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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
二章

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「今日買ったものの目的ですか。いいでしょう」


 私はアルバートの疑問に答えることにする。あまり意地悪をするのも良くないし、隠す理由もないだろう。


「大半は薬師に渡す薬の材料と後で使う強化素材です」

「大半、ということは他にもあるのか?」

「はい」


 私は少し間を置いてから続ける。


「残りは例の祠の神に渡します」

「!」

「ふふふ、どういうことかといいますとですね──」


 一瞬驚いた後、興味深そうに目を細めて考え込む彼にその『秘策』の具体的な内容を伝えると、彼はとんでもないことを聞いてしまったといった表情で「嘘だろう……?」と呟いた。


「嘘じゃないですよ。もちろん、アルバートも一緒に行くんですからね」

「それは構わないのだが、なんというか、色々と大丈夫なのか……?」


 心配そうにする彼の言葉に、笑いながら「ゲームでもできたんで多分大丈夫です」と軽く返すと、彼は少し不安げな顔でこちらを見たが、最終的には渋々頷いた。



 学園に戻るためのワープポイントがあるのは街外れの森の中だ。静かな道には高い木々が並ぶ中、周囲に人影はなく、並んで歩く私たち以外の気配もない。


 先ほどの賑やかな街中とは全く違い、夕暮れも合間って薄暗く、ちょっとした異世界のようだった。


「……こうも静かすぎると何か出そうだな」

「大丈夫ですよ」


 ワープポイントは安全な場所にしか存在しない。基本的に人目につかない場所にあるが、周囲に敵は出現しない仕様になっているのだ。ワープした瞬間エンカウントしても困るし。


 私の言葉に安心した様子の彼に苦笑しつつ、私はなんとなく道端の草むらに目を向けた。


 そのとき、不意に淡い光が視界に入る。


「……あれ?」


 こんなところに光るものはなかったはずだ。私はすぐに光の方へと足を向けた。


「待て、少し様子を見た方が……」

「大丈夫です。この感じは──」


 制止する彼の忠告を軽く流し、草むらをかき分ける。そこには小さな光の玉が落ちていた。


『……』


 それは淡い青白い光を放つ丸い体に、透明な羽を四枚持つ精霊だった。羽は弱々しく震え、光も今にも消えそうに揺れている。


「やっぱり精霊でしたね」

「これは……弱っているのか?」


 肩越しに顔を覗かせたアルバートに私は頷く。


「はい。これも『異変』の影響ですね」


 精霊を見つめながら考える。この街は精霊王の繭から離れているため比較的安全だが、それでも影響が出てきているのだろう。この周辺の精霊は隣国へ避難するはずだが、逃げ遅れてしまったのかもしれない。


『──、……』


 精霊の小さな声がかすかに聞こえる。


「これはおそらく魔力が足りていないんだと思います。少し分けてあげれば……」


 私は精霊にそっと手を伸ばし、手のひらに掬い上げる。そして、鳴き声をあげる精霊に向けて目を閉じ、魔力の流れに意識を集中させた。指先から温かな感覚が広がり、魔力がゆっくりと精霊に流れ込んでいく。


『──!?』


 徐々に精霊の光が強まり、羽が震えるように動き始めた。


「ほら、元気になってきましたよ!」


 魔力を与え終えると、すぐに精霊はふわりと浮かび上がり、私の周りを軽やかに飛び回る。そして、一瞬明るく光ったかと思うと、森の奥へと飛び去っていった。


「よかった……もっと向こうまで行くんですよ」


 その光の軌跡を見送り、胸を撫で下ろす。だが、これは一時的な救済に過ぎない。このままでは再び魔力を失い、弱ってしまうだろう。早く隣国の方へ逃げられればいいのだが……それはあの精霊次第だ。


