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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
一章

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「やっっっとサブクエストの時期が来ました。ということで明日は魔物を狩りに行きましょう!」

「いや待て。まずはサブクエストとやらについて詳しく」


 おっと、テンションが上がりすぎて思わず声が大きくなってしまった。目の前でくつろいでいたアルバートが興奮した様子の私を見て困惑している。


 先日のレベリングから一週間ほど経った今日、学園で魔物の大量発生の注意が出た。渡りを迎えた魔物が群れているから森に行かないようにとのお達しが出たのだ。


 この知らせに私はテンション上がった。そう、これが待ちに待ったサブクエスト。そして居ても立っても居られず放課後に急いでアルバートを呼び出しここに来た。しかも明日は休日、すぐにでも行きたいのである。


「だからサブクエストというのはなんだ」

「はい、それはですね──」


 というわけで具体的にサブクエストについて説明しよう。


 サブクエストは放置してもクリアに支障のない、つまり別にやらなくてもいいクエスト。だがその代わりに世界観の深掘りができたり、レアアイテムが手に入ったり、攻略対象の好感度を上げやすかったりと様々な美味しい報酬がある。やらなくてもストーリー自体は進むが、やっておくと後々すごく役に立つというわけだ。まだシナリオの開始前だが、ものによっては十分にメリットがあるだろう。


「役に立つ?」


 アルバートはまだピンときていないようで少し考え込んでいる。そこで私はさらに具体的に話すことにした。


「今回のサブクエストに出てくる魔物、すごくレアなんですよ」


 このサブクエストの対象の魔物は非常にレアなもの。出現率が低く、普段はゲーム内で二日探し回って一体出るかどうかというくらいの激レア魔物だ。実際に転生してから隙間時間に何度か探してみたものの、まだ半年で二体しか見たことがないくらいだ。


 しかしこの魔物、年に二回、夏と冬に渡りの時期が来ると群れを成す習性があるのだ。これを狩るのが今回のサブクエスト。実は夏にもあったのだが、当時は私のレベルが足りなかったので断念した。でも今なら行ける。今なら大量に狩れる。


 ここまで説明するとアルバートの興味が少し引かれたのがわかる。


「ふむ。それで、そのレア魔物を狩るとどうなるんだ?」

「それがすごいんですよ!」


 私はさらに熱を込めて説明を続ける。


 このレア魔物だが、その体から得られる素材が後々アイテム交換や装備の強化に必要になってくるのだ。しかも必要な量もかなり多いため、初見ではほとんどのプレイヤーが素材不足で探し回ることになる。そんな厄介な素材をこのクエストでは短時間で大量に集めることができる。後で素材が足りなくなったら嫌なので今のうちからたくさん集めておきたいというわけである。これもまた攻略の知恵だ。


「装備の強化というと」

「そうですね~アルバートのあの剣も後々この魔物の素材で強化できますよ。威力も220から350になります」

「350!? それは……いいな!」


 自分の武器の強化という話に食いついたアルバートの目が輝いた。よし、あと一押し。


 しかも魔物自体はそこまで強くないし経験値も多い。だから大量に狩れば一気に強くなれる。そんな一石二鳥の美味しい稼ぎクエストである。墓地で幽霊を狩るよりも効率が良い。これでどうだろう、行きたくならないか?


 私の説明にアルバートは大きく頷いた。


「それは……行くしかないな!」

「ですよね!」


 その返事に私は拳を握りしめた。やった! これでサブクエストに挑戦できる!


「もちろん俺も一緒に行くぞ」

「あれ、結構乗り気ですね」


 レベリングは若干嫌そうだったのに、なんでだろうと思う私に彼は続ける。


「ルージュ一人だと無茶をしそうだからな。見張らないと危ないだろう?」


 アルバートは苦笑しながらそう言った。


 ……ぐうの音も出ない。


「では善は急げだ。早速明日狩りに行こうではないか!」


 そう言いながら無邪気にはしゃぐアルバートを見つめる。うん。私たちはいつも通りである。


 あの夜のアルバートにドキドキしたのはやっぱり気のせいだったのだろうか。




 翌日、朝早くにアルバートと合流した。準備万端でテンションが高い私とは対照的に彼は少し落ち着いた様子で私を待っていた。


「やる気満々だな」


 とアルバートは微笑んで言った。あれ、昨日のテンションはどうした? こんな感じでスタートするのかと少し拍子抜けした瞬間、視界に別の人物が入ってきた。それは最近侯爵家でよく見かける姿で──


「……ウォルター?」


 私は驚いて目を見開いた。王家の影、アルバートの従者であるウォルターがなぜここにいるのか。いやちょっと待て、侯爵家の監視はどうした。理解が追い付かず混乱していると、申し訳なさそうな顔をしたアルバートが小さな声でこっそりと私に話した。


「……実はウォルターが偶然城に戻ってきていて」


 どうやらアルバートが剣を取りに城に戻ったところ、状況の報告のため城に戻っていたウォルターと鉢合わせてしまったらしい。そしてどうにか誤魔化そうとしたが全く誤魔化せず、ここまでついてきてしまったという。


