

2対1で突っ込むなんて、バカのすることだ。


「はい、これ。」

「え……?」

「取り返してやったぜ。…ハハッ。」


だが、泣いている少女を見捨てるなんて、

もっとバカなやつがすることだと思った。


「…ありがとうっ! ありがとうっ!」

少女は泣きながら何度も頭を下げた。


その後オレは彼女を家まで送り届けた。

彼女の両親が傷の手当てをしてくれた上、

ちょっと高そうなお菓子を1袋くれた。


帰り際、彼女はオレに聞いた。


「あ、なまえ。名前はなんて言うの?」

「…………ヒロ。名渕(なぶち)ヒロ。」

「ヒロ……! いいなまえ!」

「!」


その(まぶ)しい笑顔を見ただけで、

オレはどこか心が救われた気がした。


「そ、そういうおまっ……君はなんて言うんだよ。」

「! えへへっ。えっとね〜。ミナ。私、ミナ。」

「ミナ……いい名前。」

「うふふっ。」


何だか照れくさくて、ニヤケが止まらなかった。


「じゃあまたねっ。……ヒロくん!」

「! お、おう。またな。」


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「――もちろん覚えてるさ。」

「私はね、ヒロ。

 あの日までずっと、人間が怖かったの。」


ミナがオレの(ひたい)におでこをくっつける。


「でもヒロに出会えたから、

 人間が怖い奴らばかりじゃないって知れたし、

 今日まで生き続けることが出来たの。

 ぜんぶ、ヒロのおかげなんだよ。」


頭がふわふわする。何か……変だ。


「私はヒロの優しいところが好き。

 私がピンチの時はいつも助けてくれて、

 ちょっとした気遣いも欠かさない。そういうとこ。」 

「で、でも……。」


そしてミナが、耳元で(ささや)く。


「ヒロ、大好きだよ。だから、一緒にエッチなことしよ?」


オレはミナの肩をつかんで身体を起こす。


「だ、駄目だッ! あ、あぁああの、

 そ、そそそういうのは、す、好き同士がするので…」

「あれ? ヒロは私のこと嫌い?」

「大好きです。」


ミナにベッドへぶん投げられる。

ミナがギシギシとベッドを(きし)ませながら乗ってくる。


「ま、まだこういうの早くない?

 それにオレ達まだ学生だしさ、

 せ、せめてこういうのは付き合ってから…」

「ヒロ! 付き合おっ♡」

「喜んで。」


ミナがオレに(またが)る。


「どうしてオレは正直すぎるんだ……」

「私はヒロのそういうところも好きだけど。

 さあ、まだ何か言いたいことはある?」

「お………」

「『お』? なに?」

「お手柔らかに……お願いします……。」


『ブチッッッッッ』


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「うっ……うっ……うっ………。」

お手柔らかにって言ったのにッ!

お手柔らかにって言ったのにッ!!


「あんまり泣かないでよ…

 まるで私が酷いことしたみたいじゃん…。」

「してんだよ!!!」

「嫌だった?」

「・・・・・・・。」

「『嫌だ』とは言わないんだね。」

「うっ……。」


そりゃあ…気持ちよくなかったといったら嘘になる。

でもひたすら彼女に食い散らかされて、

人間としてのあらゆる尊厳を失った気がしてならない。


「ふふふっ……。」

「何笑ってんのさ。」

「え〜? だって〜。

 ヒロの意外な一面が知れて嬉しかったんだもん。」


脱力感とお布団のぬくもりに包まれて、

オレは眠りについてしまった。


「えっ。寝ちゃったの!? はぁぁぁ。まあ仕方ないか。」


ミナは耳に顔を近づけ、言った。

「これからもよろしくね、ヒロ。」

これからも、ずっと一緒だ。

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