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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
二章

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 普段は静寂に包まれている森は、今は生徒たちの声で賑やかだ。高い空から陽光が木漏れ日となり、地面に模様を描く。そんな穏やかな雰囲気の中、


「その態度、なんとかなんねぇのかよ」

「こちらのセリフですわ。少しは協調性を学んでいただけませんこと?」


 試験開始早々、私たちはしょうもない言い合いをしていた。ダリウスの喧嘩腰な言葉に対し、私は笑顔を貼り付けて応じる。


 こんな相手でもペアはペア。決まってしまったものは仕方ないので気を取り直し試験に臨もう。


 一つ目の試験内容は、制御魔術を駆使して小さな魔物を指定の位置に導くというもの。見た目とは裏腹に、高度なテクニックが求められる課題だが、


「てめぇみたいなやつには無理だろうな。こういうのは──」

「そちらが無用な力を使わなければ、簡単に終わりますわ」

「は?」


 彼の言葉を遮るように、私はきっぱりと言い返した。そしてそのまま魔術で魔物を操り、手際よく課題をクリアする。そして次の試験への準備に移ろうとすると、彼は無言でこちらを見ていた。


「……」

「何か文句でもありまして?」

「……ねぇよ」


 やっと返ってきた言葉は、どこか不満げだったが、それ以上の反論はないようだ。


 この魔術試験は指定された条件を満たし、その達成数に応じて評価が下される仕組みだ。なのでこういった私にとって簡単なものは素早く終わらせる方が効率が良い。


「さて、ダリウス様。次に行きますわよ」

「……俺に指図すんじゃねぇ」


 相変わらず不機嫌丸出しの態度に、内心ため息が出るものの、彼のペースに巻き込まれないよう意識を切り替える。


 試験内容は全部覚えているが、ゲームとはペアの相手が異なるので勝手は違うだろう。お助けキャラである彼女は魔術に秀でているので、主人公はかなり助けられたものだ。


 とはいえ、ダリウスも真面目に試験を受ける気はあるようなので、今のところ大きな問題なく進めそうである。


「はー、とっととおわんねぇかな」

「……」


 いちいちうるさいけど。



 さて、二つ目は探索魔術の試験だ。地面に魔法陣を描き終えた私は、細かな砂を指で払いながら立ち上がり、淡々とした口調でダリウスに声をかける。


「ダリウス様、そちらはどうですの?」


 返事はない代わりに、森の奥から何やら音が聞こえてきた。何事かと見てみると、彼が剣を振り、雑草や木の枝を次々と切り払っているのが目に入った。本当に何をしてるんだ。


「……何をなさっているんですの?」

「見りゃわかんだろ」

「………………それは魔術ではなく伐採ですわ」

「うるせぇ」


 なるほど、さては魔術で解決する方法を忘れたのか。授業でやったんだけど。少なくともこの方法では評価は得られない。ゲームでは詳しい描写はなかったが、彼はこの試験、大丈夫だったのだろうか。……少なくとも今回、彼を戦力に含めない方がいいだろう。


 私はため息をつき、周囲の風景を確認した。頭の中にはもちろんこのイベントも鮮明に記憶されている。


 この試験では、森に隠された魔石を探し出す必要がある。先ほど私が描いていたのは探索魔術の魔法陣だ。これを起動させれば魔石はすぐに見つかるので、当たり前だが伐採の必要はない。


 ……まあ、それはいい。問題はここからだ。


 試験の中盤、この魔法陣をミスした生徒によって引き起こされる『魔術暴走』というイベントが発生する。主人公とお助けキャラが暴走した魔術に立ち向かい、力を合わせて解決した二人はお互いを称え合い親友となるのだ。


