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飲料水を求めて

 ダークラクーンに追われて走った道をさかのぼっていく。実際には道なんてない、ただの荒野だ。無数の足跡が残っている。ダークラクーンは何匹も倒れている。息があるかどうかは、もう確かめない。


 俺のプランはこうだ。

 まず川岸まで戻る。置き去りにしたモーニングスターを回収したら、近隣に残ったダークラクーンを倒してレベルを上げる。それから川で魚やエビを捕って食事にする。落ち着いたらあらためて、街とダンジョンのどちらを探すか考える。


 腹がふくれれば少しはいい考えも浮かぶだろう。何をするにしても、水と食べ物、そして武器は確保すべきだと思う。手元には宝箱とエビ6匹、紐しかない。水は元々ペットボトルに半分ぐらい残っていたが、歩きながら飲んだのでなくなってしまった。


 淡々と歩く。方角は間違っていないはずだが、思ったより川が遠い。昨日は何分ぐらい全力疾走していたのだろう。自分にこんな体力があったとは驚きだ。


 根気よく数十分歩き続けると、遠目に川が見えてきた。


 ……?


 何か違和感がある。

 近づいていく。


「うぇ、マジか……」


 川はめちゃくちゃになっていた。岸辺の草は全て踏み倒され、流れの中にはダークラクーンの死骸があちこちに浮かんでいる。今朝は澄んでいた水も、多数の獣が飛び込んだせいかドロドロに濁っていて、もはや飲めそうにもない。


 あてが外れてしまった。こんな場所では水分補給はおろか休憩だってできやしない。死骸の浮いた水なんて濁ってなくても飲みたくない。この濁り具合では魚も捕れないだろう。ロープの材料になる草も無事なものはほとんどなさそうだ。


 おれは、すぐにはあきらめきれずにしばらくウロウロしていた。


「あーあ、これはまた……」


 頼みのモーニングスターが、残骸だけ見つかった。先端の石は外れており、紐はズタボロで、枝はどこかに散らばってしまっていた。そりゃそうか。あの数の獣に踏み荒らされたら無事に残ってる方がおかしいわな。


 参ったな。武器もなし、水もなしか。塔の向こう側の川に行ってみるべきか。あっちも同じ状況かもしれない。

 森の方はどうだろう? おれが立ち入るのを躊躇したほど木が密集していたから、ダークラクーンの群れもせき止められたんじゃないだろうか。この川は森の中から流れ出ていたから、上流にさかのぼっていけばよりマシな水源が見つかるかもしれないな。


 最低限の方針が決まる。おれはまた歩き始めた。森までは遠くない。川岸を10分も歩けば着いた。森の外側の草地はやはりダークラクーンに荒らされているようだ。かなり折れたり倒れたりしている。ところどころに倒れた獣も見つかった。しかし森そのもの、木々の方は無事そうだ。少なくともなぎ倒されたりはしていない。ただ、やはり密集しすぎていて、人が歩ける隙間すら見つからない。


 おれは思い切って、川の流れの中に足を入れた。この辺の水もかき乱されて濁ってはいるが、浸かった足が見える程度には澄んでいる。水は浅いし、冷たさも我慢できるレベルだ。これなら少しさかのぼるだけで、飲み水と魚ぐらいは確保できそうだ。


 川の中の、なるべく浅い箇所を探しながら上流へ向かう。森の中は暗いが、川のところは空が開けているので問題なく見える。ただ、流れが速いので宝箱を抱えたままでは歩きにくいな。


 おれは座れそうな石を見つけると、そこで宝箱に紐を結びつけてランドセルのように加工した。背負ってみて、紐の長さや位置を調整する。うん、素材が硬いからちょっと背中が痛いが、小脇に抱えるよりずっと楽だな。もっと早くこうしとけば良かった。


 再び歩き出す。両手が自由なのでだいぶ楽になった。10分か20分ぐらいだろうか、しばらく歩くと水もきれいになってきた。魚の姿も見える。この辺で食事にするか。


 火を起こせそうな場所を探してもう少しさかのぼる。川から届く範囲で薪になる枝も拾っていく。ほどなく、川が曲がっている箇所に平坦な岩場が見つかった。水も浅くてキャンプに良さそうだ。

 岩に登って裸足になり、靴下を絞って乾かす。足が冷えたしふやけてしまった。急いで火を起こす。ペットボトルレンズはきれいな水を入れないと使えないので、水を補充できて本当に良かった。

 パチパチと火が起こる。火を見ると少し安心するな。背負っていた宝箱は下ろし、裸足のまま、浅瀬で魚を捕まえた。勘が冴えてるのか、手づかみで2匹も捕らえることができた。今日は焼き魚にしよう。


 岩にもたれて焼けるのを待つ。コケが生えてるせいか柔らかい岩だな。なろう小説(スペオペ系のSF作品)を読みながら焼けるのを待つ。

 焼けてきた。いい匂いだ。食べる。熱くて旨い。熱いものを口にするとちょっと落ち着く。あっという間に食べ終えてしまった。最近、魚とエビの類しか食ってないから栄養偏ってるよなあ。


 そのまま岩の上に寝っ転がる。大きくて平たくていい岩だ。目をつぶって伸びをする。寝てもいいかなあ……食ってすぐ寝るとダークラクーンに襲われるジンクスがなあ……

 いちおう安全確認しとこうと目を開けた。


「ひっ!?」


 ガイコツと目が合った。


 食事中のおれがさっきまでもたれていたのは、コケの生えた岩なんかではなく、人間の死体だった。

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