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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
二章

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 あと少しで六月になる頃、私とアルバートは二人きりでいつもの部屋に集まっていた。


「ゲームのメインシナリオが始まって大体二ヶ月経ちましたけど、どうでした?」


 私は対面に座ったアルバートに聞いてみる。すると、彼は軽く腕を組んだまま口を開いた。


「……正直に言っていいか?」

「どうぞ」

「こんなに大変なことになるとは思わなかった」

「わかる……!」


 これまでの道のりを思い返し、二人で深く頷き合う。


 今日集まった目的は一つ。これまでの反省会であった。


「思い返せば、あれもこれも、ほとんどエレナさんのせいですけどね」

「うむ」


 私のため息混じりの言葉に彼は大きく頷く。開始前に二年間準備しておいてこんなに苦戦したのは、彼女が初っ端から私と敵対してきたからだ。


「なぜあれほどまでにルージュを悪役にすることにこだわるのか、全く理解できんが……」

「ですね」


 初対面の時なんて、私は突き飛ばすどころか手を出してすらいないのに彼女は自分で吹っ飛んで倒れてみせた程だ。今考えるとあれは割と体を張っている。打ちどころが悪かったら普通に怪我するぞ。


 というわけで、この二ヶ月大変だったのはエレナが隙あらば私を陥れようとするためである。


「彼女の動きを制限することになりましたしね」

「そのためにサブクエをいくつかクリアしたんだったな」


 サブクエ一つ目は好感度の上下を大きくする指輪を入手できるクエストだった。これは私が一人でクリアしておいたので、エレナは好感度上げがやりにくくなった。


「ところで、あの指輪はどうしたんだ?」

「……ちゃんと部屋にしまってありますよ」


 嘘です。今も持ち歩いてます。使う場面を見極めれば強力なアイテムだから、すぐに手の届く場所に置いておきたい。とはいえ、あからさまに使うのは控えたいところではある。


 サブクエ二つ目はワープ魔術の解禁だった。二人でウサギの魔物を追いかけて捕まえたクエストである。


「……あの魔物は捕まえるのが大変だったな」

「でしたね。でもワープは便利です」

「ああ。ただひたすらに便利だ」


 遠出もしやすい、家に一瞬で帰れる。生活だけでなく攻略やレベリングにも便利である。


 あまりにも便利すぎてエレナには使えないようにしておいたことがちょっと申し訳ないレベル。でも彼女が好き放題に動けるようになったらもっと厄介なことになるだろうから仕方ない。


「次は最初のメインクエストでしたけど……」

「あれか。実質、俺が一人でやったやつだな」


 なんだかんだで彼が一人で終わらせた精霊探しのクエストだったが、あれでエレナの厄介さが見えてきたわけだ。まさかあれ以降も彼女が人任せで何もしないことを貫くとは思わなかったけど。


「余計なことは頻繁にしていたがな」

「そうでしたね……」


 呆れたようなアルバートの言葉に、さまざまな悪事を私になすりつけようとしてきたエレナの行動を思い出す。それは次の魔術試験でも同じだった。


「魔術試験……正直、あれは普通に危なかったですね」


 あの魔術暴走は非常に危険だった。一歩間違えば大事故になっていただろう。なのに、それすらも私の失態にしようとする彼女の執念には驚くばかりだ。


 ペアを組んでいたダリウスが守ってくれたが、今思えばあの時点での彼のレベルは高くなかったはずだし、あれは根性だけで防御していたのだろう。さすが防御力の化身、困った時に真っ先に盾にされがちなキャラ。


「……結局、ルージュの魔術を妨害した犯人は謎のままか」

「はい」


 状況からしてエレナの説が濃厚だが、やはり彼女にはそこまでの強さを感じない。これに関しては早急に解明する必要があると改めて思う。


「次のメインクエストは学園内の魔物退治でしたね。……何か言いたいことはありますか?」


 アルバートが煽ったせいでダリウスが必要以上に頑張って空回っていたわけだが。


「それは悪かった」

「もうしないでくださいね」

「……善処する」


 それはある意味お断りのセリフなんですよ。まあ、彼ならば大きなミスはそうそうしないだろうから大目に見よう。


「あの通信機は便利だったな。従者にも持たせたい」

「通信機ですね。あれは──」


 その一言でふいに通信機越しに聞いてしまった彼のあの言葉を思い出す……って、あれはダリウスを納得させるための方便なので! 気にしない気にしない!


