太陽が見える
日が高い。雲一つない快晴。でも風があってちょっと涼しい。石屋根は太陽光で少し暖まってて、硬いわりに寝心地は悪くなかった。だいぶ寝てたみたいだ。なんか変に体調がいい。脚なんか筋肉痛で動かなくなっててもおかしくないはずだが。背中もほとんど痛くない。
スマホを見る。今は昼の1時前か。10時間ぐらい眠ってたことになる。
「ん……?」
これも不思議なことに、寝てるうちにスマホのバッテリが70パーセントまで回復していた。壁を登る前の時点で30何パーセントかだったはずで、ここまで自然回復するとかあり得るのか?
寝てた石屋根にワイヤレス給電システムでも内蔵されてたのか? いやまさか、おれを誘拐した誰かが、おれの寝てる間に充電してくれてたとか……? さすがにないと思うが、ちょっと怖いな。登った先に食料が置いてあったのも不自然ではあるし。やっぱ脱出ゲームというかデスゲーム的なものがまだ続いてて、これから何かやらされるんだろうか?
犯人(?)の目的がまったく分からない。なろう小説だとこういうシチュでは邪悪なゲームマスターとかがいて、何らかのクリア条件とかが提示されてるもんだと思うが。いついつまでにどこそこまでたどり着けとか、何かの謎を解けとか、プレイヤーどうしで何かのアイテムを奪い合えとか。
それがいまだに何のコンタクトも説明もないのはどういうことなんだろう? イベントの段取りにミスがあっておれだけに伝達されてないのか、おれが寝てる間にアナウンスがあって気づいてないだけか? やっぱりゲームじゃなくてただの誘拐なのか?
このままここにいていいんだろうか? 疲れて寝入ってしまったが、危険はないのか? 敵意ある誰かに見られたりしてないだろうか? そもそもここはどこなんだ?
あらためて周囲を見渡す。石の床というか屋根が水平に広がってる。登ってきたときは暗くて分からなかったが、オレンジがかった黄色い石だ。ちょっとレンガっぽくもあるが、大きさはまちまちだ。建築のことはさっぱり分からないが、サイズの異なる石を四角く切り出して組み合わせたという感じ。まっすぐ十メートルほど伸びた先に縁があるようだが、遠くて下のほうは見えない。かなり大きい建物だな。
ふと、昨夜登ってきた穴が気になって後ろを向く。
「うわっ何これ!? 塔……?」
すぐ後ろにそびえ立つ石の壁があった。今いる屋根を突き破るような形で、石造りの建物がはるか高くまで伸びていた。近すぎるせいか、見上げても先端までは見えない。
今いるところは、塔を取りまく低い建物の屋根か。塔に接する部分だけ少し屋根板が途切れてる。おれはその隙間から出てきたのかな。
塔の横幅は5メートルぐらいに見える。俺のいた閉鎖空間の長さと同じだ。外壁の質感にも見覚えがある。まちがいない、1箇所だけザラザラしてた壁だ。そうかおれ、塔の外壁に背中をつけて登ってきたんだな。
しかし意味が分からんな。おれが閉じ込められてた場所は、塔と、それを囲むロの字もしくはコの字形の建物との隙間だったってことだ。わざと閉じ込めたにしてはどうも場所選びが不自然な気がする。気絶してるおれを塔に担ぎ上げようとしてうっかり屋根の隙間に落としたとかだろうか? そうなるとゲーム開始前に転落死した扱いになってるのか? それで案内が来ないのか? しかし転落したにしては怪我もしてないが。
何にしても、ずっと屋根の上にいるのは気持ちが落ち着かない。塔に入るなり地上に下りるなりして、どこか安全そうなところで今後の行動を考えたい。
この建物の雰囲気、日本国内とは思いにくいんだよな……