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【連載版】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。【三章更新中】  作者: 折巻 絡
一章

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10


 突然だが、現在時刻午後8時。私たちは寮を抜け出しレベリングをしている。


「これは……正気か?」

「正気ですよ」


『ぎゃぎゃぎゃぎゃ!』


「うわっ本当に大丈夫なのかこれは!?」

「大丈夫大丈夫」


 例の剣を構えたアルバートが、目の前でギチギチに密集して奇声を上げる半透明で不定形の魔物たちを見て慄いている。


「本当か……?」


 いやガチビビりじゃないですか。


 でもまあ、怖いよね。夜だし、ここ墓場だし、これ多分お化けだし、十五体くらいいるし、しかもそれが全部一か所に重なってワサワサしてるし。なんなら普通に魔物の方が割とレベル高いし。


 この大量の幽霊っぽい魔物には私も初見でビビったものだ。でも今ではただの美味しい経験値稼ぎポイントなのである。慣れって怖い。


「本当に大丈夫ですので私を信じて一気にズバッとどうぞ! 勢いよく! はい!」

「くっ……!」


 覚悟を決めたらしいアルバートが剣を横に振れば、魔物たちはまとめて真っ二つになり聖なる光に浄化され消え去る。


 よし、まずは一回、多分いい経験値が入っているはず。


 アルバートはまるで何か変なものを踏んだみたいなものすごく嫌そうな顔をしているが、細かいことは気にしない気にしない。


「うわあ……」

「いやー、爽快ですねー。やっぱりレア武器は切れ味が違う! じゃあもう一回呼び出しますね!」

「また!? こ、これが……レベリングというものなのか!?」

「あーはい、そうですねぇ」


 ごめん。魔物の動きと地形の仕様の穴をついて一か所に集めて一気に仕留める超効率重視の邪道なレベリングです。廃人御用達のやつです。バグじゃないけどバグみたいなものです。


 ……口には出さない。言ったらなんだか怒られそうだから。


 今は何も考えずに出てきた魔物を切って切って切りまくるんだアルバートよ。ここの魔物、なぜか呼び出せば無限に湧くから飽きるまでできるぞ。


 早速私の魔術で呼び出された哀れな魔物たちがまたフラフラと移動しながら一か所に集まっていく。それをなんだかとても遠い目をしたアルバートがまた切り捨てる。


 うんうん、いいペースいいペース。このままレベリングしてお前をみっちりと鍛え上げてやるからな。覚悟しろ。


 これは別にウォルターを差し向けられた恨みからではない。あいつが毎回後ろから気配なく声を掛けてくることの八つ当たりでもない。


 それならなぜ私たちがこんなスパルタなレベリングをしているかというと、来たるべきメインシナリオの対策である。




 転生してから半年が過ぎた冬のある日のこと、私は放課後に学園内のいつもの部屋でアルバートが来るのを待っていた。


 そろそろメインシナリオについて彼に伝えなければいけないことがあったのだ。


「待たせたなルージュ、それで大事な話とはなんだ? もしかしてメインシナリオとやらの話か!?」


 少し経つとアルバートは軽やかな足取りで部屋に入ってきた。期待しているところに大変申し訳ないが、今から話すのは難しい話です。


「メインシナリオの話といえばそうですけど、でも今回は少し真剣な話なんです」


 一歩踏み出しそう切り出すと、彼はすぐに姿勢を正した。


「その、真剣な話とは」

「……その前にまずは確認なんですけど、例えばアルバートはこの先『大変なこと』が起こるとしたら、具体的に知りたいですか?」

「ああ。知っていて損はない」


 予想通りの答えだ。だけど今日はそれだけではない。


「……もしそれが止めることのできない、『変えられない運命』だとしても、それでも知りたいですか?」

「! それは……」


 私の言葉に彼は一瞬だけ瞳を揺らしたが、やがて真剣な表情でゆっくりと口を開いた。


「聞かせてくれ」


 やっぱり聞くことを選ぶようだ。自分の攻略シナリオについて聞いてきた時もそうだが、結構度胸がある。


 私は一度深呼吸し、覚悟を決めて話し始める。


「では、話しますね。これからこの国に──いや、この世界に起こる大きな危機について」

「世界の危機……」

「はい。来年の冬、この国を中心に大きな異変が起こります」


 この世界ではほとんど全てのことが精霊の力を中心に回っており、ここに住む人々は精霊の加護に依存した生活を送っている。


 だが、ある時その生活を脅かす重大な問題が発生する。


 精霊王に異変が起こり、世界中の精霊たちの力が弱まってしまうのだ。精霊王は精霊たちの源であるため、その力が失われれば国全体が崩壊の危機に瀕する。


 実はこの精霊王の異変は周期的に訪れるもので、数百年に一度、精霊たちの力が弱まってしまうのだが、


 それが始まるのが来年の冬なのである。


「……」


 私の言葉にアルバートは静かに目を細めた。彼は王族だ、精霊の存在がこの国にとっていかに重要かをよく理解しているだろう。


 精霊たちの加護がなければ農作物は育たず、自然災害や魔物からの防御も崩壊しかねない。実際、前回の異変ではいくつかの国が滅び多くの命が失われたという記録がわずかに残されている。


