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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
一章

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「ん……?」


 意識がぼんやりと浮上する。体が何かに揺られていることに気づき、目を開けた。ゆっくりと頭を持ち上げ周りを見渡すと、周囲の景色がぼんやりと流れていく。


 あれ、生きてる? 崖から落ちたんじゃなかったっけ。


「やっと目覚めたか」


 すぐ近くからウォルターの声が聞こえる。え? なんで? 視線を下に向けると彼の肩が……ってこれ背負われてる!?


「あんた馬鹿か?」

「……はい?」


 軽いパニックに陥っていると、背中越しに呆れたような声が飛んでくる。


 いやちょっと待って、どういう状況!?


 戸惑いながら尋ねると、ウォルターは軽くため息をついて答える。


「あんたが崖から落ちたんだよ。ったく、覚えてないのか?」

「それは覚えてますけど……なぜウォルター様がわたくしを背負って……?」


 状況がなにも掴めない。


 しかもウォルターの猫かぶりが外れているし。なんで? いいのか、素が出ているぞ。


 落ちてからの記憶が全くないのであれからどうなったのかと彼に問うと、私が下に向かって魔術を使い勢いを殺したこと、そして崖下に溜まっていた雪がクッションになったことにより二人とも無事だったと説明してくれた。


 へー、と他人事のように思いながら上を見ると垂直な崖が聳え立っている。


 ……え、たっか。高さ50メートル以上あるでしょこれ。


 この高さから落ちて普通に生きているのは丈夫すぎるだろう。前世だったら普通に無理だ。


 しかも落ちた時にウォルターをかばっていたようで、私は彼の下敷きになって気絶していたらしい。それで済むあたりゲームキャラってすごい。


「なんで俺をかばったんだ」

「それはこちらのセリフですわ」


 なんで私が落ちる時にウォルターは腕を掴んだのか。私に対して特別な感情を抱いているわけではないだろうし、そもそも邪魔だと思われていそうなものだが。


「……腹立つけど、あんたがいなくなったらアルバート様が悲しむだろ」


 なるほど、アルバートのためか。なら納得。


 ……ていうかちょっと! すっかり忘れてたけどアルバートは一人にして大丈夫なの? ドラゴンはどうした?


 私が一人焦っているとウォルターはすぐに言葉を続けた。


 あの後すぐに傷を負ったドラゴンは逃げたらしい。背を向けて飛び去ろうとしているのを確認してから来たと言う。


 そして落ちてからすぐに魔術で連絡を取ったらしく、アルバートとのメッセージのやり取りを見せてくる。雑に手渡された紙を見れば確かにアルバートの筆跡で大丈夫という旨が書かれている。どんな魔術を使ったのかと聞いたが、それは機密事項だとか。


 案外しっかりしている。てっきり考えなしに勢いで来たのかと思った。


「んなわけあるか」


 あ、聞こえてた。


「で、なんでかばったんだよ」


 そうこうしているうちに段々落ちた時のことを思い出してきた。なぜ私はウォルターをかばったのかといえば、彼のレベルが低そうだったからだ。ゲームでは落下は固定ダメージ。もし低レベルの状態で落下したらHPが少なくて即死する可能性がある。


 ウォルターはちょっとムカつくけど彼が死ぬのは嫌である。


 ……とは言えるはずもなく。


「……な、なんとなく、ですわ」

「なんとなくって……あのなぁ、そういう対処は自分でできるように教育されてんだよこっちは。あんたみたいなご令嬢様にかばわれる筋合いはないっての」


 ですよね。さすがに王太子の従者だけあって非常時の対応は叩き込まれている。甘く見てごめん。小さく頭を下げながら心の中で謝る。


 ていうかさっきから背負われっぱなしじゃない? ……なんだか恥ずかしくなってきた。


「そ、そろそろ降ろしてくださいませ。わたくしは自分で歩けますわ」

「そうかよ」


 そう言うと予想外に丁寧に降ろされて少し驚く。全身を確認してみると、いくつかの軽い擦り傷や切り傷があるだけで大きなダメージはなさそうだ。至って軽傷。どうなっているんだ本当に。


 平然としている私を見たウォルターがぽつりと呟いた。


「……化け物か?」


 失礼なやつだな。いや自分でもちょっとそう思うけど。


 これはおそらく私のレベルがそれなりに高いからである。例えば最大HP30で50ダメージ食らったら死ぬだろうけど、HP1000なら50くらい大したことではないって感じ。早めにレベリングしてて本当によかった。


 ……ゲーム終盤、回り道が嫌でショートカットしようと容赦なく崖を飛び降りて移動していたことを思い出したが、あれって現実ではこんなことをしていたのか。恐ろしや。


 それにしても軽傷だな、そこまでレベリングしてないはずなのに。そう不思議に思っているとしゃらり、と胸元から音がする。


 手で押さえてみて気がつく──これ、あの時の防御力強化のペンダントだ。


 そうか、これがあった。これで防御力が上がっていたからこの程度で済んだのか。もしかしてドラゴンの攻撃を防げたのもこれのおかげ……?


