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救いの女神

「日本語が話せるんですか!? 【プレイヤー】の方ですよね!? お願いです! おれをここから出してもらえませんかっ」


 気づいたらおれは少女にむけて懇願していた。自分では、牢暮らしもそんなに悪くないと思っていたつもりだが、無意識下では早く逃げ出したいと感じていたのかも知れない。あるいは日本語を聞いたのがひさしぶりすぎて里心がわいたのかもしれない。


「おわ、本当にいたんだ」


 少女はつぶやくと、階段の方からこちらに歩いてきた。後ろに兵士も2人ついてきていたようだが、彼女が何か小声で言うとその場で立ち止まった。そのまま1人で向かってくる。

 遠目だが顔が見えた。色白だが白人じゃない。明らかにアジア人だ。髪も黒い。きっと日本人だ。よく見えないけど美人っぽい気がする。

 鉄格子の前で立ち止まった彼女がこちらをのぞき込む。


「どれどれ、お顔はっと……。うっわ! すっごいヒゲもじゃ!」


 のけぞられた……

 確かに今のおれの見た目はかなりやばいかもしれない。たぶん10日以上ヒゲそってないし風呂も入ってない。服もほとんど洗ってない。臭いと言われなかっただけマシかもしれない。


「ねえヒゲのおじさん、いやお兄さんかな。お兄さんも日本人? ここから出たいんだよね?」


 小窓の前で小首をかしげる。ポニーテールがゆれる。リスみたいでかわいい。目が大きい。背は低いな。そしておれと違って服がきれいだ。ちゃんと洗濯されている。いいなあ。


 ……しまった、返事を忘れて魅入ってしまった。


「あっはい、日本人です! 出たい! 出たいです!」


「うんうん、そうかそうか。正直でよろしい」


 腕組みして一人うなずく少女。リアクションの大きいタイプなのかもしれない。


「よっしゃ、ワタクシがひと肌脱ごうじゃないか!」言って、急に赤面する。「いやいや、脱ぐと言ってもいやらしい意味じゃないからねっ!」


 なんかクネクネし始めた。


 分かっとるわ! そんな勘違いするかい!


 思わず出そうになったツッコミをこらえる。これは……けっこう変な人だぞ。


 というか若いな。制服着てるし普通に高校生、下手したら中学生なんじゃないか? でもおれを解放してくれそうな雰囲気だ。ということはすご腕プレイヤー、あるいは重要NPCかもしれない。機嫌を損ねるわけにはいかない。


「はい、もちろんそれは分かってます! どうか助けてください、お願いします!」


「うむ、殊勝な心がけだ!」満足そうにうなずく。「このわたしに、ドンとまかせておくれ!」


 なぜか嬉しそうである。が、すぐに険しい顔を作って、


「ところでお兄さん、まさか悪い人じゃないよね? なんで捕まってるの!?」


 質問された。おれはあわてて弁明する。


「も、もちろんです! 何も悪いことしてません! ただ、野宿してて起きたら兵隊さん?たちに囲まれてたから、スマホを見せようとしただけで……」


「あっダメダメ! その言葉は言っちゃダメだよ!」


 ん? なんのことだ?


 疑問に思うが、すぐに答えが来た。おれだけに聞こえるように小声で。


(よぉく分かったよ。捕まった理由が。あのね、その、スマートフォンの略語……ス・マ・ホっていうのはね、ここじゃ禁句なの)


「…………? 禁句? どういうことですか?」


(それはね、ここの言葉で、【大魔王】っていう意味なんだよ。めっちゃ悪いやつらしか使わない言葉なんだよっ)


 うえぇ……なんてこったい。

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