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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
一章

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24

 

 寮の自室でくつろぎながら攻略チャートのノートをペラペラとめくっていく。既に負けイベントから二ヶ月が経過していた。


 あの『精霊王の異変』のイベントを終えるとすぐに、繭を含む精霊王の巣の周辺は禁足地として国中に周知されることになり、人々に大きな衝撃を与えた。


 私たちの学園も例外ではなく、冬季休暇が明けると校内は異様な空気に包まれており、全校集会で校長が改めてこの事態の説明を始めると、生徒たちの間にはざわめきが広がった。


「まあ、急にあんな得体の知れないものが現れたらそうなるというか」 


 不安に怯える者、興味本位で騒ぎ立てる者、ただ静観している者と、その反応は様々だった。中には肝試し感覚でこっそり行ってみようだなんて言う者もいた。やめとけ、死ぬぞ。


 もちろん『精霊王の異変』について全てを公にしたわけではない。一般に広められたのは『森の中に正体不明の巨大な球体が出現し、その周囲が立入禁止区域に指定された』という情報だけだ。混乱を避けるために国王陛下がそのように決定したらしい。


 それでもその知らせは民衆の不安を掻き立てるには十分で、特に森に近い地域に住む人々から生活に影響が出てしまうことから反発の声も上がっているようだ。



 冬季休暇明けにいつもの部屋に行ったとき、アルバートは酷く疲れた顔をしていた。『異変』への対応に追われていたということもあったのだが、


「父上のあんな顔、初めて見た……」


 どうやら彼は『異変』に独断で向かったことについて、ウォルターだけでなく国王陛下にも厳しく叱責されたようだった。少し悔しそうな表情をしている。


「やっぱり怒られちゃったんですね」

「なっ……! 知っていたのなら先に教えてくれてもよかったのではないか……?」


 アルバートが不服そうな表情でこちらを見つめてくる。


 だけど、これに関しては『多分このあと怒られたんだろうな』と推測できる程度しかゲームの中では情報がなかった。つまり確証がなかったのであえて伝えてなかったのである。別に意地悪をしたかったわけではない。


「そ、そうか……」

「なんというか、ドンマイです」


 まあ、散歩だと偽って城を抜け出した挙句、ボロボロの姿で帰還したのだから普通に怒られるだろうとは思っていたが。しかしウォルターはまだしも、親からも怒られるのはさすがに堪えたのか、彼はしばらくしょんぼりしていた。


 ちなみに彼は『単身で向かった』ことになっているので、何もしていないことになっている私はお咎めなしだ。なんだかちょっと罪悪感がある。


 余談だが、あの時アルバートが村人を助けに飛び出したのは、自分の決断が村人を危険にさらす結果となったことへの責任感だったらしい。繭に入らなければ、偵察機と村人が鉢合わせすることもなかったかもしれない──そう考えたという。


 そう言った彼は、ゲームでの彼とどこか違うように見えた。


 本来の彼なら村人を見捨てる選択もあっただろうと思う。平民一人と王太子である彼自身を比べればどちらが重要かなんて一目瞭然であるのだから。


 しかし今の彼は、なんとなく棘が取れ、腹黒さが減ったように感じる。もともと根は善良なのは知っているが、こうして真正面から向き合える方が私にはずっと接しやすかった。


 ……ゲームの話になると急に思考がバグるのか、時折とんでもない選択をしていたりもするのだが。



『──、──?』


 私の部屋で飼っている精霊は元気にふわふわと浮いている。『異変』の直後は精霊王からの影響を受けたのか少し弱っていたが、魔力を与えたら回復した。


 しかし、野生の精霊はこれから力を失いどんどん死んでしまうだろう。心が痛むが今はどうしようもない。


「どうにか早めに解決できればいいんですけどね……」


 こればかりは主人公たちの頑張りに掛かっている。



 一方で私は、あの負けイベントから戻ってから、(ルージュ)に対して興味のない両親からは何か言われることはなかったのだが、


「姉上。休暇中にお帰りにならなかったのはなぜですか」

「……えーと」


 先日、ようやく屋敷に戻った途端、冬季休暇に帰らなかった理由を根掘り葉掘りノアに問い詰められる羽目になった。


「少し……一人になりたい気分でしたの」

「……それはなぜですか」


 屋敷に帰らなかったのは、学園の図書館にこもって魔術書をひたすら読み漁っていたからである。いざというとき役に立つかもしれないので、少しでも多くの魔術を習得しようと考えていたのだ。だけどそれを正直に話してさらに理由を追及されるのも困る。


「いえ、特に理由があったわけではありませんわ」

「…………そうですか」

「ええ、そうですわ」


 全然納得していなさそうだ。何かを疑われているのだろうか。いやまさか私も監視対象だったりする? もしやウォルターからそれも引き継いだ感じですか?