 そっとペンダントに触れると少しだけ温かさを感じた。ありがとう、アルバート。そして白テーブル。


「……ふふ、アルバート様のおかげですわ」

「はあ?」


 小さく笑みを浮かべながら呟くと、ウォルターが不機嫌そうに眉をひそめた。


「そもそも、元はと言えばあんたがアルバート様をこんなところに連れてくるからこんなことになったんだ」


 アルバート様をこんな危険な場所に連れてきたことが原因だ、お貴族様の道楽に巻き込みやがって。なんでこんな変なやつがアルバート様の婚約者なんだ。侯爵家は叩けば叩くほど埃が出るしどうかしている。……などなど、侯爵家や私に対する不満をすごい速さで次々と口にする。ひええお手を煩わせてしまい本当に申し訳ない。


 でも侯爵家のそれはもっと叩いてください、存分に。塵一つ出なくなるまで。


「……お仕事を全うしてくださって何よりですわ」


 そう返すと彼は驚いたような顔をした。あれ? さては私が監視を頼んだ張本人だと知らなかったな?


「いったい何のためにそんなことを」

「このまま悪事を放っておくのはさすがにどうかと思いましたので……」


 放置したら断罪が待ってるわけですし。死活問題なんですよ。


「それに、わたくしが今日こちらにアルバート様を連れてきたことにも理由がありましてよ」

「教えろ」


 彼には大分迷惑をかけてしまったこともあり、簡単にだが教えることにする。言っても信じられないだろうけど、と前置きしてから。


「……これから先、遠くないうちにアルバート様が戦わなければならない時が来るのです。そのためにできる限り鍛えておきたいのですわ」


 そして今回の魔物の群れはそれにちょうどよかった。ドラゴンの襲来は予想外だったとも。


 ゲームのことは教えられないが、これくらいならいいだろう。ウォルターは意味がわからないという顔をしている。だよね。


「なんだそれ、予言か?」

「似たようなものですわ」

「……そんなものを信じろと?」

「ええ。なにも起こらなかったらお詫びに土下座でもなんでもいたしましょう」

「へえ……言ったな?」


 ウォルターがニヤリと意地悪そうに笑った。


 げ。嫌な予感がする。思わず自信満々で言っちゃったけど本当にこの先シナリオ通りに進むよね? ……よね!?


「と、とにかく! わたくしにも理由があるのです。それをご理解なさってくださいませ」

「あー、はいはい。よくわからないけど、わかったわかった」


 ウォルターはため息をつき、少し疲れたように目を閉じた。なんて雑な対応、さては理解を諦めたな?




 アルバートの元に戻るため足を進めると、「そういえば」とウォルターが口を開く。


「……あんたは驚かないんだな。俺がこんな態度で」


 神妙な顔で言うウォルター。ごめん、それ最初から知ってた。だから今さら素の姿が出てきても別に驚きはしない。むしろなぜ急に素に戻ったのかの方が気になるのでそちらを教えてもらおうか。


「あんたがわけのわからないことばかりするから面倒になった」


 えっ、それってヤケクソになったってこと? なんかごめん。


「ふふ……随分と大きな猫をかぶってましたわね?」

「おい」


 不機嫌な目で睨んでくるが、そのまま軽く笑ってやり過ごす。


「という冗談はさておき。わたくしは別に気にしませんわ。そのように公私を分けている方はたくさんいますもの。そうでしょう?」

「……そういうもんか?」


 なんだそのセリフは。なんか自信なさそうじゃない?


「なんです? ……ああ、もしかして自分が貴族じゃないことを気にしていらっしゃるの?」

「! な、なぜそれを」

「これは…………勘ですわ」

「勘って」


 ……設定集に書いてあるから知ってるとは言えない。


 ちなみに設定ではアルバートの従者は彼以外は皆、それなりの地位の貴族の出だったはず。その中で自分だけが平民だということにはこんな性格悪そう(失礼)なウォルターでもさすがに引け目を感じるのか。意外だ。


 でも、彼の悩みなんて杞憂でしかないわけで。


「それはさておき、よく考えてごらんなさい? アルバート様が身分だのなんだの、そのような細かいことを気になさると思いますの?」

「それは……」


 ウォルターは考え込む。アルバートを近くで見ている彼のことだ。下手したら私よりもよくわかっているだろう。


 元々のゲームの腹黒王太子なアルバートだって、使えるものはなんでも使うタイプの人間だった。貴族だの平民だのは気にしていない。


 そもそも、主人公の『精霊の姫君』だって平民なのだから、気にしていたら恋愛なんて始まらないのである。


「……気にしないだろうな」

「でしょう? ではあなたも気にする必要なんてありませんわ! そんなことよりきちんと仕事ができるかどうかの方がアルバート様にとって大事でしょう?」

「はは、違いない」


 そう言うと、ウォルターはいつもの演技ではない表情で少しだけ笑った。




 さて、おしゃべりはそこそこにして早く崖の上に戻ろう。


 改めて周囲の状況を確認しようと辺りを見回すとなんだか既視感があった。……うん、なんかここ、見覚えがある。ゲームで何回かお世話になったような。しかもちょっとよくない意味で。


 でもまあ、それはいい。


「どうした? とっとと行くぞ」

「ええ、でも──」


 先へ進むその前に、一つ確認したいことがある。


「ウォルター様。あなた、足を怪我していますわね?」



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