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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
終章 二つの世界、それぞれの未来
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第五百三話 帰宅 後編

 日本から持ち帰ったものは、形が有るものだけじゃない。知識こそが、貴重な財産である。その意味では、レイピアのレポートは至宝と言っても過言ではない。

 社会形成を司る概念的要素は、直ぐに取り入れられる訳ではない。今後、検討を重ねるた上で、是非を問う事になった。


 そしてペスカは議会の場で、神の長となった事を渋々とだが認めた。しかし、世界会議の参加は承諾しなかった。

 自分の影響力が、強く反映される事を嫌ったのだ。その代わり、深山を通して地球の知識を得ているロメリアを議員として推薦した。


 ロメリアの議会参加は大きな意義が有る。


 世界中の各所で、新たなムーブメントを起こしているペスカ。そして、荒廃したタールカールの復興を続け、新たな社会を構築している冬也。この二柱が、世界に与える影響は計り知れない。


 また、冬也の眷属であるアルキエル、ブル、スール、ミューモ。元々神であったアルキエルを除き、ただの眷属であった三体の魔獣は、既に神へと至っている。

 それを統べる冬也、そしてペスカが加われば、ロイスマリアをたった数日で滅ぶす事が出来る戦力で有ろう。


 更に、二柱に味方をする者は多い。


 新たに神の一員となったズマ、エレナ。エレナの弟子、レイピアとソニア。旧エルラフィア王国で要職に就いていた、シリウス、シルビア、マルス。

 平和の象徴として称えられる、セムスとメルフィー。更には、大地母神であるフィアーナ、女神ラアルフィーネ。

 そして、眷属として神への道を邁進している、モーリス、ケーリア、サムウェル。数え上げたらきりがない。


 ペスカと冬也の言動が全て正当化されるのは、余りにも危険だと言えよう。判断を間違える事が、絶対に無いと言い切れないのだ。だからこそ、正面から否と言える者が必要である。


 これまで神の世界では、ミュールが苦言を呈する役割を果たしていた。また、女神セリュシオネが中立の立場を取り、客観的な視点で理非曲直を説いていた。


 ここにロメリアが加われば、己の意志を持たずペスカと冬也に追随するだけの者は減るだろう。

 かつての邪神であり、生者の悪意を一番理解し、地球の文化や化学等を知っている。それだけに、誤った歴史を繰り返す事に否と言える。ロメリアは、貴重な存在であると言えよう。 


 ☆ ☆ ☆


 一方、パーチェの町に転移した冬也とアルキエルを待っていたのは、割れんばかりの拍手と喝采であった。


 暫くペスカ邸に主人が居ない事を、パーチェの住民は理解していた。それとなく、執事達に尋ねても行先は教えてくれない。ただ一言「いずれ戻られます、その際は皆さまにお伝えします」と言われるだけ。

 ペスカと冬也に惹かれて集まったのだ。帰って来ないとなれば不安にもなろう。戻ると言うならそれまでの間、しっかりと町を盛り上げねばなるまい。


 そして言葉通り、執事から先触れが有った。待っていた時が訪れたのだ。パーチェの住民達はその日、朝から祭りの準備をしていた。

 町を訪れるその瞬間を待って、準備を急いでいた。そして、観光客を巻き込み、目抜き通りは大賑わいになっていた。それ故の喝采であった。


 ペスカが隣に居ない事に、疑問の声を上げる者も存在した。しかし、ペスカは世界中を飛び回っている。冬也が帰って来たなら、ペスカも帰って来るだろう。町の人間達は、口々にそう話した。そう、町と深く関わってきたのは、冬也なのだ。


 多くの住民達が冬也の名を呼ぶ。仰々しい敬称を付けられるのを嫌う為、様をつけて呼ぶ住民はいない。呼び捨て半分、さん付け半分といったところだろうか。


「おい、冬也。今朝獲ってきた、大物だ。持ってけ」

「冬也さん。新しいメニューを作ったんです。味見して下さい」

「アルキエルさん。あんたも、食ってけよ」

「冬也さん、今夜は祭りだぜ。ペスカちゃんも直ぐに帰ってくんだろ?」

「冬也兄ちゃん。今度はいつ、武術を教えてくれるの?」

「冬也。土産話を聞かせてくれよ」

「馬鹿。土産話なら、ペスカちゃんかアルキエルさんに頼め。冬也さんの話しは、意味がわからねぇ」

「それが面白れぇんじゃねぇか。わかってねぇな」


 冬也の影響が大きいのだろう。他の街と違いパーチェでは、アルキエルが怖がられる事はない。幾ら、アルキエルが悪態をついても住民達は笑って流す。そして自然と皆が、冬也やアルキエルに集まってくる。この瞬間だろう。帰って来た実感が、冬也の中にこみ上げたのは。


「みんな、わざわざありがとう。一旦、家に帰ってから出直すからよ。先に盛り上がっててくれ」 

 

 柔らかな笑顔と共に、少ない言葉を交わし、冬也とアルキエルはパーチェの町を後にする。そして、帰って来た実感を噛みしめる様に、ゆっくりと家までの道程を歩く。

 自分が汗を流して開発して来た場所である。見渡せば、色々な思い出が蘇る。数年も離れていた訳ではない、しかし酷く懐かしさを感じる。

 そして、ペスカ邸に辿り着くと、玄関前には執事とメイドが集合していた。そして執事長が、代表して口を開く。


「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」

「長い事、留守にして悪かったな」

「いえ。スール様、ミューモ様、ブル様が気にかけて、度々屋敷を訪れて下さいました。フィアーナ様は、長期に渡って滞在なさって下さいました」

「そっか。あいつら、面倒かけなかったか?」

「その様な事はございません。ご自分で家事をなさる冬也様と違い、我ら一同、久々に腕が振るえました」

「あんたも、皮肉が上手くなったな」

「お褒めに預かり光栄です」

「いや、褒めてねぇよ」

「それと、お客様がお待ちになっております」


 首を傾げながら玄関の戸を潜りリビングへ向かうと、確かに見慣れた者がソファに座っていた。だが、それを来客と呼んでいいのだろうか。


 わざわざ訪れる理由がわからないのだ。


 鷹揚な態度でソファーに身を預け、自分達がロイスマリアに帰った事を歓迎する素振りも無い。わざわざ、礼をしに来る奴でもない。

 神として迎えられる事なく、その扱いは曖昧なまま。それでも、悩んでいる様子は感じない。それは奴にとって、大した問題ではないのだろう。

 

 冬也とアルキエルは、互いの顔を見ながら傾げた。何故、こいつがここにいるのだと。

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