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死ぬかと思った

 やべえ。マジでやべえよ。これ本物のデスゲームじゃん。死ぬとこだった。完全に違法な殺し合いだよ。頼むから誰か警察に知らせてくれよ。


 簡単に説明すると、刃物を持った女に殺されかけた。前回の投稿が途中で切れたのは、襲われたからだ。その後のことを覚えている限りで書き出してみる。


 ……。


 例の回廊の明かりをのぞき込んだ時、中にいると思ってた相手は外にいたらしい。暗がりでスマホを見ていたおれは逆に見張られていて、いつのまにか背後にまで迫られていた。


「オイ」


 急に聞こえた人の声に驚いたおれは思わずふり向き、その拍子に何かが右腕のひじの少し上に当たってチクッとした。


「うぴゃあ!」


 思わず変な悲鳴をあげてしまった。持っていたスマホを落としそうになる。


「……ナキモカ」

 ふり向いた先には何者かが立っていて、押し殺したような声で何か言われた。

「えっ何!? てか、誰!?」

 わけも分からず混乱するおれ。人影はさらに話しかけてきた。

「ナキモカ、ナキモカクシテ! ……アシン、ニロウ?」

 何を言っているのかぜんぜん分からない。

 よく見るとそれは若い女だった。あたりは暗かったが、回廊の窓から漏れ出る光が相手の顔を照らしていた。エキゾチックな顔立ちだ。黒い髪は短くてボサボサだ。ゴツゴツした変な服装をしている。そしておれをむちゃくちゃにらんでいる。

「あの、外国の方ですか…?」

 通じなさそうだなと思いながら話しかけ、さらに観察した。やっぱり外国人、少なくとも外国ルーツの人だな。肌の色は分からないが顔の彫りが深い。わりと小柄だ。ボロっちい布の服の上に、レザー製のベストみたいなものを着ているな。右手には棒状のものを持ち、こっちに向けて……

「うわっ何それ剣!? えっ、おれケガしてんじゃん!」

 やっと切られたことに気づいた。右腕から血が出ている。思わず後ずさり、壁にぶつかった。

「ナキィ、モカァ……」

 ドスのきいた声とともに、剣を首元まで突きつけられる。もしかしなくてもこれは、武器で脅されている……! やばいどういうことだ? コイツは何者だ?


 おれは自分に言い聞かせた。パニックになるな、考えろ。目を動かして首元まで伸びた刃物を見る。やはり剣だ。西洋ファンタジーに出てくるような、まっすぐな剣、刃渡りは50〜60センチぐらいか。鈍く光っている。それを持つ女の格好は、あらためて見るとこれは鎧だな。胴体だけをおおうレザーアーマーという感じだ。

 普通に考えて、現代社会にそんな格好の人はいない。つまりコスプレ女だ。だがおれが腕を怪我した以上、あの剣は模造刀とかではない。ガチの銃刀法違反だ。なぜそんな危険なコスプレをしているのか?


 そう、この女はきっと、俺と同じ【プレイヤー】だ。何らかの手段(例えばほら、宝箱を開けるとか)で剣と鎧を手に入れたのだろう。アクセスポイント名ISEKAIが暗示する通り、この強制参加ゲームはおそらく異世界ファンタジーを模しており、プレイヤーが剣を持って戦うという設定なのだろう。ある程度予想はしていたものの、本物の刃物が出てくると動揺するな。なんでおれの分はないんだ。


 本物の剣や鎧で、おれたちは何をさせられるのか。当然、武器を使ったバトルだろう。運営側の用意した敵役がいるのかもしれないが、プレイヤー間の争いが起こっても構わないという前提で刃物を配ったに違いない。有り体に言って、ピンチだ。冷や汗が額をつたう。


 この女にはおそらく日本語は通じず、そしてかなり興奮している。こちらを警戒しているのだろう。おれと同じく、いきなりこの辺に拉致されて来たのかもしれない。このシチュエーションで警戒心の塊になるのは当然といえば当然だが、おれにとってはありがたくない。相手だけが武器を持っている以上、なるべく友好的な姿勢を見せて懐柔するしかない。


「へ、へろー?」

 下手くそな英語で話しかける。なるべくハキハキと声を出さないとな。顔もスマイルを意識だ。

「アーユー、いやAreじゃないか。ドゥーユースピークイングリッシュ? アイアムジャパニーズ」

 こちらをにらむ目つきが少し弱まり、怪訝な表情が取って代わる。通じてるのか?

