フォレスト公爵家での晩餐
気楽な席だからと言われたけれど、テーブルの飾り付けも料理も、急遽決まったものとは思えないくらい豪華だった。
セリーナは昼間のドレス――しかも魔法の修行があるため手持ちの中でも簡素なものだ――のままで、参加を決めたことを少しだけ後悔した。
気を使ってくれたのか、フォレスト公爵家の三人も普段着でいてくれたのが幸いだ。
食用花で縁取られた皿の前菜を楽しみながら、セリーナはそっと三人を見る。
長いテーブルの奥にフォレスト公爵ハワード。彼を挟んで、チャーリーとアリスターが向かい合い、セリーナはアリスターの隣だ。
「魔法の修行は進んでいるかね?」
ハワードがセリーナに話題を振ってくれ、セリーナが彼に答える形で話が進む。
アリスターは顔合わせのときと同様、話しかけられたときだけ口を開いた。セリーナとふたりでお茶を飲んでいるときのように、声を荒げたりなどしない。
チャーリーもハワードに振られたときだけ自分の話をして、あとはセリーナやアリスターにときおり質問するだけだ。
ハワードの話題の選択は、答えやすい無難なもので、社交の手本のようだった。――客であるセリーナはともかく、息子ふたりに対しても。それなのに息子たちの返答がそっけないため、失礼ながらハワードが不憫になって、セリーナは熱心に答えるようにした。結果、セリーナばかりがしゃべっている。
チャーリーはにこやかな笑顔だけれど、目を向けられたセリーナは緊張感を覚える。
(これはやっぱり、弟の相手に相応しいか試されているのよね)
それならば、受けて立つまでだ。
(将を射んと欲すればまずは義兄を射よ、ってことね!)
メインの仔羊のステーキが出てきたところで、セリーナはチャーリーに話しかけた。
「チャーリー様、先日はお話が途中になっておりましたね」
「悪いけれど、僕のことは義兄と呼んでほしい」
否定するような言い方をされたのが不思議だが、義兄呼びはセリーナにとっては願ってもないことだ。
「まあ! よろしいのですか! ありがとうございます、お義兄様」
セリーナが喜ぶと、チャーリーはわずかに目を瞠った。
(私の答えはお義兄様にとって予想外だった? うーん。まだ婚約段階なら普通は遠慮するものかしら?)
正解がわからないが、許可されたのだから自分は悪くない、とセリーナは開き直る。
「先日の続きをお話してもよろしいでしょうか?」
「それって、アリスターのどこが気に入って婚約したのかってことかな?」
「はい、そうですわ」
「え? 今ここで話すのかい? 本人がいるけれど……」
チャーリーは今度ははっきりと戸惑い顔をする。彼はちらりとアリスターを見た。
セリーナは「問題ごさいませんわ」と大きくうなずく。
「アリスター様には折りに触れてお伝えしておりますもの。あ、同じことの繰り返しになってしまうのは申し訳ないですけれど、ご容赦くださいませ」
セリーナが隣のアリスターに笑顔を向けると、固まっていた彼は慌ててカラトリーを置き、セリーナの腕を引いた。
(アリスター様から触れてくださったわ!)
と、ときめくセリーナをよそに、アリスターの目は真剣だ。
「やめて。絶対にやめてくれ」
「でも……」
「やめてくれ!」
「そこまでおっしゃるなら、わかりましたわ」
好きなところを語ってアリスターから嫌われるなんて、本末転倒だ。セリーナはアリスターに微笑んで了承してから、チャーリーに謝った。
「申し訳ございません。アリスター様に止められてしまいましたので」
「ああ、いいよ。今度機会があれば、また、ね?」
「はい! ぜひ!」
試されていようとも、アリスターへの気持ちを語れる機会は逃したくない。満面の笑みでうなずいたセリーナに、「機会なんてないからね!」とアリスターが突っ込む。
ふたりだけの茶会のときのようなアリスターの反応に、セリーナはうれしくなった。でもそれを隠して、いつものように、
「アリスター様と結婚すれば、お義兄様とのお付き合いも長く続きますから、機会はいくらでもあると思いますわ」
「兄上とふたりきりにはさせないから」
「えっ、それは嫉妬ですか? まあ、どうしましょう! うれしい!」
「違うっ!」
少し浮いてしまったセリーナから、アリスターが目を逸らす。
彼は、目を丸くした兄と、穏やかに見守る父を目にして、「違いますからっ!」とさらに声を上げた。