20.ルシアナ、説得する
ルシアナは時や場所を変えて何度も聞きこみ調査をしたが、やはり意見は概ね一緒だった。
これから領地再興の為、本格的に動き出す前に両親――特に父の許可を得なければならない。という事でルシアナは今、祖父を伴い父の執務室へとやって来ている。
「ルシアナ、お前はまだ12だぞ。子供のお前さんに何が出来るって言うんだい?」
組んでいる手に額を乗せながらルシアナの話を聞いていた父が、こちらを見ずにそのままの姿勢で、低く唸るように言った。
「出来るかどうかは分かりません。でも、やってみなければ。領民たちの気持ちを考えたら、お父様だってカジノリゾート計画は推し進めるべきではないと思いませんか?」
「私だってね、あれこれ考えて色々やってみたさ。けれど結局どれも採算が取れないどころか大赤字で終わって……。父上だってそうでしょう? 我が家は領地運営の才に長けた者が輩出されない。そういう家系なんだよ」
疲れきった顔で首を振る父に、ルシアナはふんっと鼻を鳴らした。
「お父様やおじい様、それより前のご先祖さまのことは知りませんわ。まだ何もしていないわたくしまで一括りにしないで下さいな」
大人はなんだってこう、いかにも全てを分かりきった風に言うんだろう。
確かにまだ子供だけれど、今この場にいる誰よりも可能性を秘めている存在だと、ルシアナ自身は思っている。
やる前から諦めさせるなんて、一番やったらいけないやつじゃない。
思春期特有の反抗心が相まったルシアナは、いつになく父に苛立っている。
温厚な父も、この強烈なルシアナの返しにはピクリと眉尻を上げた。
「失敗したら、子供のお前がどう責任を取る?! 何万人もの領民の生活がかかっているんだ。子供の思いつきでやって、『ダメでした。ごめんなさい』じゃ済まないんだぞ!」
そんなことは分かっている。
でもやる前から『どうせ失敗する』の精神でどうするのだとルシアナは言いたい。
その一方で、父の気持ちも分からなくはない。
前世の自分もそうだった。
若い頃は大した根拠もなく、アレをやりたい・コレをやりたいで夢いっぱい。
けれど歳を重ねる毎に『私は◯◯だから~』
『もう少し経験を積んでから~』と自分自身に言い訳をするようになって、臆病になっていった。
それを人は社会的な経験を積んで大人になったからだとか、守るべきものが出来たり責任が大きくなったからだと言うかもしれない。
その通りだったとしても、前世の自分は最期の瞬間、生き抜いたという満足感よりも無念の方が勝っていた。
それも、もっとこんな事がしてみたかったという未来へのじゃない。
やっぱりあの時ああしておけば良かったという、過去への後悔だ。
だからこそ今世では、過去に対する未練は残したくない。やれることは全てやっておきたい。
「あーもー、お父様はいつからそんなへっぴり腰の弱虫になってしまいましたの? 男ならドーンと構えて掛かってこい! くらいでいて欲しいものですわ」
「ルシアナ! どうやら私はお前を甘やかし過ぎたようだ。今日という今日は……!」
わなわなと唇を震わせる父に、祖父が歩み寄り肩をポンと叩いた。
「儂が責任を取る」
「え……? 父上?」
「儂が責任を取ると言ったんだ。ルシアナの好きにさせてやりなさい」
「ですがっ……!」
「自分の責務を放り投げて息子に丸投げした身。こんなことを言うのは筋違いかもしれんが……。でも儂はルシアナに賭けてみたいし、ルシアナが思い描く未来を見てみたい。サーマンよ、娘を信じてみてやったらどうだ? 」
「父上……」
祖父の言葉にしばらく考え込んでいた父だったが、とうとう口から長い息を吐き出して「分かった」と呟いた。
「お前の好きにしてみなさい」
「お父様……! 分かってもらえて嬉しいです! 絶対に後悔なんてさせませんわ!!」
父の方へ駆け寄り、ギューッと抱きついた。
大体のことはハグすれば許して貰える。
子供の武器をしっかりと理解しているルシアナは、誰にも見えないようペロリと舌を出した。
「それにね、お父様。そんなに心配なさらなくたって大丈夫! だって今回の事業が失敗に終わったとしても、ウィンストン様がカジノをドーンと建ててルミナリアを再建してくださるんですもの。尻拭いはぜーんぶウィンストン様がして下さるのですから、失敗を恐れる必要なんてないですわ!」
ポンっと自分の胸を叩いたルシアナに、祖父も父も苦笑いをして互いの顔を見合わせた。
「まったく、ルシアナには敵わないよ」
「はっ、はっ、はっ! 我が孫ながら、強かに育ってくれたものだ。ルシアナよ、思いっきりやってみなさい」
「はい、ありがとうございます。おじい様、お父様」
さあ、ルミナリアの再興に向けて頑張りますわよ!




