連行された
おれはついに人里へとたどり着いた!
…………囚人として。
今朝起きた時、おれは取り囲まれていた。モンスターではなく人間の男たちである。全部で6人いた。
男らは全員同じ服装だった。金属の鎖でできたベストを着ていて、頭にはやはり金属製のヘルメットみたいなものをかぶっていた。要は鎧兜だ。そして2メートルぐらいの槍を持っていた。どう見ても【兵士】という感じである。
顔はみんな外国人っぽい。ヨーロッパか中東かという感じで彫りが深いが、特に背は高くない。俺と変わらないぐらいだ。肌の色はばらつきがあり、褐色の人と白っぽい人がいるようだ。
槍は突きつけられてはいない。一番近い1人は背中に背負っている。2人は柄を小脇にはさんで斜め下に穂先を向けていた。残り3人は石づきを地面に置き、まっすぐ天に向けていた。たたし全員がおれの方を見ている。モテ期到来である。
なんか、寝たり起きたりするたびに、モンスターやら死体やら兵士やらに出くわしてないかおれ? 兵士たちが警戒しているのは何となく分かったが、おれにはそんなことを思う余裕があった。少し感覚が麻痺してきているかもしれない。
「あの〜、何か御用ですか? どこから来たんですか? というかここはどこかご存知ですか?」
おれは寝る間脱いでいた靴をはきながら、槍を背負った男に話しかけた。こいつは他の兵士より少し年かさで、立派な口髭を生やしている。(本物の兵士だとすれば)隊長的なポジションだろう。何となくだが、これはゲーム内の【イベント】ではないかと思う。
隊長さん(仮)は顔をしかめただけで何も答えない。
「あなた達は兵士ですよね? 運営側のスタッフさん?」
さらに訊いてみる。
この間の女剣士は【冒険者】といった感じの服装で、プレイヤーの1人かと思ったが、こいつらはプレイヤーではないゲーム内のキャラ、いわゆる【NPC】のような気がする。あわよくば、おれを街に連れていって、まともな食事をくれて、舞台設定のこととかゲームの目的とか教えてくれはしないだろうか。
「アシン、ニロウ? ドゥーダ、ソリューテン、アシナ、ゴンゲ」
隊長さんが口を開いた。渋い声だ。しかし、何言ってるか一つも分からない。またこのパターンか。どこの言葉なんだよ……
おれはダメ元で英会話を試みた。なんかこれも既視感あるな。
「ハ〜イ、アイアムサイトー。ドゥーユースピークイングリッシュ?」
隊長の眉間にシワが寄る。これは通じてないな。
「ソリューテン。ムノー、スパルク、ダルゴンゲ」
なんか言われた。英語じゃない。分からん。
このままではらちが明かない。兵士の皆さんの顔も険しくなってきた。もしかして連中の言葉がこのゲームフィールドの共通語なのか? いやしゃべれねえよ。なんで日本人連れてきたよ。無理ゲーだよ。
「ソーリー、アイキャント、アンダスタンド。バット……」
おれは考えた。ゲーム公式アプリ(と思われる)異世界ポータルの画面を見せたら何とかならないだろうか。
「アイハブ、イセカイ・ポータルアプリ、イン、マイ、スマートフォン。ルックアットディス」
尻ポケットからスマホを取り出し、ポータルの初期画面を開いて見せる。
……。
隊長は怪訝な顔で押し黙ってしまった。ポータルアプリを見せるのはルール違反なんだろうか?
「他人にスマホ見せるのはダメっすか?」
ガサッ!
いきなり隊長が飛びすさり、代わりに2人の兵士が飛び出してきて槍を突きつけてきた。残り3人もわらわらと迫ってきておれを取り囲んだ。
「えっ何だよ急に!?」
思わず剣に手が伸びる。
「ナキモカ!」
兵士の1人が甲高い声で叫び、地面に置いてあったおれの剣を槍で弾き飛ばした。しまった、また女剣士と同じパターンだ。何かむちゃくちゃ警戒されてる…!
「トゥラーエリ、シャマド! タビ、スマホ、ガディーノ」
「あだっ! 何す……うげっ!」
隊長が何か命令したかと思うと、おれは5人の兵士に飛びかかられ、押し倒され、顔を地面に押し付けられ、あれよあれよという内に縄でグルグル巻きにされてしまった。
連中の1人が縛ったおれを肩に担いで歩き出した。すごい力持ちだな。
「おえっ、揺れっ、あでっ!」
おれは激しく揺すぶられて舌を噛んでしまった。そのままなすすべもなく運ばれる。視界が横向きでわけが分からない。
ゴスッ! がさがさ、ギュッギュッ
「ぐっ……うぐっ…………ぎっ、えっ!」
少し離れた所に馬がいたらしい。おれは馬の尻のあたりにくくりつけられたことを認識した。その馬に兵士が乗り、おれはそのままどこかに連れ去られてしまった。あまりの揺れに吐いた記憶がある。ほどなく気を失ったようだ。
……。
気付いたらここにいた。鉄格子のはまった窓のある石作りの部屋である。身体の縄はほどかれたようだが、代わりに左足が鎖で壁につながれている。
「また石の中からやり直しかよ……」
鉄格子の向こうには大きな部屋があり、兵士たちが見張っている。そう、おれは牢屋に囚われてしまったのだった。




