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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
終章 二つの世界、それぞれの未来
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第五百二話 帰宅 前編

 ロイスマリアに帰還したペスカ達を待っていたのは、女神フィアーナを始めとした神々、そしてその眷属達であった。

 

「お帰り。冬也君、ペスカちゃん」

「ダーリン、お帰りなさい。ペスカちゃんもお帰りなさい」

「よく帰ってきたね。あんたらは、良く頑張ったよ。胸を張りな」

「ペスカ、よく帰ってきたニャ。冬也は、帰って来ないで良かったニャ」

「はぁ。君達は、よくよく騒動に好かれるんだね。黄泉平坂が大混雑だって、向こうの神が嘆いていたよ」

「セリュシオネ様の言う通りだ、東郷冬也! 貴様らのせいで、私が地球とやらに手伝いに行かされたのだぞ!」

「冬也殿、帰ったからには勝負して頂かねば。次こそ、一太刀でも浴びせてみせましょう」

「モーリス。志が低くはないか? だが、仕方あるまいな。俺は、立ってる自信すらない」

「相変わらずお前等は、糞真面目でつまらねぇな。冬也、ペスカ殿。今度、タールカールに遊びに行くからな」

「御一同、少し静かになさって下さい。ペスカ殿、冬也殿。お帰りなさいませ」


 がやがやと喧しく、そして皆が笑顔で迎える。それが何よりも嬉しい。それまで大泣きしていたペスカに、笑顔が生まれる。そして、冬也は柔らかい笑みを浮かべて皆に告げた。


「帰って来たぜ。みんな元気そうだな」

「はぁ? 相変わらずの馬鹿だね、あんたは。自分が何をしでかしたか、覚えてないのかい?」

「そうよダーリン。いきなりロメリアがこっちに送られて来たから、驚いたんだから」

「何言ってやがんだ、ミュール。ラアルフィーネさんも。今のロメリアは、滅多な事はしねぇだろ?」

「君ねぇ。説明も無しに送って来たのが、問題なんだよ」

「あんたまで、何言ってんだよセリュシオネ! 見りゃ直ぐにわかんだろ! それとも、あんたの目は相変わらず節穴か?」

「君は相変わらずなんだね。はぁ、エレナの言う通りだ。君だけ向こうに残れば良かったのに」


 冬也が一言を発しただけで、数倍になって返って来る。


 古の邪神が、ロイスマリアに現れた。それだけで、かなり慌てたのだろう。しかし、一部の者しか反応しなかったのは、『騒ぎにならないように一部の神だけの秘密にした』からに違いない。

 遼太郎の説得をする為、フィアーナを日本に呼んだ時も、それに関する詳しい話はしていない。


「それで、ロメリアは何処だ?」

「知らないよ。それにあいつの承認は、据え置きになったからね」

「据え置き? ミュール、またあんたがいちゃもんつけたのか?」

「失礼だね。直ぐに信用しろなんて、無茶言うんじゃないよ!」

「ったく、頭がかてぇな」


 ミュールと口論を繰り広げながらも、冬也は辺りを見回している。ペスカも、同じく周囲を見渡していた。

 先に多くの荷物を送ったのだ。その荷物が見当たらない。それどころか、レイピア、ソニア、ゼル、ブルの姿もない。この場にいるのはアルキエルだけ。

 また、スールとミューモなら、神々が出迎えに来る前に、目の前に姿を現しそうである。しかし、姿を見かけない。ペスカと冬也が、少し訝し気な表情をしていると、アルキエルが静かに口を開いた。


「荷物は、他の議員が議事堂に運びやがった。一度整理するんだとよ。俺達の分は、後で持って来させる」

「アルキエル、他の子達は?」

「レイピアとソニアは、荷物の片付けと会議の準備するそうだ。ゼルは、ミューモがエルラフィアに送っていった。ブルは、スールが送っていった。苗を植え替えた後、家に寄るそうだ。スパイスの苗は、タールカールに植えるんだとよ」