「マイネームイズ、サイトー。タケミツ・サイトー。アイムノット……敵ってなんだっけ? エネミーか。アイムノット、エネミー。アイム、フレンド。ユア、フレンド!」

 にっこり笑う。

「…………」

 ダメだ反応がない。剣も喉元から動かない。なんとか、何とかしないと。

「アイ、シンク、ウィーアー、ゲームプレイヤーズ。デスゲーム・プレイヤーズ。バット、ウィーキャン……ええと、協力するって何ていうんだ。ええと…ええと……ウィーキャン、ヘルプ、イーチアザー!」

 命の危機が、脳内に眠っていた高校時代の英語知識をよみがえらせた。おれはまくしたてる。

「ドントアタックミー、プリーズ! ウィー、シュッド、シェア、アウア、インフォメーション、トゥ、クリアー、ディスゲーム!」

 どうだ! 渾身のスピーチ! おれは頑張った!

「………………」

 何も言ってくれない。相変わらずにらまれている。ダメか? ダメなのか? これ発音の問題じゃなくて英語が通じないのか? 運営はどこの国からこの人をさらってきたんだ? 他のメジャー言語、スペイン語とか中国語とかロシア語とか一つも分からんぞ……。

「あ、そうだ。スマホの翻訳アプリがあった!」

 われながらナイス思いつきと、急いでスマホをロック解除して、翻訳アプリを探すおれ。


 今考えたらこれが失敗だった。外国語会話に夢中になりすぎて、剣を突きつけられてることを一瞬忘れてたんだよ。そもそも、小説家になろう以外のネットサービスにつながらないんだから、翻訳アプリも機能しないんだよな。それすら忘れてた。


「スマホ!? アシン、スマホ、ガディーノ!?」


 女がいきなり意味不明な言葉を叫んだ。おどろいてスマホから目を上げると、剣を肩の上に構え直した女が、全力で斬りかかってきた!


「セスト、ガディーノ!」

「ひいっ!?」


 おもわず腰を抜かす。しゃがみ込んだおかげで、剣は壁に当たって助かった。


「セストォ!」

 示現流みたいな掛け声とともにまた剣が振り下ろされる。地面を転がってかわす。

「セスト! セスト! セストォーッ!」

 鬼のような形相で何度も何度も剣を叩きつけられた。おれは恐怖のあまり宝箱で頭部を守ることしかできなかった。


 それが正解だった。


 ガンガン、ギィンッ


 音とともに攻撃の手がやんだ。宝箱の陰から見ると、女の剣が根元から折れていた。あるいは刀身が抜けたのかもしれない。とにかく刃がなかった。女はしまったというかのような焦り顔だ。


「う、うおぉぉぉぉおーーッ!」


 おれは死に物狂いで叫びながら起き上がり、宝箱を構えて女に突っ込んだ。タックルなんて呼べるような代物じゃない。破れかぶれの体当たりだ。

「きゃっ!」

 しかし不意をつけた。革鎧のどこかに宝箱が当たって、転倒させることに成功した。


 おれはそのまま、方向も確かめずに走って逃げた。もうほとんど真っ暗だったが、ちらっと振り返ると、女が起き上がって、腰からナイフのようなものを抜くのが見えたような気がした。


「やめてくれ! もう嫌だ!」


 半泣きになりながらひたすら全力疾走した。まっすぐ走り続けた。途中何回か転んだが、恐怖が強すぎて止まることはできなかった。

 何時間走ったか分からない。気づいたらおれは木にぶつかっていた。森にたどりついていた。後ろを見たり耳を澄ましても人の気配はない。追っ手は撒けたようだ。本当に誰か追いかけてきていたのかすら分からないが。


 おれは木の根元に座り込み、ずっと持ちっぱなしだった宝箱を地面に起き、フタを開けて水を飲んだ。


「助かったぁ……」


 つぶやいて、ふと尻ポケットを見るとちゃんとスマホが入っていた。あの乱闘中に落としもせず壊しもせず、いつポケットにしまったのだろうか……?


 ……。


 ちょっと腑に落ちない気もしたが、とにかく人気のないところまで逃げられたことに安心した。右腕のケガもそこまで深くないようだ。血が止まっていることに安心した。これがついさっきのことだ。

 とにかく疲れた。そして怖かった。今日はもう寝よう。

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