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はじめての冒険者ギルド

 まだまだ質問したいことは色々あったが、木下さんが「暗くなる前に登録しちゃおう」と言うので、おれたちは冒険者ギルドなる場所に向かっていた。


「いちおう、ギルド自体は24時間やってるんだよ」


 先を歩きながらも補足してくれる。


「でも日が暮れてから出歩くとちょっと危ないんだよね。スリとかいるし。衛兵さんに見つかるとしかられるし」


 急にクルッと振り向く。


「そうそう、24時間って言ったけど、ここじゃ1日は12時間なんだよ」


 説明しながら後ろ向きに歩く。あぶないな。子どもっぽくてかわいいけども。


 何でも、江戸時代のような独自の時制があるらしい。約2時間で1刻、12刻で1日。刻にはそれぞれ(日本の酉の刻、丑の刻的な)現地語の呼び名があるらしいが、言葉が分からないうちは覚えなくていいし、そもそも現地の人も面倒がって基本数字で呼んでいるとか何とか。

 ムダに凝った設定だな。とにかく異世界であることを強調してくるんだな。レベルとかモンスターとか冒険者ギルドがあるテンプレ世界観のくせに。


 他にも、ここは道具屋だとかあっちは武器屋だとか、木下さんの案内を聞きながら歩くこと約30分、おれたちは冒険者ギルドの建物に着いた。


「到着だよ〜。ここが冒険者ギルドアルコン本部! ルーフィードでも5本の指に入る大きな拠点なんだって」


 たしかにデカい。木造だが3階建てで、並の小学校より大きな建物だ。辺りはもう夕暮れ時だが、ひっきりなしに人――【冒険者】なのだろう、兵士と異なり、それぞれバラバラの剣や鎧を身に着けている――が出入りしていて活気がある。いかにも荒くれ者という感じの筋肉質な男が多い。傷跡の目立つ者もいる。ちょっと怖いかも。


「新規登録は1階の一番奥だったかな。ついてきてね」


 人混みをぬってズンズン進む木下さんを追いかける。

 ギルド内は独特のにおいがした。獣臭いような、ハーブのような。あちこちランプがついているが、電灯に慣れた身からするとやや薄暗い。いや運営、Wi-Fi引けるんだからLEDとか取り付けてもいいだろ。雰囲気ばっか重視しやがって。

 そんな薄暗い廊下を歩きながらも彼女は時々、他の冒険者と何かしらあいさつを交わしている。この辺りでは有名な冒険者だというのは嘘じゃないようだ。ここにいる全員が演技してない限りは。


「あったあった、ここだよ」


 人気のないカウンターのようなところに通される。冒険者登録の受付窓口なのだろう。こういう場所には、なろう小説だと美人な【受付嬢】がいるんだよな。エルフだったり猫耳だったりの。その美女ないし美少女スタッフが、ギルドの決まりを手取り足取り教えてくれたりするわけだ。


「ン?」


 しかし、顔を上げてこちらを見たのは、とうに還暦は過ぎてそうな白髪のおじいちゃんだった。白髪でヒゲモジャで、どこかサンタクロース感がある。


「リン、ロンタイ、シーノ。アシン、ビーロウ?」


 そして安定の異世界語だ。何言ってるか分からんので手取り足取りもクソもない。


「シーノ、シーノ、グパパ、シェロン! ビー、ヴル、サブミン、リーニュー」


 木下さんも笑顔で謎言語のセリフを返す。いやルーフィード語というやつなんだろうが、本当に意味のある内容を話してるんだろうか。デタラメしゃべってるわけじゃないよな?


「斎藤さん、このおじいちゃんはシェロンさん、ベテランのギルド職員だよ。今から冒険者登録してもらうから、わたしが通訳するね」


 他に新人もいなかったので、登録作業はサクサク進んだ。シェロン氏がぼそぼそと資料を読み上げ、木下さんがそれを訳してくれる。


 いわく、冒険者には8つのランクがある。それぞれに金属の名前がついており、あえて日本語にするなら、下から順に、鉄級、銅級、銀級、金級、魔鉄級、霊銅級、聖銀級、神金級である。ランクに応じた金属製のカードが支給され、それはどこの街でも通用する身分証になる。ただしおれのような新人は見習い扱いであり、現時点ではランク外である。


「見習い期間中は冒険者証が木の板だから、正式な名前じゃないけど、【木級】って呼ばれたりするよ」


 木級か。ださいな。でもまあ、冒険者ランクが金銀銅とか、わりとありがちな設定だし、戸惑いはない。


 説明は続く。


 いわく、冒険者ランクを昇格するには試験がある。個人のレベルが一定の高さまで上がった場合に受験資格が与えられる。

 木下さんも早くレベル10に上げろと言っていたな。そこが鉄級になるための要件なのだろう。


 いわく、冒険者の責務は、悪しき魔王の眷属たるモンスターを倒すことと、ギルドからの依頼をこなすことである。

 モンスターを狩るとその強さに応じて賞金が出る。また、モンスターの死体からは毛皮や牙など有用な素材が得られることがあり、そういった素材はギルドで買い取ってもらえる。

 ギルドからの依頼には要人護衛、希少アイテムの調達、大型モンスターの討伐などがあるが、それらは高ランク冒険者向けであり、新人の仕事は主に荷物運び、ドブ掃除、土木工事など、いわば街の何でも屋である。これらの雑用に加え、薬草採取という依頼には恒常的な需要があり、経験の浅い冒険者にとって貴重な収入源となるであろう。


 うん、聞けば聞くほどテンプレ異世界だ。運営はこんなもん本気で再現できているのだろうか。例のタヌキもどき以外のモンスターは用意済みなのか?


 木下さんがおれの代わりに羊皮紙みたいな契約書類を書いてくれた。読めないからインチキされても分からんなこれ。まさか奴隷契約書とかじゃないだろうね。

 冒険者名はサイトーで登録してもらった。なんでも6音節ぐらいまでしか登録できないらしい。ゲームかよ。木下さんの登録名はリンだそうだ。おれは自分の下の名前が好きでないので苗字にしておいた。


 ヒゲのじいさん、シェロン氏に言われるままにザ・【水晶玉】的なアイテムに触れる。レベルを測る道具だそうな。どうせWi-FiかBluetoothか何かを使っておれのスマホからデータ抜いてるだけだろと思いながらこの茶番を済ませた。


「これでとりあえず終わりだよ〜。はい、仮登録証」


 木の板を渡してもらった。パスポートぐらいのサイズで、角に穴があいており麻紐が通してある。首にかけるもののようだ。板の表面には何かインクで異世界文字が書いてある。まったく読めないが、少し大きく書かれているのがおそらくおれの名前なのだろう。めっちゃ手書き感が強く、正直ただのガラクタにしか見えないが、裏面にギルドの紋章とやらが焼き印で記されており、いちおう偽造はできないのだそうだ。


「ありがとうございます」


 板を首から下げ、木下さんと、あとシェロン氏にも頭を下げておく。じいさんのほうはどうせ運営スタッフだろうが、いくら相手が役者だとしても、現場の人間の反感を買うのはよろしくないからな。


「じゃあ今日はもう遅いから宿まで送るね。明日は一緒に薬草採取に行こう。センパイが手取り足取り教えてあげるよ〜」


 手取り足取りイベント来ましたわーー!!

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