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この世で一番軽い恋  作者: 神田柊子
第二章 お義兄様を攻略せよ
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フォレスト公爵家での晩餐

 気楽な席だからと言われたけれど、テーブルの飾り付けも料理も、急遽決まったものとは思えないくらい豪華だった。

 セリーナは昼間のドレス――しかも魔法の修行があるため手持ちの中でも簡素なものだ――のままで、参加を決めたことを少しだけ後悔した。

 気を使ってくれたのか、フォレスト公爵家の三人も普段着でいてくれたのが幸いだ。

 食用花で縁取られた皿の前菜を楽しみながら、セリーナはそっと三人を見る。

 長いテーブルの奥にフォレスト公爵ハワード。彼を挟んで、チャーリーとアリスターが向かい合い、セリーナはアリスターの隣だ。

「魔法の修行は進んでいるかね?」

 ハワードがセリーナに話題を振ってくれ、セリーナが彼に答える形で話が進む。

 アリスターは顔合わせのときと同様、話しかけられたときだけ口を開いた。セリーナとふたりでお茶を飲んでいるときのように、声を荒げたりなどしない。

 チャーリーもハワードに振られたときだけ自分の話をして、あとはセリーナやアリスターにときおり質問するだけだ。

 ハワードの話題の選択は、答えやすい無難なもので、社交の手本のようだった。――客であるセリーナはともかく、息子ふたりに対しても。それなのに息子たちの返答がそっけないため、失礼ながらハワードが不憫になって、セリーナは熱心に答えるようにした。結果、セリーナばかりがしゃべっている。

 チャーリーはにこやかな笑顔だけれど、目を向けられたセリーナは緊張感を覚える。

(これはやっぱり、弟の相手に相応しいか試されているのよね)

 それならば、受けて立つまでだ。

(将を射んと欲すればまずは義兄を射よ、ってことね!)

 メインの仔羊のステーキが出てきたところで、セリーナはチャーリーに話しかけた。

「チャーリー様、先日はお話が途中になっておりましたね」

「悪いけれど、僕のことは義兄と呼んでほしい」

 否定するような言い方をされたのが不思議だが、義兄呼びはセリーナにとっては願ってもないことだ。

「まあ! よろしいのですか! ありがとうございます、お義兄様」

 セリーナが喜ぶと、チャーリーはわずかに目を瞠った。

(私の答えはお義兄様にとって予想外だった? うーん。まだ婚約段階なら普通は遠慮するものかしら?)

 正解がわからないが、許可されたのだから自分は悪くない、とセリーナは開き直る。

「先日の続きをお話してもよろしいでしょうか?」

「それって、アリスターのどこが気に入って婚約したのかってことかな?」

「はい、そうですわ」

「え? 今ここで話すのかい? 本人がいるけれど……」

 チャーリーは今度ははっきりと戸惑い顔をする。彼はちらりとアリスターを見た。

 セリーナは「問題ごさいませんわ」と大きくうなずく。

「アリスター様には折りに触れてお伝えしておりますもの。あ、同じことの繰り返しになってしまうのは申し訳ないですけれど、ご容赦くださいませ」

 セリーナが隣のアリスターに笑顔を向けると、固まっていた彼は慌ててカラトリーを置き、セリーナの腕を引いた。

(アリスター様から触れてくださったわ!)

 と、ときめくセリーナをよそに、アリスターの目は真剣だ。

「やめて。絶対にやめてくれ」

「でも……」

「やめてくれ!」

「そこまでおっしゃるなら、わかりましたわ」

 好きなところを語ってアリスターから嫌われるなんて、本末転倒だ。セリーナはアリスターに微笑んで了承してから、チャーリーに謝った。

「申し訳ございません。アリスター様に止められてしまいましたので」

「ああ、いいよ。今度機会があれば、また、ね?」

「はい! ぜひ!」

 試されていようとも、アリスターへの気持ちを語れる機会は逃したくない。満面の笑みでうなずいたセリーナに、「機会なんてないからね!」とアリスターが突っ込む。

 ふたりだけの茶会のときのようなアリスターの反応に、セリーナはうれしくなった。でもそれを隠して、いつものように、

「アリスター様と結婚すれば、お義兄様とのお付き合いも長く続きますから、機会はいくらでもあると思いますわ」

「兄上とふたりきりにはさせないから」

「えっ、それは嫉妬ですか? まあ、どうしましょう! うれしい!」

「違うっ!」

 少し浮いてしまったセリーナから、アリスターが目を逸らす。

 彼は、目を丸くした兄と、穏やかに見守る父を目にして、「違いますからっ!」とさらに声を上げた。



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