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愉快な囚人生活

 いきなり捕まってしまったが、牢での暮らしというのも案外悪くない。


 まず、飯が旨い。

 いや、どっちかと言うとマズいんだろう。1日に2回、鉄格子の隙間から差し入れられるのは、硬すぎるパンと、具も入ってない薄味のコンソメスープみたいなもんだけである。もう3日はここにいるが毎食同じメニューだ。日本にいたらブチ切れるような粗食である。

 とは言え、ここ1週間ばかりは得体の知れない川魚と生水という生活だったので、それに比べりゃ十分にご馳走である。いや、ご馳走は言いすぎだが、人間の食う飯のレベルには達していると思う。


 そして、雨風の心配なくベッドで眠れる。

 塔の中で寝た晩以外はずっと野宿だった。寝袋も毛布もない地面に(じか)寝である。ここは牢屋とはいえ、木製の硬いベッドがある。もちろん壁も天井もある。見張りの人用の灯りすらある。十分に文化的な生活だろう。モンスターに襲われないのもいいよね。


 とにかく、最初は警戒したが、兵士(役)の態度とか見る限りでは、おれを処刑するみたいな物騒な状況にはなってなさそうで、少しのんびりさせてもらってる。本来ならもう少し危機感覚えたほうがいいのかもしれないが、野宿生活と違って、周囲に人間がいるだけで少し安心してしまっているおれだ。脱獄とかする気も今んとこはない。


 もちろん不満もある。まず言葉が通じない。食事係の人とかに色々と話しかけてみたがまったく無反応だ。やっぱ日本語も英語も通じてない感じだ。マジ困る。


 次に衛生環境だ。

 トイレがない。どうやら部屋の隅の溝みたいなとこで勝手にやれという方式らしい。臭いし、トイレットペーパーもない。ひどい。

 風呂もシャワーも浴びてない。めちゃ痒い。顔洗いたい。ヒゲも剃りたい。


 あと、所持品を持ってかれてしまった。ずっと運んできた宝箱も、手製のロープや(あみ)も、親父の形見の剣や形態や時計もぜんぶ取り上げられた。剣はともかく携帯とかは返してほしい。


 ただなぜか、スマホだけは没収されなかった。正直意味が分からない。普通に警察に捕まった時でもたぶん没収されるよね? まあでも、これは助かった。

 【異世界ポータル】以外は相変わらず小説家になろうしか繋がらないが、牢屋の中の暇つぶしには最適だ。他に何もやることないから、ニートが異世界で結婚して幸せに暮らす、お気に入りの完結作品を再読しちまった。

 時計機能もあるから、こんな窓もない密室でも時間感覚が少しは残った。誇張でなく、スマホのおかげで正気を保てている。


 暇だから異世界ポータルも時々見てるが、特に新機能の開放や現状の説明もなかった。この捕まってるやつは【イベント】じゃないんかね。もう3日も経つんだが……。ただ、HP値が少し回復してた。83/100だってよ。牢屋で休んだからか? 宿屋あつかいか?


 ……。


 スマホと言えば、考えたことがある。


 このゲームにおいて、スマホというアイテムには何か特別な意味があるんじゃなかろうか? なんせ【異世界ポータル】がインストールされてるし、Wi-Fiもずっとつながってる。運営が、各プレイヤーの位置や生死状態を監視したりに使っていると思う。


 牢屋閉じ込めイベントなのに没収されないのもおかしいよな。おれはおれをここまて運んで閉じ込めやがった兵士たちは運営スタッフの手下だと確信してるが、あいつらも上部からの命令で、スマホだけは【プレイヤー】から取り上げるなみたいなこと言われてるんじゃないか。


 それから、だいぶ前になるが、塔のとこでおれに切りかかってきた女と、今回の兵士たち、どっちもおれの発した「スマホ」って言葉に過剰反応してた気がするんだよな。思い返してみると、おれがスマホって言ったら向こうもスマホスマホって興奮して襲いかかかってきたんだよな2回とも。

 よく分からんが、このデスゲーム内においては「スマホはないものとして扱わなくてはならない」というルールでもあるのかもしれん。ゲーム進行には必須だが、中世ヨーロッパ風世界観に存在しないアイテムだから雰囲気を壊す、みたいな理由で。だからプレイヤーがスマホ持ってても無視するし、存在しないことになってるはずの「スマホ」の名を口にした者は処罰される、的な。今後は気をつけよう。


 まああいつらの豹変ぶり、指示された演技にしては真に迫り過ぎだったとは思うけどな。プロの役者集団なのか?


 ……。


 しかしやることないな。次の食事まで3時間はありそうだし、今度は魔法学園ものの小説でも読むか


……とか思ってた時だった。牢の外から物音が聞こえてきたのは。


 これは、複数人の集団が地下牢に降りてきてる? ガヤガヤ声が聞こえるし、ドタドタと歩く音が近づいてくる。


 足音はおれの独房の前で止まった。


「ここ? 日本人っぽいおじさんが捕まってるとかいうのは?」


 鉄格子の向こうに見えたのは、ポニーテールとセーラー服の少女だった……!

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