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いやな起き方

 かゆくて目が覚めた。

「うわっ何だ!? 虫…!?」

 跳ね起きて、見ると、バカでかいアリが何匹も身体によじ登っていた。

「何だこいつら、クソっ! あっち行けっ!」

 手で払う。

「いてっ! 服の中にもいる!?」

 急いでズボンとシャツを脱いでアリを叩き落とした。どうやら巣の近くで寝てしまったようだ。木の根元にウジャウジャいた。あわてて、半裸のまま走って木から離れ、砂地っぽいところまで十数メートル逃げた。

 服についたやつを全部払い落とすのに10分ぐらいかかった。50匹ぐらいいた気がする。いそいそと同じ服を着直す。うん、もうアリはついてないな。

「ビックリしたぁ……やっぱここ日本じゃないかもしれないな。あれ軍隊アリとかいうやつじゃないか。怖えぇ」


 スマホを見ると午前6時前である。一応太陽は昇ってるが、とんだ目覚ましもあったものだ。

「あ、またバッテリ回復してる……」

 59パーセントある。寝る前はたぶん40パーセント台だった。やはりリモート充電みたいな何かが働いてるな。まあバッテリ切れになれば時刻すら分からなくなるわけで、回復するのはいいことではある。気味は悪いが。


「腹へった……あ! 宝箱!!」

 木の根元に置きっぱなしだった。やばい貴重な食料が! 急いで木に戻って箱を回収。案の定アリが数匹たかっていた。全部払い落とす。

「中身は!? ……無事かぁ」

 フタがしまってて助かった。ペットボトルの水も焼き魚の袋も被害はなさそうである。案外気密性が高いんだなこの箱。鍋にも盾にもなるし、持ってきて大正解だったな。


 また木から距離を取って座り込む。大切な食料だが、常温じゃ遠からず腐るだろう。食べておこう。魚を手に取る。一口かじる。

「まずっ……」

 生臭いし味がない。冷めて味が落ちたにしても、こんなものを昨日は喜んで食べてたのか。空腹ってすげえな。さて贅沢は言っていられない。水で流し込みながら何とか3匹食べきった。あと1匹とザリガニは非常用に取っとこう。というか水もなくなったしこれ以上は食えそうにない。


 しかし昨日はとんだ一日だったな。川の水飲んで、魚つかまえて、火起こしして、食って、剣を持ったやばい女と交戦して、森まで走って逃げて。

「あ、ここってどこなんだ? 塔のとこから見えた森か?」

 確か(暫定)南のほうに森が見えたと記憶してる。あそこなのだろうか。立ち上がって周囲を見渡す。

 森がある。寝た木の数メートル手前あたりから急に草や灌木が生え始め、奥のほうはうっそうと茂っている。件の木を含め、杉の木かモミの木か何か分からんが針葉樹が多く生えているようだ。高さも結構ある。ビルほどじゃないが、2階建ての家よりは高いんじゃないか。これは火起こしの燃料には困らないな。

 反対側を眺める。うん、荒野だ。そろそろ見慣れた、黄色っぽい石と砂の平地。遠くに塔が見える。北側の川も見えないし、やはりここが南の森ということで良さそうだ。

 見える範囲内に塔があると方角のヒントにはなるが、そこまで離れていないということでもあり、昨夜の女が追いかけて来ないか心配だな。


 昨夜のできごとについて考える。

 あの女は外国人だった。しかも簡単な英語すら怪しい。意思疎通も困難なプレイヤーを競わせるとは運営も性格が悪いな。

 あいつと仲間、あるいは協力関係になれるだろうか。……ないな。刃物で切りかかられた恐怖で、敵としか考えられない。何考えてるかも分からないし、できるだけ会いたくない。当面は一人でこの理不尽なゲームをプレイするしかないな。

 しかしなぜ急にあそこまでキレたんだろうか。確かに元々警戒されていたし、おれがスマホを取り出したのを攻撃行動と勘違いしたのかもしれないが、それにしてもあそこまで憎悪むき出しになる理由が分からない。宝箱なきゃ死んでたぞおれが。

 それに、あのとき叫んでいた言葉が気になる。あの女は確かに「スマホ」と言った。他の言葉は一切意味が分からなかったが、スマホだけは聞き取れた。外国でもスマートフォンのことスマホと呼ぶんだろうか? たぶん呼ぶんだろう。おれがスマホを使おうとしたタイミングで口にしたんだから、スマホだけは日本語と同じ発音になる言語なんだろう。

 スマホと叫びながら真剣で切りかかる、それはどういう意図か? 自然に考えるなら、スマホが欲しかったんじゃないだろうか。日本語に訳すなら、「そのスマホ、あたいに寄こせ〜!」みたいなことを叫んでいたのでは。あいつスマホ持ってないんだろうな。

 そこまでスマホを欲しい理由は何だ? おれと同じで、外部に助けを呼びたいのか? いやそれならあそこまで敵対的にならなくても、平和的に口頭で頼むほうが良くないか。このスマホ実は電話回線が不通でなろうにしかつながらない微妙デバイスってことまでは知らないだろうし。そう、あの女はおれのスマホを奪い取りたかったんだ。仮に殺す結末になったとしても、どうしても欲しかったんだ。なぜか?


 ……ゲームに使うんじゃないか?


 あいつは剣と鎧を身に着けてた。どこで手に入れたか、どこまで納得してるのかは分からないが、このデスゲームに対して一定のやる気を持ったプレイヤーである可能性は高い。そういうやつが欲しがるのは、ゲームの攻略アイテムなんじゃないか?

 このスマホは今んとこ、現在時刻を見るのと、照明器具、そしてなろう投稿端末としてしか役に立ってない。だが、実はおれの気づいてないゲームお助け機能が隠されてるんじゃないだろうか。だってゲームのプレイに一切使わないなら、運営がわざわざWi-Fi設定したりバッテリを充電してくれる理由がないだろう。


 これは、もう一度スマホの中身を精査する必要がありそうだ。

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