今後のことを考える
少し寝ていたようだ。日はまだ高い。火もくすぶってはいるが消えてはいない。今は2時半か。
だいぶ元気が出てきた気がする。やはり魚を食べたのが大きいのだろう。火に枯れ枝を何本かと枯れ草を足して、もう一度燃え上がらせる。少しコツが分かってきた気がする。
日と火があるうちにもう少し食料を確保しておきたい。しばらく魚捕りをやってみた。
さっき食べたのと同じ魚を2匹、またボタンシャツ網代わりにして捕まえた。大きな石の陰にザリガニみたいなのがいたので枝をを突っ込んでみたらあっさり捕獲できた。ハサミでつかむ性質があるようだ。色は黄色っぽいがやはりザリガニか。これも2匹確保した。
魚は2匹とも串刺しにする。サラダ巻きの容器があったのを思い出し、皿部分に1匹、フタにも1匹置いてみた。地べたに置かなくて済むのは助かるな。ゴミも持ってきて良かった。
ちょっと思いついたことがあって、石を集めてきた。火のまわりに積む。3面を覆うように積んでいく。空気はある程度通るように、なるべく大きな石を配置した。
石の上に宝箱を置いた。ちょっとグラグラしたので、小さめの石で調整。どうにか安定できた。
そう、宝箱を鍋として使えるんじゃないかと思ったわけだ。何の金属でできてるか分からないが、まあにぶい銀色だし、ステンレス製とかだろう。どうせ川の水も飲んだし謎の灌木の枝を串代わりにしてしまったんだから今さらだ。それより獲物をゆでられるのが大きい。
枯れ枝を何本か足して、宝箱の下に火が当たるように調節した。ザリガニ(仮)たちは突然釜ゆでの刑に処されるわけでかわいそうだが、まあさっきまで餓死のおそれがあった人間さまに見つかってしまったのが不運だと思ってくれ。すまん。
箱はそのまま放置して、火のついた枝を1本取り出す。別の場所にもう一つ火を起こす。こちらは魚焼き用だ。さっきは手で串を持たなきゃいけなかったが、今度は土に刺せる場所を選んだ。そう言えば焼き魚は直火で炙らなくてもいいんだった。強火の遠火、とかいうもんな。火から少し離れた位置に斜めに串を立てる。倒れないよう、小石で安定させる。残ってる枯れ枝の大半を火に焚べ、強火を実現。よし。
焼いてる間にさらに魚を捕りにいく。段差に追い込むやり方に慣れてきて、さらに3匹ゲットできた。違う種類の魚も1匹混じっている。似たような大きさだし、たぶん食べられるだろ。ぜんぶ生木に刺して、焚き火で炙る。もちろん遠火だ。
宝箱鍋の方も煮えてきたようだ。黄色かったザリガニ(仮)が真っ赤になっている。枝を2本、菜箸代わりに使って取り出す。
「熱っち!」
しぶきが飛んだが、問題なし。ペットボトルで水をぶっかけて粗熱を取る。
川で手を洗ってから、ザリガニの殻をむく。うん、身は小さいな。小さいが、ほぼエビだ。ちょっとかじってみる。うん、イケる。普通のエビだ。味付けしてないむきエビ。
まだ空腹だったのでザリガニは2匹とも食べてしまった。魚の様子を見ると、さほど焦げもせずいい感じだ。焼けてきたぶんは裏返しておく。
さらにザリガニを探す。3匹確保。魚も1匹追加。ザリガニは鍋にぶち込み、魚は串焼きに。
最初に焼き始めた魚がもう大丈夫そうだったのでいただく。うん、昨日のよりうまく焼けてる。ただ、腹がふくれてきたせいか、塩味が足りなくは感じるな。ま、ぜいたくは言うまい。2匹とも食べて、満腹だ。
残ったザリガニ3匹と魚4匹は保存食にするつもりだ。ザリガニは殻をむき、魚は串を外してコンビニの袋に入れた。外した串はもったいないので洗って取っておく。
さて、ようやく命の危機から脱せた気がする。今後のことを考えよう。
なろう読者は助けになりそうもない。ずっとこうやって発信し続けてるのに何の反応もない。誰も読んでいないのか、それともフィクションと勘違いしてるのか。無理もないよな、そもそもフィクションを投稿するサイトだし。
ふと、Wi-Fiのことが気になる。ここは最初の塔から5キロ10キロは離れてるはずなのになんでまだつながってるんだ? Wi-Fi設定を確認する。
ISEKAI-NET-AP104
なんか名前変わってないか……? 前は001だったような……
つまり、これは、大量の、少なくとも104箇所のアクセスポイントが見えないところで稼働してるってことか? こんな何もないただの川にも?
……。
運営の狂気にぞっとする。餓死の恐怖で忘れていたが、これが強制参加の脱出ゲームだということをはっきり理解する。ここは田舎だが、実は人工的な田舎なんだ。おれは孤独だが、実は監視された孤独の中でサバイバルしてるんだ……
スマホのバッテリーも気になって確かめた。
(……!?)
まさかの71パーセントである。あきらかに回復している。そういえば前も寝ている間に回復していた。もはやこれも、運営が何かしてると考えるほうが自然だ。Wi-Fi電波といっしょにワイヤレス給電もやってるのか? そんな強い電波の中にいて人体に影響はないのか? というかどんだけの電力が必要なんだそれ……
とにかくとんでもない資金力を持った運営だ。ここが外国か無人島か何なのか分からないが、いずれにせよ広大な私有地なのだろう。そのゲームフィールド内にくまなくWi-Fi回線やら給電システムやらを引いてるに違いない。そこまで念入りに準備して、おれ(たち)に何をさせたいのだろうか。
やはり、【デスゲーム】の5文字が思い浮かぶ。辺境の地で殺し合う若者たちを見て喜ぶイカれた富豪。
「くそっ!」
食事で落ち着いた気持ちが台なしだ。デスゲームなら他のプレイヤーに見つかる前に安全な場所に隠れたほうがいいかもしれない。
苦労して起こした火に水をかけて消す。煙が目印になるかもしれない。火だけでなく、焚き火の痕跡もなるべく蹴散らして隠しておく。
宝箱にも川の水をかけまくる。早く逃げ出したいが、貴重な道具は置いていけない。シャツとハンカチを使って、まだ熱い鍋をつかんで川に投げ込む。洗いながら冷やす。ざっと拭いて、そこに食糧の入ったコンビニ袋と、水の入ったボトルを詰める。串も何本か入れておく。
濡れたシャツはよくしぼって肩にかける。箱は左脇に抱え、いちばん太い灌木の幹を杖兼武器として右手に持つ。
できそこないのファンタジー旅人のできあがりだ。おれはどこか安全な場所を求めて歩き始めた。
もう嫌だ。たのむ、誰かここから助け出してくれ……!




