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この世で一番軽い恋  作者: 神田柊子
第四章 王立学園魔法対決?

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魔法使いのキャシー・バレー男爵令嬢

 セリーナたちは別室に場所を移した。

「新入生の方ですわよね?」

 女子生徒の制服のリボンが一年生の紺色であることを確認して、ナディアが聞く。

 しかし彼女はセリーナを見て、目を見開いていた。

「……魔法使い?」

 小さな声でつぶやいた彼女に、セリーナはうなずく。

 魔法を習って自分の魔力を感じられるようになったら、人の魔力も感じられるようになった。魔力を持っているのは魔法使いだけだ。

 セリーナにも彼女が魔法使いだとわかる。

「はい。私も魔法使いです。でも、事情があって秘密にしているので、できればここだけのお話にしておいてくださいませ」

 小声で、セリーナはそう頼んだ。

(初日からバレたなんて知れたら、アリスター様に怒られてしまうもの)

 彼女は怪訝な顔をしつつも、「それは別にいいけど……」と了承してくれた。

 ここはホールに併設された控え室のひとつで、今日は生徒会が借りているそうだ。

 一緒に来た男性陣のうち、グレゴリーとバーナードは離れたところに立っている。エグバートは女子生徒のすぐ後ろに立った。

 それを確認して、セリーナたちは女子生徒から手を離す。

 ナディアが彼女の前に回って挨拶した。

「まず、私はクリフ侯爵家のナディアです。こちらはラグーン侯爵家のセリーナ。あなたはどなたかしら?」

「バレー男爵家のキャシーです」

 つっけんどんに自己紹介したキャシーだが、ナディアが続けてグレゴリーたちを紹介すると顔色を悪くした。

「えっ、王太子殿下だったんですか!? すみません! 私全然知らなくて! ごめんなさい!」

 ぺこんっと勢いよく上体を折って謝った。

「あ、知らないなんて余計に失礼ですよね。すみません。私、平民から養子になったばかりでまだ貴族のルールを覚えられていなくて」

 ナディアが、この子大丈夫かしら、と言うように眉をひそめた。セリーナも心配になる。

「入学前に、社交のルールやマナーの必須事項を教えてくれる特別授業があったのをご存知ないかしら? あなたは受講しなかったの?」

「そんなのあったんですか!? 知りませんでした……」

「教材だけでもいただけるように先生にお願いしてみましょう」

 ナディアがそう言うと、キャシーは「ありがとうございます!」と、またぺこんっとお辞儀をした。

「もう少し落ち着いて行動しなさいね。相手の身分に関わらず、ぶつかったりしたら面倒なことになるのはわかるでしょう?」

「はい! 気をつけます!」

 元気よく返事をするキャシーを見てから、ナディアはグレゴリーを振り返った。

「殿下から何かございますか?」

「いや。……あ、そういえば、魔法使いというのは本当なのか?」

 グレゴリーに聞かれて、キャシーは「本当です」と答える。

「魔法、もう一度見せましょうか?」

「いや、それはもう必要ないよ」

 グレゴリーは苦笑して、エグバートに目をやった。

 キャシーも自分の後ろに立つエグバートに気づいて、また頭を下げた。

「あの、さっきはごめんなさい! 私、細かい調整が下手で……、怒ってますか?」

 ぼさぼさの髪のままのエグバートは、ひどく苦い顔で、「飲み物だけのほうがまだましだった」と告げたのだった。


「それでキャシー様は退室されたんです」

 学園から帰宅したセリーナを出迎えたのは、先に帰宅した両親と、時間を見計らってやって来ていたアリスターだった。

 そして、全員でお茶を飲みながら、セリーナの報告会だ。

「バレー男爵家か……。特に問題もなければ、目立った功績もないな。確か男爵は四十手前で、内務部の事務方だったかな」

 父ウォーレンが首をひねると、

「学園時代、私の一学年下にご令嬢がいらしたわ。あの方は現男爵の妹さんかしら。卒業後のお話は聞いたことがないわね」

 と、母ベリンダも思案する。

「魔法使いだから養子にしたってことでしょうか?」

 アリスターがウォーレンに尋ねた。