 ひええ……さすがウォルター、監視性能が高すぎる。アルバートまで監視しているとは。有能だけれどやっぱりちょっと怖い。


 でも来てしまったものは仕方がない。とりあえずウォルターに挨拶しよう。


「ウォルター様もいらっしゃったのですね。本日はよろしくお願いいたしますわ」

「ええ、よろしくお願いいたします」


 お互い頭を下げたものの、なんだかウォルターの目つきが冷たい気がする。目の奥が笑っていない。怖い。



「ルージュ様。王太子であるアルバート様を魔物狩りに連れ出すとは……少し軽率だとは思いませんか?」


 はい、ごもっともです。


 目的地に向かうため歩き出すと、ウォルターが私だけに聞こえるような抑えた声量で話しかけてくる。私を鋭く見つめ、まるで咎めるような口調だ。背後からの低い声に思わず身震いした。


「それほど危険性が高い魔物ではないと聞きましてよ。アルバート様なら問題なく倒せますわ。ですので……その、大丈夫ですわ」

「……へえ?」


 自分でも薄い言い訳だと思いながらも、なんとか彼を納得させようと説明する。しかしウォルターはじっと私を見つめたまま表情一つ変えない。


 ……やばいやばい、変な汗出てきた。これ、後ろから刺されたりしないよね?


 ここでウォルターの具体的なキャラクターについて簡単に説明しよう。


 実は彼はかつて貧しい平民だった。幼い子供の頃からその日暮らしをしてどうにか食いつないでいた彼は、ある日大きな怪我をして路上で身動きが取れなくなってしまう。誰も見向きもせず、このままでは死んでしまうとこの世界に絶望していたところをお忍びで街に出ていて偶然通りかかったアルバートに救われたという過去がある。


 それから彼は命を救ってくれた恩を返すために果てしない鍛錬の末にいつしか王家の影になりアルバートに仕えているのだ。


 彼を一言でいえば『アルバート至上主義者』である。同担拒否かどうかは知らない。


 そんなウォルターだが、実はゲームでは攻略対象のように選択肢が出たりちょっとしたイベントがあったりする。だがしかし攻略することはできない。そもそも彼には告白イベントがないのだ。好感度を上げてこちらから告白してもやんわりと断られてしまう。そのため彼を攻略対象だと勘違いした多くのプレイヤーたちはその現実を知り、涙を流したという。そしてガッツのある淑女たちは攻略対象IFの二次創作を作っていた。強い。


 そのことを先日アルバートに話したところ、「ありだな。いっそのこと攻略されてしまえばいい」と言っていた。


 いいのか、それで。お前の従者だぞ。


 もちろん例によって顔もいい。本当になんで攻略対象じゃないんだ? 追加コンテンツでの攻略対象化が期待されていたけれど結局なかったし。大人の事情? 主人公との接点が少ないから? ……真実は闇の中である。開発よ、なんか言ってくれ。一言でいいから。


「ルージュ様」

「!? ……な、なんです?」


 考え事をしていたらそのウォルター本人に声をかけられて肩が跳ねた。ていうか本当になんでこの人毎回背後から話しかけてくるの? わざとだよね?


「今回は大目に見て差し上げますが……アルバート様の安全が最優先です。それを忘れないでくださいね?」

「は、はい……」


 アルバートに聞こえないくらいの小さな声だけど威圧感のある低い声が私の耳に届いた。


 ひえええ怖い!


 冷たい言葉に何も言い返せなかった。ウォルターの忠誠心は深く、そして強い。彼の目から見れば私は婚約者だからと主を危険にさらす相当無謀な存在なのだろう。なんかごめんよ。


 小さくため息をつくと後ろで起こっていることなど何も知らずに前を歩いていたアルバートが軽く笑いながら話しかけてくる。


「ルージュ、あまり無茶はするなよ」

「もちろん、わかっておりますわ」


 私は軽く答え、さらに先へ進む。本当はアルバートが無茶をしないように見張るつもりだったが、結局彼も私を気にかけてくれている。そういうところがアルバートらしい。


 そのまま歩きながら、ふと背後を見るとウォルターが少しだけ距離を取ってついてきている。目が合えば彼の冷たい視線が突き刺さった。うーん。さっきからウォルターの私を見る目が厳しくてなんかやりづらい。でも戦力が増えるからまあいいだろうか。ゲームでは進め方によっては味方として共にクエストに挑めるのだが、戦闘能力はかなり強めのキャラなのだ。できるだけたくさん狩りたいし背に腹はかえられない。


 ということで、細かいことは気にしない気にしない! 気にしたら負け!



 そうこうしているうちに森の入り口に着いた。この先に魔物の群れがいる。さあ、気を取り直して狩りの時間だ。


 冷たい風が吹き抜ける中、私たち三人は森へ足を踏み入れた。


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