 ……気を取り直して。


 そしてそのクエストの後、ダリウスから家族の話を聞いた私たちは彼を助けることに決めた。


「そういえば、ルージュも祠の神と会ったんだな」

「はい。『秘策』のためですね」


 話を聞くに、どうやらアルバートは今もちゃんと神の祠の手入れや話し相手をしているらしい。相変わらずマメだ。マメすぎるせいでシナリオ前にうっかり目覚めさせてしまったが。


「一つ、気になることがあるのだが」

「なんですか?」

「あの神、一向に名前を教えてくれない」

「あー……」


 彼の名前はもちろんゲームの知識として知っているけれど、勝手に教えるのは憚られる。彼にとってその名前は特別なものだ。仲良くしていればいつか話してくれる日が来る。


「なるほど。ならば気長に待つとしよう」


 この後はダリウスの家族のための薬を得るために動いていた。材料を集めたり、神にバフをかけてもらったりして薬師の元へ向かったのはつい最近のことである。


「あの時、ルージュが躊躇いなく毒沼に入るから驚いてしまったな」

「……あはは」


 むしろ私は二人が驚いているのを見て驚いたが、よく考えれば彼らの方が正常だった。毒沼に突っ込むのは普通に考えてヤバいのよ。気をつけないと。


「魔物とも戦いましたね」


 途中でダリウスが覚醒したおかげで勝てたが、やっぱりゲーム後半のエリアの魔物は強かった。どう見てもデカ目の羊なのにめちゃくちゃ強かった。


 でもあれは序の口なのである。


「実はあの場所、あの羊よりも強い魔物も普通に出現するんです」

「なんと……! 俺たちはそんな危険地帯を歩いていたのか」


 その反応に軽く頷くと、彼は恐ろしいものを見る目で私を見た。


「つまり、あの薬師は強力な魔物が蔓延る場所に住んでいるということか。只者ではなさそうだが、何者なんだ?」

「かつて凄腕の冒険者だったという噂がある人ですよ」

「本当に只者ではなかった」


 若い頃から冒険者として名を馳せ、同時に薬師としても活動していた人物らしい。これはゲーム内のフレーバーテキストから得た情報だ。


 そうした背景がなくても、彼の作る薬の効果を見ればその実力は一目瞭然。薬を飲んだダリウスの家族は順調に回復してきている。


「それにしても、ダリウスを味方にできて本当によかったです」

「ああ」


 アルバートは目を閉じて頷く。敵対していた時の彼は本当に厄介だった。正義感が強いのはいいが、思い込みが激しくて話を聞かないタイプな上に、追い詰められていたために荒れていた。


「あいつはだいぶ変わったな」

「確かに……」


 実は先日、『態度を改めた方がいいか』と今更すぎることを聞いてくるダリウスに私たちは思わず笑ってしまったのだ。


 だけど、口調くらいならば別に学生のうちは構わないだろうし、急に丁寧にされても違和感がある。外では気をつける必要があるが、学園内では今まで通りに接してもらうことにした。


 どうやら鍛錬も順調なようで、無事に騎士になる日もそう遠くないだろう。


「これからは全面的に協力してくれると言ってたな」

「そうですね。でもエレナさんとはこれまで通りに接してもらいます」


 彼女の気分を損ねないためにも、あくまで表向きの関係は変えないほうがいい。


 これに関してはダリウスは同意しながらも、やっぱり少し納得がいかないようである。彼女には散々嘘をつかれてたし、信頼できないのだろう。


 彼曰く、「エレナってもったいねぇよな……色々と」らしい。


 確かに見た目は可愛いし、『精霊の姫君』という特別な存在なのに、ただただ性格が残念すぎる。



「こうして思い返すと、色々あったな」

「忙しい二ヶ月間でしたね」


 私たちは顔を見合わせて笑う。この先の十ヶ月も波乱の連続だろうけれど、きっと乗り越えられる気がする。


 ──ということで、反省会終わり。


「それで、話は変わるんですけど、アルバートにちょっとした提案がありまして……」

「なんだ?」


 私は少しもったいぶりながら話を切り出す。


「今回ダリウスの件が解決したわけですよね」

「ああ」

「ところでダリウスといえば……気になることはありませんか?」

「気になること……?」


 不思議そうな表情の彼に、私は意味深に笑みを浮かべながら続ける。


「例えば──ダリウスルートのデートイベントとか」

「! デートイベント……だと!?」


 うん、期待以上の反応だ。


「もし興味がありましたら一緒に行っ「行く! いつにするんだ?」……えーと、週末とかはどうでしょう」


 ……食い気味どころか思いっきり被せてきたよこの人。


 その勢いに少し引きつつも、思いのほか楽しそうな表情をしている彼に私は苦笑した。


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