 さもダルそうに、アルキエルが説明する中、聞き覚えの有る言葉が耳に届いたのだろう。これまで静かにしていたフィアーナが、血相を変えてアルキエルに詰め寄った。


「あなた今、スパイスって言ったわよね」

「それがどうした、フィアーナ」

「スパイスって、あのスパイスよね」

「あぁ? 何だ? 知ってんのか?」

「ちょっと、フィアーナ。どうしたのよ。すぱいすって何よ」

「ラアルフィーネ。せっかくだから、お前もよく聞け」

「ちょっと、何? あんた、妙な物、持ってきたんじゃないでしょうね!」

「そうじゃねぇ、ミュール。いいか、よく聞け。スパイスってのはな、カレーに使うんだ。カレーってのは、すげぇうめぇ食いもんだ。お前ら、一度食ったら、病みつきになるからな。あれは、世界をひっくり返す食いもんだ」

「ほんとなの? アルキエル、ほんとうにカレーが食べられるのね」

「ったりめぇだフィアーナ。お前も知ってるなら、あの旨さがわかるだろ! 冬也が調合を学んで来た。それとな。いや、お前ら、ここだけの秘密にしとけよ」

「何よ、今度は何よ!」

「ラアルフィーネ。お前の所に、魚人がいるよな。この世界で唯一、生の魚を食う奴らだ」

「それがどうしたの?」

「いいか。タールカールにパーチェって町が有るだろ? そこで、寿司って食いもんが流行るはずだ」

「寿司? お寿司って言った?」

「そうだフィアーナ。お前、寿司も知ってんのか?」

「お寿司って、そんな。誰が握るのよ」

「冬也だ。あいつは修業をして来た。なかなかの腕だ。いいかお前ら、食の神が帰って来たんだ。革命が起きると思ってろ!」


 アルキエルの言葉で、興奮したフィアーナは冬也に詰め寄ると、両肩を掴んで大きく揺さぶる。対して冬也は面倒そうに、フィアーナの手を振りほどく。

 また、名物らしい名物が無いアンドロケインに名物が生まれるチャンスと、女神ラアルフィーネが小躍りをしている。

 そんな光景を、呆れた表情でペスカは眺める。アンドロケイン出身であるエレナも、呆れた表情を浮かべていた。


「アルは馬鹿ニャ。作るのは全部冬也ニャ」

「教官。それは、仰らない方がよろしいかと」

「それより、冬也はいつ、食の神になったのニャ?」

「恐らく言葉の綾でしょう。冬也殿とペスカ殿は、何にも囚われない自由な方です」


 銘々が話し始め、議事堂前は更に喧しくなる。ややうんざり気味の冬也を見かねたのか、ミュールが口を開いた。


「あんたら、そろそろ会議の時間だよ。皆、議事堂に入りな。冬也、あんたはパーチェの奴らに顔を見せてやりな。それとペスカ。あんたは残るんだよ」


 ミュールの言葉で、神々が次々と議事堂に戻っていく中、帰宅しようと歩き出したペスカ達は、思わず振り向いた。


「なんで、私だけ?」

「決まってんじゃないか。あんたは、神の長なんだよ」

「それって、マジなの?」

「大マジだよ」

「まぁ。仕方ねぇよ、先に帰ってるからな、ペスカ」

「ちょっと、お兄ちゃん。置いてくの?」

「適当に済ませて、早く帰って来い。飯の支度しとくからよ」

「もう! 仕方ないなあ」


 冬也とアルキエルは、議事堂から少し離れた場所まで歩くと、自宅へと転移する。そして、ペスカはミュールの後に続いて議事堂の中へ入っていった。


 議事堂内は、レイピア達が準備を済ませており多くの議員が席に着いていた。議会は、レイピアの概要報告から始まり、簡単な質疑応答へと移る。レイピアのレポートは、膨大な量で有る。全てを説明しては数日有っても足りない。

 また、質疑応答の内容は主な経緯に関する事に止まる。そしてこの日は、幾つかの事項を取り決めて解散となった。


 日本から持ち帰った物の内、資料用として購入した物は、議会で管理する事が決まった。調味料を始め、加工品や飲料、家電製品等の製造方法も、レイピアのレポートに記載されている。流石に、全てを作れる訳もなく、取り入れる物も検討するべきだろう。


 ただし、調味料についてはブルと冬也に任される事となった。ペスカは、ブルが生産目的で購入し、冬也が了承している旨を議会で説明した。冬也については、既にラーメン等で成果を上げている。承認されるのは、自明の理であったのだろう。

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