 もうすぐシナリオが始まる中、成長したノアの姿を改めて見ていると思わず感慨深くなった。今の姿はもうゲームで見たそのまんまだ。二年間で背も高くなり、今はもう彼を見上げる形になっている。あの可愛かった頃も懐かしいが、この成長した姿もまた良き。……という現実逃避。


「……」

「……」


 無言で見つめ合う。彼は相変わらず棒読みだし、無表情だし、目にハイライトもないけど、意思疎通と会話は以前よりしっかりできるようになっていた。でも少し強気になった部分もあり、全然引いてくれない。油断すると逃げ道を塞がれる気がする。


「な、何か気になることでもありまして?」

「いいえ……ですが」


 少し沈黙があって、彼はためらうように言葉を続けた。


「その……姉上に何かあったのではと」

「……!」


 なるほど、『異変』が起きた後でもずっと帰宅しなかった私を彼は心配してくれていたのか。……えっ、心配してくれたの? こんな悪役みたいな義姉を? 優しい弟を持って、お姉ちゃんは嬉しくて泣きそう。でも申し訳ないけど本当のことは言えそうにないです。


 なので私は「心配しないで」と笑顔でごまかして話を終えた。こんな感じでノアとは仲良く(?)やっている。


 ノアといえば侯爵家の悪事の件だが、どうやら両親の計画が少しずつ動き出したらしい。このままいけばシナリオ開始と重なり、そこから先は実質ノアルートの再来となるだろう。もちろん策はいくつかあるが、さて、どうしてくれようか。頼むからバッドエンドだけは勘弁してほしい。


 ──と、色々ありつつも、負けイベの後始末は無事に終わりを迎えつつある。



「ふぅ……次はどうしましょうか」


 ノートを閉じ、頭を巡らせる。色々試みているものの、やはりある程度の強制力があるのか、今のところおおよそゲームのシナリオに向かって進んでいるように思える。結局、私にできるのは自分がやれることを尽くすだけ。


 シナリオ開始までまだ少し時間があるし、今できる対策は全部やったはずだ。あとは──レベリングを兼ねてレアアイテムでも集めに行くか、それともボス戦の下見をしに行くか、あるいは乱数調整の練習でも試してみるか。そんなことをぼんやりと考えていた。




「ルージュ、ちょっといいか?」


 シナリオ開始まで一ヶ月を切ったある日、アルバートに呼び出された。理由を聞けば現状確認をしたいとのことで、私は素直に頷いた。


「以前、ルージュが言っていた通り、今年の夜会は中止になった」

「そりゃそうですよね」


 わかってはいたが、『異変』が起きているこの状況下では夜会が中止になるのも無理はない。


「そして……『精霊の姫君』を発見したという報告が調査隊から上がっている」

「! 見つかったんですね。やっぱり三年次からここに来るんですか?」

「ああ。既に本人から同意は得ていて、今は転入の手続きをしている段階だそうだ」

「それは……」


 ついに、『精霊の姫君』──このゲームの主人公が転入してくる。つまり、シナリオの幕が切って落とされるのだ。そして本来、私はこのゲームでの悪役。彼女に倒される立場だ。


 そのことに少し不安もあるが、今はそれよりもワクワクする気持ちの方が勝っていた。


「楽しみですね!」

「そうだな。ついにこの時がやってきた……!」


 ゲーム通りの出来事もあれば違うこともあるだろう。それが良い方向に転がるように祈ろう。


 お互い励まし合いながら現状確認を終える。そろそろ戻ろうかというタイミングで、アルバートが私を見つめ、言葉を発した。


「それで、話は変わるのだが、」

「なんですか?」


 いったい何の話だろう、と一瞬戸惑う。しかし、彼は少し緊張した様子でためらいがちに視線を向け、やがて意を決したように口を開いた。


「よかったら……今度一緒に出掛けないか?」


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