 肝心のエレナがこの試験に参加していることは既に確認してあるし、彼女が中心となって解決する展開になるはず。


 記憶の通りならば、おそらくそろそろ起こる頃だろう。そう思い、私は無意識に身構えた。あのエレナのことだ、場合によっては手助けする必要もあるかもしれない。


 そう思案した次の瞬間、森の奥で地面を揺らすような低い爆発音が響き渡った。


 ──早速来たか。突然の異変に皆が何事かとざわめく。


 ダリウスも音の方向に顔を向け、顔をしかめた。


「なんだ? ……誰かやらかしたのか?」

「あら、見に行くんですの?」

「何かあったら困るだろ」


 意外にも理性的な返答に、私は少し驚きつつも、彼の後について音の方向へ向かった。騎士を目指しているだけあって、こういった状況では冷静に行動できるようだ。



 二人で爆発音の元へ駆けつけると、そこには一人の生徒がいた。


「……おい、どうした?」

「ひっ……!」


 彼は恐怖に怯えながら崩れた魔法陣の前に膝をついている。その周囲では、渦巻く魔力が次第に形を変え、灼熱の炎となって燃え上がっていた。


「んだよ、これ……」

「ち、違う! 俺は失敗しただけなんだ!」

「あ、おい待て──!」


 ダリウスが声をかける暇もなく、生徒は泣きながら言い訳し、背を向けて走り去る。


 暴走した魔術は大気を震わせながら拡大し、地面を焦がしていく。すでに周囲の木々は黒焦げになり、倒れているものもあった。熱風が私たちの顔を撫でる。


「……おい、これどうするんだよ」


 ダリウスが呆然と呟く。


 この場でどうするか考えるよりも先に、私はエレナの姿を探す。ゲームではここで彼女たちが来てこの暴走を魔術で封じるのだ。


 周囲を見回すと彼女はすぐに見つかった。少し離れた場所で、ペアのお助けキャラと共にこちらを見ている。よし、二人が来てくれれば暴走を抑えられるはず──


 ──だが、その期待はすぐに裏切られた。


 彼女の視線は一瞬私たちに向けられた後、すぐに興味を失ったかのようにそらされる。そして、彼女たちは別の方向へ歩き出した。


 えっ……どうして?


 予想外の展開に、思わずその場で立ち尽くす。これはゲームと違う。彼女が動かなければ──


「おい、このままじゃ……!」

「……っ」


 ダリウスが焦りの声を上げる。教師は近くに見当たらない。だが呼びに行く余裕はないだろう、思っていたよりも炎の勢いが強く、すぐに大規模に拡がりかねない。


 こうなったら、私がやるしかないだろう。ここで何もせずに見過ごすわけにはいかない。


「……わたくしが魔術で封じますわ」


 私の言葉にダリウスは目を見開く。


「はぁ? てめぇが止めるって、本気で言ってんのか?」


 呆れと不安が混じる声。それを無視し、私は毅然とした態度で答えた。


「……ええ、本気ですわ。わたくしがやらなければ誰がやるのです?」


 私の気迫に押されたのか、彼は短く息を吐き、剣を握り直した。


「……ったく、仕方ねぇな!」


 で、どうするんだよと言うダリウス。


 私は前世の知識を総動員して考える。確かこの状況を止めるには、暴走する魔力を一か所に集中させ、それを封じ込める魔術を使っていた。そしてこの魔術には魔法陣と呪文が必要。それならば私でもできる。


「わたくしが魔法陣を描きます。その間、あの炎がこちらに来ないように防いでくださいませ」

「はぁ? 防ぐって、どうやって!?」

「どうって魔術で……」


 と言いかけて気がつく。そうだこの人はお助けキャラじゃない。目の前の彼は騎士団長の息子で腕力はあるものの、魔術については得意じゃない。


「……っ、剣でも何でもいいから、炎をはじき返してください!」

「はぁ!?」


 言葉に力を込めると、彼は一瞬顔をしかめたものの、強く剣を構えた。


「くそっ、無茶苦茶言いやがって……わかったよ、やってやる!」


 私は地面に膝をつき、素早く魔法陣を描き始めた。その間にも暴走は勢いを増し、燃え盛る火柱が周囲を照らし、炎の熱が私の頬を焦がしていく。木々の燃える音が耳をつんざき、灰が空に舞い上がって視界を曇らせる。


「早くしてくれ!」


 ダリウスが剣を振り上げ、迫り来る炎の塊を叩き落とす。剣に込められた微弱な魔力が火花を散らす。


 震える手を抑えながら魔法陣を描き進める。しかし、その瞬間、暴走した魔力が突然形を変えた。それはまるで意思を持つかのように渦を巻き、燃え上がる炎が一気に広がって私たちに向かってくる。


「おい、もう無理だろ!」

「……っ、あと少しですわ!」


 必死で答えるものの、心の中は焦っていた。ゲームでは幾度も見た光景だが、自分がその場に立たされると、成功する保証はどこにもない。


 ──あと少しで魔法陣が完成する。だが、それよりも速く、目の前の炎の渦がさらに勢いを増し、私を飲み込もうとしていた。


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