 攻略対象のシナリオもそうだが、このゲームのメインシナリオもそこそこシリアスなのだ。明確なハッピーエンドが用意されている分、まだ良心的だけど。


 世の中には最初から最後までみっちりとバッドエンドしかないゲームもあるから。某鬱ゲーとか。うん、それよりはずっとマシ。



 アルバートはしばらくの間、黙って考え込んでいた。その視線はテーブルの上に落ち、やがて再び私の方に向けられた。


「して、それを未然に防ぐ方法がないというのか?」


 私は首を縦に振った。


「起こること自体は防ぐことはできませんね。精霊王の異変──これは一種の寿命のようなものなんです。……でも、それに対抗できるのが、」

「『精霊の姫君』というわけか」


 その通り。この世界で唯一の希望は彼女の存在だ。


 ゲームのシナリオによれば精霊王の異変に抗う方法はただひとつ──『精霊の姫君』がその力に目覚め、精霊と心を通わせ力を引き出し、精霊王を正しい状態に戻すこと。


 徐々に滅びに向かう未来に怯え絶望していた国に突如現れた『精霊の姫君』。彼女はまさにこの物語の主人公であり、救世主である。


 そもそも主人公が『姫君』として覚醒するのは、彼女が精霊たちの助けを求める声を聞き、それに応えるように力が目覚めることによるものだ。


 このゲームのシナリオは主人公が『精霊の姫君』として輝くための物語。


 彼女のために(・・・・・・)異変は必ず起きる。それがこの世界に定められた運命なのだ。


「……という感じです」

「では、俺たちはそれを受け入れる必要があるのか」


 アルバートは静かに目を伏せた。


「そうです……でも嫌ですよね?」

「嫌だな」


 彼は私の言葉に静かに頷いた。ですよね。たとえ現実を受け止める覚悟が既にできていても国が滅ぶかもしれないのは普通に嫌である。


「しかし俺たちにできることはあるのか?」

「被害を減らす方向ならあります」

「ほう」


 異変の影響はシナリオ開始時ならまだそこまで大きくなっていない。そしてメインシナリオは所定のクエストを全てクリアできればハッピーエンドになる。


 つまり『姫君』が現れ次第、クエストを急いで消化すれば被害を最小限にできるということ。


「なるほど。……というと具体的にはどうするつもりだ?」

「まずはレベリングですね」

「レベリング」


 レベルが高ければ難易度の高いクエストにも早い段階で挑めるし、失敗することも減る。そしてそもそも『姫君』の力を必要としないクエストならば我々だけでも先にクリアすることはできるのだ。


 だから今の私たちにできることは未来に備えて自身を鍛え抜くこと。シンプルだがそれが最善である。


「そう言えばルージュは以前からそのレベリングとやらをしていたようだが、具体的にどうやって力を強化するんだ?」

「あ、もしかして結構興味あります? ある感じですね? では実際にやってみましょうか! 早速今日から行きますよ!」

「ま、待て、嫌な予感がするのだが──」


 何かを察したのかジリジリと後退りするアルバートを素早く捕まえた。ふふふ、私から逃げられると思うなよ。




 ──そして冒頭に至る。


「ル、ルージュよ。俺は、これで、強く、なった、のか?」

「なってますよ。……多分」

「多分」


 そんなこんなで今日のレベリングを終えた私たちは今、墓場から少し離れた野原に腰を下ろしていた。


 アルバートは大量の魔物を切り捨てたため息も絶え絶えになっている。


 ちなみに多分と曖昧な回答をした理由は、ゲームと違って鍛えてから強くなるまでに変なラグがあったからだ。実際にレベリングをしてみた私がそうだったので、どれくらい強くなったかはまだわからない。


 彼が力の成長を体感するのはもう少し先だろう。筋トレだってやったその日に急にムキムキになるわけじゃないし、納得感はある。そういうところは妙に現実的だ。


 おそらく二日後くらいから変化を自覚し始めると思う。なんだか中年の筋肉痛みたいだ。


 とにかくしばらくはこれを繰り返してレベリングをすることになる。頑張ろうねアルバート!


「ある程度強くなったらもっと効率がいいところがあるので、いつかそこに行きましょうね!」

「あ、ああ……そう、だな……」


 なんで若干嫌そうなんだ。



 しばらく休憩してアルバートの息が整った頃、私たちは寮に戻ることにした。


 月明かりの下、静かに並んで歩いているとアルバートがふと思い出したかのように声を掛けてきた。


「……ところで精霊王とその異変についてだが、具体的に何が起こるのか教えてくれないか?」

「あ、そういえばまだ詳しくは話してませんでしたね」


 私も自然と歩みを緩めながら彼に向き直った。


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