「いやぁ、どうだろう。魔法は遺伝するわけじゃないからなぁ」

「キャシー様は、魔塔に所属できそうなくらい魔力が強い気がしましたよ」

 セリーナがそう言うと、ウォーレンは「そうなのか?」と目を瞠って、

「しかし、魔塔の魔法使いだからって、家の利になるとは思えないが……」

「利益なんて関係なく、キャシー様を気に入って養子にしたのかもしれないじゃないですか!」

 セリーナが父に抗議すると、アリスターは「元々血が繋がってたのかもしれないですしね」とさらに身も蓋もないことを言う。

 セリーナは口を尖らせた。

「明日、学園の帰りに魔塔に寄ってお師匠様に聞いてみますわ」


 翌日。入学二日目は校舎の案内から始まった。

 担任の先導で、図書室や食堂に連れて行ってもらい、使い方を学ぶ。食堂の上階には予約制の個室があり、A組は優先的に予約できるそうだ。――さらに王族は専用の特別室がある。そういった立ち入れない場所の説明のほうが重要だった。

 クラス単位で案内場所をずらしているから、他のクラスとは行き合わなかった。

 選択授業の説明を聞き、午前で帰宅する。

 どうやらキャシーはクラスメイトの前で魔法を披露したらしく、下校時間にはもう一年生の間で話題になっていた。

(昨日の歓迎会の様子を見ていた人もいるでしょうし、キャシー様は隠していないみたいだから……)

 ナディアには、今日これから魔塔に寄ると伝えてある。彼女もバレー男爵家のことを調べたらしいが、可もなく不可もない、とウォーレンと同じ評価だった。

「キャシー様のこと、お師匠様に聞いてくるわね」

「ええ。話しても大丈夫なことは教えてもらえると助かるわ」

「もちろんよ」

 学園の入り口まで歩く途中で、中庭で人に囲まれているキャシーを見かけた。

(魔法使いが好意的に受け入れられていて良かったわ)

 迎えの馬車に乗って、セリーナは魔塔に向かった。


「あら、どうしたの? 学園に入学したんじゃなかった?」

 魔塔の門でグレタを呼び出すと、彼女はそう言いながら出迎えてくれた。

(こうやって門で相手を呼べるから、他の魔法使いには会わないのよね)

 セリーナは「はい、昨日が入学式でしたわ」とうなずいてから、

「学園の新入生の中に魔法使いの男爵令嬢がいらして、少し気になったので……」

「男爵令嬢? セリーナと同学年ってことは、十五歳?」

 グレタは首をかしげる。

「キャシー・バレー男爵令嬢という方ですわ。養子に入られたばかりとおっしゃっていたので、お師匠様がご存知の家名と違うかもしれません」

「バレー男爵家?」

「ええ、そうですが……」

 グレタが珍しく難しい顔をしている。

「セリーナ、ついてきなさい」

 そう言って連れて行かれたのは、魔塔の最上階。

 どんどんどん、と壊れるんじゃないかと心配になるくらいグレタは扉を叩く。やっと開いた扉の向こうから顔を出したのは、五十歳くらいの男性だった。

「グレタか……。何だ?」

「ちょっと問題が起きたのよ。ああ、この子はセリーナ。私の弟子よ」

「問題?」

 男性を押し除けて、グレタは室内に入る。セリーナも「お邪魔いたします」と一応断ってから入室した。

「あの、はじめまして。セリーナ・ラグーンと申します」

「ああ、そう」

 反応が薄い相手に戸惑うセリーナに、グレタが笑う。

「彼は魔塔の主席よ。フランク・クレイ。ほら、前に話したでしょ、噴火体質。こいつがそれよ」

「ああ! 激辛好きの方!」

「あ?」

 セリーナがぽんっと手を叩くと、フランクが片眉を上げたから、セリーナは、

「私は浮遊体質の者です」

「あー、恋のときめきの……」

「まあ! ご存知ですのね! 嫌ですわ、魔塔の主席の方にも私のアリスター様への想いが知れ渡っているのですね!」

 両手を頬にあてるセリーナに、グレタが「全然嫌がってないでしょ、それ」と呆れ顔を向ける。

 それから、彼女は勝手にソファに座り、背もたれ越しにフランクを振り返る。

「イヴォン・バレー」

「ん?」

「彼女本人か、実家かわからないけれど、弟子のキャシーを養子にしたみたいよ」

「ううん? どういう意味がある?」

「さぁ? ていうか、あなたも把握してなかったのね」

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