森周辺の探索
その後しばらくスマホの中身をチェックしたが、他に怪しいアプリなどはなかった。相変わらず外部への連絡や通信はできない。電話もネットもGPSもダメ。異世界ポータルのアプリ以外には、小説家になろうしかつながらない。
正直言うとなろう小説を読んで現実逃避したかった。しかし今それをするのはさすがに危機感が足りない。なんせもう水がないのだ。動くしかない。
おれはとりあえず森を探索することにした。水については昨日の川へ行けば確実に手に入るが、あそこは塔をはさんで反対側になる。あの危険な女のいた塔にはできれば近寄りたくない。森のほうが隠れやすくて安全だと思う。
それに木が生えているということは水場もあるんじゃないだろうか。ここに来るまでは石と砂の荒れ地が続いていただけに、植物の集合である森の中には泉なり川なりがないと不自然だ。
おれは森に一歩踏み込んだ。
そしてすぐにあきらめた。
木が密集しすぎてて無理だ。歩けるスペースがない。おまけに暗い。うん、無理。
……。
いやあきらめてはいない。まだやれることはある。森のまわりを一周してみよう。もっと木が少なくて入りやすい箇所があるかもしれないし、川に出くわす可能性だってある。塔からはより遠ざかれるしな。
森の縁を歩いていく。左向きつまり東とおぼしき方角へまわっていく。時々塔の方を見て、人影がないことと方角の確認をしながらだ。
森と荒野の境目には草や背の低い木が生えている。護身に使える棒はないかなと観察しながら歩く。前に持っていた灌木の杖は襲われたときに落としてしまった。枝が何本か落ちていたが、乾燥してボロボロだったり、長さが不足していたりして、なかなか手頃なものはない。とりあえず、直径4センチ長さ40センチといった感じの枯れ枝を拾っておいた。武器としては心もとないが、燃料ぐらいにはなるだろう。
小一時間ほど歩くと、塔がほとんど見えなくなってきた。木に隠れてしまう。ということは森の端っこは少し湾曲しているんだろう。あまり大きな森じゃないのかもしれないな。
完全に塔が見えなくなってからさらに15分ほど歩いたところで、小川を見つけた。
「よし!」
狙いが当たった。これで戻らなくて済む。
川幅は2メートルほどで流れは速く、森の中から外へと流れている。昨日の川よりは小さいが、水量はあるので水をくむだけなら十分だ。
川岸から手を伸ばしてペットボトルに水をくむ。うん、きれいな水だ。そして冷たい。一口飲んでみる。変な味はしない。むしろおいしい。我慢できずに全部飲み干してしまった。たぶん大丈夫、おなか痛くない。
ここで休憩することにした。舗装されていない道を歩くのは疲れるし、時刻も11:20とあったのでもうお昼時だ。枝や草を集めて森から数メートル離れた場所で火を起こす。火種はもちろんペットボトルレンズである。水がないと火も起こせないのはシビアだな。ペットボトルを落としたら終わりだ。
3回目なので着火にもそこまで手間取らなかった。草から枝に火を移し、ある程度燃えてきたところで周りに石を積んでかまどを作った。宝箱の中身を取り出してよくゆすぎ、水とザリガニの身を入れて火にかける。念のためもう一度加熱してから食べよう。
湯がわくのを待つ間に枯れ枝を拾う。やはり森の近くだと薪の確保が楽だな。他に食べ物はないかな。
川沿いを下流に向かって歩く。魚影は見えるが足場が良くないな。15分歩いて浅瀬を見つけた。そこでさらに40分かけて10センチくらいの小魚を1匹捕まえた。カニのような姿も見かけたが、石の隙間に逃げられたのと、火のようすが気になったのであきらめ、急いで戻った。
宝箱鍋はグツグツ煮立っていたがお湯はまだたっぷり残っていた。今から焼くのも面倒なので捕まえた魚も鍋に放り込んでみた。
「熱っち!」
湯がはねて顔に飛んだ。魚も暴れてお湯がこぼれてしまう。あわてて草を足したり息を吹きかけたり。何とか火を消さずに済んだ。魚もどうにか大人しくなった。
「ふう……」
この熱い湯に手を突っ込むわけにはいかない、食べる道具がいるなと思い、前回串として使った枝(宝箱に入れて持ってきていた)を2本選んだ。少し長いので折る。ゴツゴツしていたのでその辺の石でよくこすって角を落とす。先端も少し細く削る。川で洗い、鍋に入れて煮沸消毒。けっこういい感じの木箸ができた。
自作箸でザリガニを食べる。熱々でおいしい。茹で魚は水洗いしたサラダ巻きの容器へ。少し冷まして、箸でむしって食べる。
「おいしくはないけど、まあ食えるな」
ひとりごとを言いながらスマホを見る。また少しバッテリーが回復してるな。63パーセントだ。こりゃどこにいてもワイヤレス給電される感じか。クソ運営の技術力すげえな。
寝っ転がって、もはや救助要請というより自分用のメモ書きになってしまった、このなろう日記を書く。でもリアルとのつながりがここしかないんだよな。正気を保つために書き続けてる側面はあるかも。
そういやバイトをクビになった時も、なろう読むのだけが心の支えだったなあ。それが今やサバイバル日記を投稿する側とはね……
「あっ」
思い出す。サバイバルと言えば、なろうの投稿作にも森でサバイバルするやつがあったぞ。異世界ものなんだけど、わりとリアルに罠作ったりするやつ。ああいうの読めば、釣り竿とか石斧とか、今の状況で役立ちそうな道具の作り方も載ってるんじゃないか? 他にも生存に役立つヒントが見つかるんじゃ!!
思いつきに興奮したおれが、その作品を探してブークマーク一覧を見ようとした時、
がさがさっ
音がした。思わずビクッとする。驚きと緊張で身体がうまく動かない。寝たまま目だけ動かして周りを見る。
獣と目が合った。