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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
三章

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「というわけで――見てくださいアルバート、この素晴らしい戦利品を!」

「おお……!」


 テーブルに並べた魔道具たちをアルバートが顎に手を当て、じっと観察する。


「初めて見るものばかりだな。これが例の店の商品か」

「はい! いい買い物ができました」


 魔道具屋の建物自体は以前からあったが、長らく閉ざされていた。ゲーム通り、舞踏会の後に開いたばかりのその店は、並ぶ品のほとんどが隣国製のアイテムだ。物珍しいと思うのは当然である。


「輸入品ですし、国内ではなかなか手に入りませんから」

「なるほどな。だがこれは魔道具なのか? そうは見えんが……」


 彼が不思議そうに呟く。それもそのはず。並べられた魔道具のごく一部は、一見するとただの古びたガラクタにしか見えないのだ。


 鎖の切れかけた鈍色のペンダント、道端に転がってそうな石ころ、煤けた木の板……どう見ても魔道具には見えないだろう。だが、その奥に宿る魔力は一級品だ。


「貴重品ですからね。あえて骨董品にしか見えないように巧妙に細工されていまして。……どれも便利なんです。例えばこれ」


 石ころを手に取ると、手のひらの上で青白く脈打った。


「身につければ水中でも呼吸ができます」

「なんと!」

「しかもこれ、湖の底の隠しダンジョンに行くための鍵なんです」

「どこの湖だ、今すぐ――!」


 椅子から半ば立ち上がるアルバートに、思わず吹き出しそうになる。すごい食いつきだ。落ち着け。


「後で一緒に行きましょう、後で」


 奥にレアアイテムが眠っているものの、出てくる魔物が強いのでちゃんと準備してからと言うと、彼はおとなしく座った。


 ちなみにこの石は、あの施錠棚の中にあった一点物。本来なら物語終盤にしか手に入らない代物だ。それを今ここに持っているのは、ラリマー侯爵令嬢という立場を利用したからにほかならない。権力の乱用? はい、その通りです。