「しかし、まさかここまで『異変』の影響が届いているとは想定外だな」

「ええ」


 彼も今の光景を見て理解したのだろう。この『異変』が精霊たちに及ぼす影響は既に想像以上に深刻になっていること。そして、これからどんどん進行していくことを。


「早く解決に向けて進めて行きたいですね」

「そうだな。そのためにはエレナに……」

「……どうしました?」

「ああ、いや、」


 エレナの名前を出した途端に黙ってしまったアルバートに声をかけると、彼は少しだけ困ったように眉を下げて笑った。


「いっそのことルージュが『精霊の姫君』だったら良かったと思ってな」

「それは……私じゃ力不足ですよ」


 (ルージュ)自体に特別な力はない。『姫君』の力は主人公(エレナ)の特権だ。本来、この世界は彼女のための物語なのだから。


「だとしてもだ。もしそうだったら俺は今よりもずっと助かっていたのだがな。ルージュはちゃんと協力してくれるだろう?」


 冗談半分の軽い口調のアルバートに私は思わず「確かに」と笑ってしまった。


 ディスられてますよエレナさん。まあ、彼女は今のところ最低限しか動いてないから仕方ないか。……頼むからもう少し役に立つ方向で働いてください。お願いします。


「仮に、お前がルージュではなくエレナに転生していたらどうだったんだ?」

「今よりずっと楽だったとは思いますね。やり方も全部わかっているので」

「ならば俺も簡単に攻略できると?」


 そう言って少し挑戦的な表情をした彼に私はニヤリと口角を上げながら答える。


「……ゲームのアルバート、慣れてれば割とチョロいんで自信ありますよ」

「チョロい……!?」


 それから私たちはそんなくだらない会話をしつつ、学園へ戻った。


 悪役に転生してしまったのは正直大変だが、だけどこの境遇を恨んではいない。全部手探りだが、私はこれはこれで楽しくやっている。




 そして数日後の放課後──私はいつもの部屋に入るなりテーブルに突っ伏していた。


 ……楽しくやっているようには見えない? 今はそうである。


「……どうしたんだ?」


 その様子を見て、向かいに座ったアルバートが恐る恐る声をかけてくる。


「……私はもうダメです」

「本当にどうした」


 私はその体勢のまま顔だけ上げて彼に向き直る。


「聞いてくださいよアルバート……ダリウスが話をしてくれないんです」

「なんと」


 午後の柔らかな光が部屋に差し込む中、私は挨拶もそこそこに愚痴をこぼし始めた。


 ダリウスとは今朝どうにか薬師の所へ向かう話をつけようとしたがうまくいかなかったのだ。挨拶は返してくれるものの、話しかけようとすると「忙しい」「用事がある」と言い訳をされて逃げられてしまう。先日、啖呵を切って出て行った手前、彼も気まずいらしい。


 せっかく準備が整ったのに、これでは先に進めない。


「というわけで、もう私にはどうしようもないです……」


 私がエレナなら、もっと上手いやり方があったのかもしれない。でもルージュとしては、どうすればいいのか全く見当がつかない。


 いや、手探りでも楽しくやっているけど、やっているけど! なぜか次々と妙な問題が降りかかってくる!


「ちゃんと準備したのにこんなことで詰むのは嫌すぎる……!」

「……っふふ」


 ヘナヘナと力が抜けた私を見て、アルバートは堪えきれないように笑い出した。


「なんで笑ってるんですかぁ……」

「悪い、ここまで弱っているのは久しぶりだと思ってな」


 ジト目で見つつ文句を言うと、彼は笑いながらも謝罪をする。


 彼が言うように確かにここまでどうしようもないのは一年次の最後のダンスの時以来かもしれない。あの時は結局踊れないままだったけれど、楽しかったな、と少し懐かしく思う。


 そういえばしばらく見ていないけどウォルターは元気かな──


「それで、今回はダリウスをどうしたいんだ?」

「あ、はい。それはですね──」


 アルバートの言葉で強制的に思考が引き戻される。そうだ、現実逃避している場合ではない。私は考えていたこれからのプランを彼に伝える。


「というわけで、どうにか説得して薬師のところまで連れて行きたいです。それと、行く場所が場所なので、彼のレベリングもしたいんですよね」


 連れ出すのはもちろん、行き先は物語の後半のエリアで魔物は強敵ぞろい。それなりの準備が必要になるだろう。私たちのレベルなら問題ないが、ダリウスはどう考えても力不足だ。防御力が高いとはいえあの程度では全然足りない。


 それにあの素振りの鍛錬ではレベリングの効率が悪すぎるし、なんとか魔物狩りをさせたいのだ。その方が強くなれるから彼としてもハッピーなのではないだろうか。


「なるほどな。レベリングをして連れて行きたいと」

「はい、なのでこれから──」

「それならば今回も俺がなんとかしてみせよう」

「……えっ」


 私のセリフを遮った予想外の言葉に驚いて顔を上げると、彼は何か思いついたようなどこか楽しげな笑みを浮かべていた。なんだかすごく嫌な予感がする。


「えっ、とはなんだ」

「いやあの……一応言っておきますけど、絶っっっ対に余計なことをしないでくださいね?」

「余計なこと? 俺が余計なことをすると思うか?」

「はい。しそうです」


 以前、彼がダリウスを煽って怒らせた前科を思い出し、警戒を込めて釘を刺す。だが即答した私に対し、彼は肩をすくめて心底愉快だと言わんばかりに笑うだけだった。


「大丈夫だ、悪いようにはしない。俺を信じてくれ」


 疑いの目を向ける私に対し、自信満々に頷くアルバート。


「本当ですか……?」


 ……何だかめちゃくちゃ不安だが、私にはどうにもできなさそうな以上、彼に託すしかなさそうだ。


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