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5.ルシアナ、決意する(1)

「ルシアナお嬢様、盗み聞きなんてはしたない事はおやめ下さい」

「しーーっ! 静かにして! 話し声が聞こえないわ」


 ルシアナを窘めようとするモニカに黙っているように、と顔をしかめて見せて、再び談話室のドアへと耳をくっつけた。


 パーティーがあったあの夜から数日後、大事な話しがあるからとベロニカは両親に呼ばれたらしい。今、談話室には父と母、そして姉の3人がいる。


「ベロニカ、お前ももう16歳だ。そして私たち夫婦には息子がいない。分かるね?」

「もちろんです」

「物分りのいい娘を持って良かったよ。それでだね、バルドー家から正式に、三男のウィンストン君をどうかと話がきている。私ももちろん喜んでこの申し入れを受けようと思う。いいね?」

「…………」

「ベロニカ? どうしたの、押し黙って。お父様に早くお返事なさい」


 いつまでも黙っている姉に、母が急かすように声をかけている。


「…………もし、私が嫌だと言ったらその……お父様やお爺様はどうするのでしょうか……」

「嫌? 私はてっきりお前たちは好きあっているものだと思ったんだが? 熱心に手紙や花束を贈ってきてくれていたじゃないか」

「そうですが……」

「あなた、きっとベロニカは不安なのよ。生涯の伴侶を決める大事な事なんですもの。ね、ベロニカ?」

「はい……」

「そんなに暗い顔をすることはないぞ、ベロニカ。バルドー家の者と一緒になれば、もう少しいい暮らしが出来る。それにウィンストン君は男前ときた。幸せな結婚生活になるだろうよ。なあっ、オリビア」

「そうよ。みて、ベロニカ。こんな素敵なネックレスを私やあなたにって贈ってきてくれたわ。気の利く旦那様じゃないの」


 なーにが気の利く旦那様よっ! 外面がいいだけじゃない。

 数日前のことを思い出したら、ムカムカとしたものがこみ上がってきた。

 婚約前から愛人を作る気まんまんの男とお姉様が結婚だなんで、冗談じゃない!!


 ルシアナは知っている。

 あの夜の後、ベロニカがどれほど泣いたのかを。

 ベロニカとルシアナの部屋は近い。屋敷が静まり返ると、嫌でも咽び泣く姉の声が聞こえてきたのだ。

 それでも姉は両親に心配かけまいと、日中は気丈に振る舞いやり過ごしていた。

 健気で思いやりのある姉はこのままだときっと、自分の気持ちを押し殺してウィンストンと結婚してしまうだろう。


 結婚後、あの男がこの屋敷を我が物顔で闊歩する姿が頭に浮かんで、ルシアナは思わずドアを盛大に開けて部屋へと押し入った。


「はんたーーーいっ!!」

「「ルシアナ?!」」


 両親は突然の娘の乱入に、目をパチパチと瞬いて驚いている。


「ウィンストン様との結婚なんて、わたくしは断固反対ですわ!!」

「何をいっているの、ルシアナ。訳の分からないことを言って。子供の出る幕ではないわ」


 部屋から追い出そうと肩を掴んできた母の手を振り払い、父に詰め寄る。


「反対ったら反対です! ウィンストン・バルドーは婚約前から愛人を作る宣言をしている、血筋だけが目当てのとんだゲス野郎なんですのよ! おまけにお姉様の悪口も散々叩いて……! お父様はあの男の上っ面の良さに騙されているんです! 大体、お父様だってバルドー家を良く思っていなかったではありませんか!? そんな男にこのルミナリアの地を任せていいのですか?」


 父だって金で成り上がるバルドー家に対して、いい感情を持っていなかったはずだ。

 ゼェゼェと肩で息をして父の反応を待つルシアナに、母が先に口を開いた。


「いい加減なさい! これは家と家との問題です! 子供は黙っていなさい!!」

「いいえ、黙ってなんていられませんわ! あの男が跡取りとしてこの家に入ってきたらどうなるか……! お姉様はおろか、お父様やお母様だって言いなりになるに決まっています」


 豊富な資金を絶たれることを恐れ、きっと父ですらウィンストンに強くは出られなくなる。これから先、あの男の顔色を伺いながら生きていかなければならないなんて……! ルシアナはどこかに嫁いで家を出るとしても、この家に残る両親や姉のことを思うと黙ってなどいられない。

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