 けれど、今は迷っていられない。次の一手を誤れば、物語どおりに破滅へ突き進むしかなくなる。


 今回買ったのは、どれもこれもシナリオ攻略に役立つ品ばかり。最善手を取るため、多少の後ろめたさは飲み込む。使える物は遠慮なく使わせてもらおう。


 他にも珍しい魔道具をいくつか取り出して見せると、アルバートは子供のように目を輝かせた。


 どれも魅力的な品だ。ただし、それだけではない。しばらく説明を続けた後、私はふっと言葉を切った。


 ――さて、ここからが本題だ。


「……実は」


 わざと声を落とし、アルバートを覗き込む。


「これ、全部密輸品なんです」

「なっ……!?」


 きれいに固まった表情を見て、私は肩をすくめた。


 正真正銘の本物――だが、関税をすり抜けた裏物だ。盗品でも偽物でもないだけに、なお始末が悪い。


「どうやら輸入途中の業者が仕組んでいるようで、その分を着服してるらしいです」

「ほう……? 処罰するか」

「ええ。ですが、気をつけてください。一部を捕らえても代わりが出ます。流通網ごと断たなければ意味がありません」


 突き詰めれば国境管理の問題に行き着く。『異変』で監視が緩んだ今なら、業者は好き放題に抜けられる。しかも流れているのは、この魔道具だけにとどまらない。


「他の商店にも密輸品が大量に潜んでいまして。……おそらく国境の貴族が黙認しているはずです。でなければ、こんなに流れ込むはずがありませんから」

「なおさら、早急に対策をせねばな」

「お願いしますね」


 軽く微笑んで返す。実は今のうちに、このルートを密かに潰しておきたいという事情もあったり――


「放っておくと、どこかの侯爵家(・・・・・・・)辺りが利用して勢力を広げるだろうからな」

「……あはは。ご明察です」


 どうやら全部バレているらしい。さすがアルバート。


 そう。これは国のためだけの話ではなく、私自身にとっても切実な問題だった。


 国境の貴族の背後にいるのはラリマー侯爵家、つまり私の両親だ。まだ表立って動いてはいないが、『利用する側』に回る危険は常にある。


 だからこそ今のうちに、その芽を根から摘み取らねばならない。


「あ、今回買った商品の関税については、私が個人的に納めておきますので」

「真面目か」


 不正品と知っていて買った以上、後ろめたさはある。それを告げると、彼はニヤリと笑った。


「安心しろ。その分は、件の業者と貴族から根こそぎ吐き出させる」

「た、頼もしいです」


 ……いや、頼もしいどころかちょっと怖い。変なスイッチを入れてしまった気がするが、その勢いのまま突っ走ってくれるなら好都合だ。


 関係者は震えて待つことになるだろう。




 気がつけば、窓から差し込む光は赤みを帯びていた。


「もうこんな時間ですか」


 今日伝えるべきことは伝えたし、魔道具の説明も一通り済んだ。そろそろ帰らせていただこう。


「では、今日はこの辺で――」


 そう言って立ち上がりかけた瞬間、制止する声が飛んできた。


「待て、ルージュよ。何か忘れてはいないか?」

「……はい。黒幕の話ですね」


 観念して座り直す。テーブルの上の魔道具を箱に片付けつつ、さりげなく話を終わらせてみようとしたが、誤魔化せなかったらしい。


「奴の様子を見てきたのだろう? ルージュが買い物だけで済ませるとは思えん」

「お察しの通りです」


 アルバートの私に対する解像度はだいぶ上がっているようだ。


 確かに私があの店に向かった理由は商品購入だけではない。黒幕が無事かどうかを確認するためでもあった。


「その様子だと問題はなかったのだろうが」

「でなければ買えませんからね」


 黒幕が無事でないと困る理由の一つがこれだ。彼が生きているからこそ、あの魔道具屋は成り立つのだ。幸い命に別状はなさそうで、ほっとしているが……敵の無事を喜ぶとは、妙な話だ。


 ちなみに店に行くことは、事前に伝えてある。案の定ついて行きたがったので、それは断固として止めた。


「やはりダメか?」

「この国を恨んでる相手の店に、よりによって王太子が行くなんて、正気じゃありませんよ?」


 煽りすぎにも程がある。キレられても知らんぞ。


「冗談だ、冗談。しかし……恨み、か」


 アルバートは箱の中に収められた魔道具を見つめ、真面目な声色で続ける。


「奴はイクリール家の者だろう? どうしてそこまでこの国を恨んでいる? 国外追放からだいぶ時間が経ってるはずだが」


 彼のその疑問はもっともだ。だけど、それにはちゃんと理由がある……のだが。


「それは……」


 答えを探して逡巡しているのが表情に出たのだろう。すぐに彼は気を遣うように言葉を継いだ。


「ルージュよ。昨日から黒幕の話を避けているように思えるのだが、もしや話しにくいことでもあるのか?」

「……そうですね」


 見抜かれているならこれ以上隠しても仕方ないだろう。素直に頷いて、今度はこちらから問いを投げた。


「追放された理由、ご存じですか?」

「確か『政治的不正』と伝わっているが……違うのか?」

「……そんな単純な設定で、このゲームの敵キャラが務まると思います?」


 私の言葉にアルバートはしばらく考えた後、神妙に口を開いた。


「思わないな」


 ですよね。思い当たる節があるらしい。


「本当のことを知りたいですか?」


 問いかけると彼は数秒目を閉じ、それから私を見て静かに頷いた。


「ああ」


 その様子に迷いはない。ならば私も覚悟を決めるしかないか。


「では、お話ししましょう。ただし――その前に」


 私は立ち上がり、窓の外へ視線を向けた。これから語るのは、彼にとっても、この国にとっても避けられない真実だ。


 そこに選択肢はない。


「場所を変えましょう」


 彼に見せなければならないものがある。


 明日も更新します

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