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正露丸?

「本当はイなんですけど、ブルース・リーの映画が好きだったのでリーと名乗ってるんです。それにそのほうが呼びやすくないですか?」


 リーくんことイ・ソジュンさんはいい人だった。韓国から日本の大学に留学中にこのデスゲームに連れてこられたらしい。


「異世界もののアニメとかよく観てたので、正直そんなに戸惑わなかったですね。ゲームみたいで楽しいです」


 おれの横を歩きながらニコッと笑う。イケメンだ。日本語の発音も完璧。そして前向き。


「な、なるほど。こちらの……世界?にはもう長かったりとかしたりしたりするんですか?」


 質問してみるも、なんか緊張してむしろこっちの日本語がおかしい。


「もう1年近くになりますね。運よく凛さんのパーティに入れてもらえてラッキーでした」


「リーくんはねえ、初めての武器でも使いこなせるんだよ。剣も槍も盾も弓矢も。素手でもめっちゃ強いし。ほんといい拾い物だったよ!」


 前を歩いていた木下さんが振り返って自慢げに言う。


「いやいや、使いこなすってほどじゃないですよ。それに軍隊で少し格闘技やナイフの扱いを習ってましたからね。ゼロからのスタートじゃないんです。むしろ地球で何もやってなかったのにモンスターをバシバシなぎ倒せてる凛さんこそとんでもないですって」


 なんでもリーくんは徴兵経験があるらしい。なるほどなろう読んでゴロゴロしてた日本の若者(おれ)とは違うんだな。


「あはは、わたしの場合は武器が超特別だからね! どこの軍隊でもぜったい習えないもんね!」

「ふふっ、違いないです」


 二人して笑いあっている。どうやら木下さんは何か特殊な武器術の使い手のようだ。なんだろう……ヌンチャクとか? 


 しかし武器か。やっぱプレイヤーはみんな普段からブラックなんとかみたいなモンスターと戦わされるんだろうな。手の込んだデスゲームだし。不安になってきたな。


「あの〜、これから行く薬草採りって危険だったりするんですか? おれ、武器はこの錆びた剣しか持ってないんですけど……」


「大丈夫だよ〜! 今日は森の入口付近にしか入らないからね。その辺ならほとんどモンスター出ないし、出ても素手で追い払えるレベルだよ。それに今日はわたしたちベテラン冒険者が2人もいるんだから、ここらで出るモンスターなんかちょちょいのちょいだよ。大船に乗った気持ちでいてくれたまえ! がっはっは!」

「ほ、ほほ〜」


 立ち止まり、腰に手を当て仁王立ちで笑う木下さん。ヘコヘコと相づちを打ってしまうおれ。


「あのね、リーくんは薬草類を集めるのもベテランなんだよ。すっごい見つけるの早いの!」

「あはは、ぼく昔からそういうの得意なんですよ。妹たちと四つ葉のクローバー探すときもいつも真っ先に見つけてましたしね」


 リーくんが腰につけた小さな布袋から緑の葉っぱを出して見せてくれた。どうやらこれが採取対象らしい。


「斎藤さん、これが新人冒険者の収入源の柱である【ふつうの薬草】です。特徴的な形をよく覚えておいてくださいね。この葉っぱを1日に500枚集めたらじゅうぶん食べていけますから」


 葉は少し乾燥しているが鮮やかな緑だ。渡してくれたので手にとって観察する。


「はあ、トランプのスペードみたいな形ですね……あ、いや、茎の付いてるとこが逆向きだ」

「そうですそうです。むしろハート型なんです。それが特徴なので他の草とまちがうことはほぼないと思います」


 なんでも、根っこや太い茎は不要で、葉だけ摘むのがいいんだとか。成長が早いので、根から抜かなければ数日でまた葉をつけるそうな。繁殖力が強いなんてちょっとドクダミみたいだな。


「葉っぱをやぶらないよう細い茎ごと取って、茎のところで束ねて100枚ずつにまとめると買い取り査定が早いですよ。あまり小さい葉は摘まないほうがいいです。じゅうぶん大きな葉であれば、100枚で銀貨1枚になります」


 なるほど、銀貨1枚が約千円だから、毎日薬草の葉500枚集めれば日給5千円か。3千円の宿ならなんとか生きてける計算だ。それに、草丸ごとなら100本でも相当キツそうだが、葉っぱだけなら500枚という数は現実的に聞こえる。


「ありがとうございます。よく分かりました」

 やっぱりこの人は親切ないい人だ。


 しかしだ。あらためて手の中の葉を見る。乾燥しているとはいえせいぜい3センチ程のただの葉っぱだ。本物のゲームじゃあるまいし、こんなもん何百枚集めても銀貨つまり貴金属の塊と交換するほどの価値が本当にあるのかね。

 モンスターに噛まれて大怪我しても、これを食べたらあっというまにHP回復〜♪…なんてあり得ないよなあ。


「こんな葉っぱが本当に効くのかって思っている顔ですね」


 リーくんに見透かされてしまった。


「あはは、疑いの気持ちは分かるけど、薬草は超実用的だよ〜」


 木下さんにも軽くダメ出しされた。


「えっ、するとやはり、ゲームのように立ちどころに怪我が治ったり……?」

「あはっ、怪我にも効くことは効くけどねえ」

「ええ、冒険者や行商人が薬草を買うのは主に違う理由ですねえ」


 また2人でクスクス笑う。その反応におれがムッとする前に、デキる男リーくんが正解を教えてくれる。


「これには、水の浄化作用、あるいは殺菌作用があるんですよ。それも強力な。乾燥した葉を1日1枚水筒に入れておくだけで、生水に当たらなくなるんです。風味もちょっとスッキリしますしね。だから旅をする人はみんな何束か持ち歩いてるんです」


「おお……なるほど〜」


 それは予想以上に実用的だ。

 でもなんか、RPGの【やくそう】というより正露丸みたいな扱いだな……

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