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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
終章 二つの世界、それぞれの未来
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第五百話 別れ 前編

 この日、東郷邸は久しぶりに雑然としていた。


 ここ最近、東郷邸で暮らしている者達は、異世界からの訪問者と、外務大臣令で接待を命じられた翔一、エリーである。それだけでも、そこそこの数になる。

 それが、この日に限っては、遼太郎を始めとした旧特霊局府中事務所の面々が、顔を揃えていた。


 理由は一つ、ロイスマリアに帰還する、ペスカ達を見送る為である。


 帰還にあたり、荷物の整理をする必要が有る。何故なら、翔一とエリーが尽力した社会見学ツアーで、参加者達は様々な物を購入した。

 塩、醤油、味噌等の調味料を始め、日本酒、焼酎、ビール等の酒類。缶詰、レトルト食品、カップラーメン等の保存食。テレビ、冷蔵庫、電子レンジ等の家電製品。果てや数種のゲーム機とゲームソフトに至るまで。


 単なる土産ではなく、資料の意味も含めている、その為、一つ一つの品が数十個にも及ぶ。そして、これらの購入代金は、外務省特別補佐局の経費から捻出されたのではなく、冬也が長年に渡って少しずつ行った貯金や、ペスカが株等で儲けた収入で全て賄われた。


 冬也曰く、ロイスマリアに持ってく物を、日本の税金で買う訳にはいかねぇ。その意見にペスカも賛同した。当然ながら、今後ロイスマリアに拠点を置く事になる二柱が、日本の通貨を所持し続けても使用する機会は少ない。

 二柱は、貯金を全て取り崩しレイピアとソニアに管理を任せた。そして、必要と思われる物は、複数量購入する様に指示をしていた。その結果、東郷邸の庭に設置されていた大型の物置が、満杯になる事態となった。


 その荷物を、冬也とゼルが汗を流して所定の場所に運ぶ。そして、お人好しの翔一と安西がそれを手伝う。東郷邸では朝からそんな光景が繰り広げられていた。


「わりぃな、ゼル。結局、荷物の整理から運ぶ所までやらせちまって」

「いえ、俺は戦う事しか出来ませんから。せめて、この位は役に立たせて下さい」


 そう言いつつも、空や美咲が居なくなった東郷邸を掃除し、清潔に保っていたのはゼルである。「レイピアとソニアは、報告書をまとめる為に時間を費やしている。自分は何も出来ないから、家事を教えて欲しい」と頼み込み自ら率先して行動した。

 そして、ゼルは掃除だけでなく洗濯機の使用方法も学び、料理以外の家事を全て行っていた。ゼルもまた、この地で多くの事を学んだ一人であろう。


「安西さんは、休んでてくれよ。あんたは客だろ? 翔一もだ。忙しかったんだし、俺らが居なくなったら、親父にこき使われるんだ。休める時に休まないと、体壊すぞ!」

「そういう訳には行くか! お前らが汗を流してる所を、のんびり見てられるのは、先輩だけだ」

「そうだよ冬也。僕はこれでも、君と東郷さんに鍛えられたんだ。体力には自信が有るよ」

「ったく、お人好しな連中だ」

「それは、お前に言われたないぞ冬也」

「そうだよ。君ほどじゃない」


 ☆ ☆ ☆


 ブルと言えば、家庭菜園に一時的に植えた、スパイスの元となる数十種類の苗、大豆の苗等、ロイスマリアで新たに栽培する予定の苗を運ぶ準備をしていた。そして、残していく野菜等は管理方法をクラウスに教えていた。


「理解しました。単に水をやるだけでは、駄目なんですね」

「そうなんだな。後は植え替えの時の注意なんだな。一緒に植えたら駄目なやつが有るだな。それと連作障害を防ぐ為に、植える野菜も考えなきゃ駄目なんだな」

「畏まりましたブル様」

「堆肥作りから、一緒に植えて大丈夫なのと駄目なの、輪作の仕方、色々とまとめておいたから、後で読むと良いんだな」

「ありがとうございます、ブル殿。この世界の人間は、こんな工夫をしていたんですね。勉強不足でした」

「仕方ないんだな。クラウスは、貴族で統治するのが仕事だったんだな」

「しかし、ロイスマリアでは考えられない工夫ですね。これが行われれば、神々の負担も減るでしょう」


 ロイスマリアでは、大地母神が大地を潤す為、連作障害や不作を気にする必要はない。この世界に来てブルは、神の力に頼らず土地を豊かにする方法を知った。そして、ロイスマリアでの手法に疑問を持ち始めていたのだ。


「たかが、家庭菜園なんだな。失敗しても、大きな影響は無いんだな。だから気楽に、色々と挑戦して、学ぶと良いんだな」

「はい。いつか、私の手で育てた野菜を、ロイスマリアにお送りします」

「嬉しいんだな。待ってるんだな」


 ブルの笑顔は、人の心を和らげる力を持っているのだろう。心なしか、クラウスの表情が綻んでいた。


 ☆ ☆ ☆


 一方その頃、ペスカ、レイピア、ソニアは、魔法陣の最終確認を行っていた。

 

 ゲートの魔法は、異空間を繋ぐ大魔法である。その為、膨大な神気を必要とする。行先で同様の魔法を使用すれば、多少は神気の消費を軽減させる事が出来る。また、目的地の特定も可能になる。


 ただ、従来の方法は非効率的である。両側に、ゲートの魔法を使用出来る術者の存在が有っても、非効率である事は否めない。それでも、改良が行われなかったのは行き来が少ないからであろう。


 そして、クラウスが地球を離れたら地球側の術者が不在となる。その為、ペスカが考案し女神フィアーナが改良を加えたのが、新たなゲート魔法の術式である。

 

「神気やマナの軽減化と共に、位置指定の意味も含まれていると。流石です、ペスカ様」

「姉さん、それだけでは無いですよ。この魔法陣は、フィアーナ様が権限者になってます。フィアーナ様の許可が無ければ、幾ら神気やマナを注ごうとも、魔法陣が発動する事は有りません」

「流石に二人は理解が早いね。パパリンがこの家を売らない限り、ロイスマリアから来る時は、ここに繋がるよ。ロイスマリア側の魔法陣は、議事堂前に設置して貰ったよ」

「こちらの方々は、それで了承なさったのですか?」

「まあね。パパリンと三島のおじさんが、駄目って言う訳無いし。深山さんからもオッケー貰ったよ」

「フィアーナ様から、周知されているとは思いますが、師匠にも報告致します。ロイスマリアと地球で、正式に行き来を可能にする為には、乗り越える壁が多いですから」

「うん。まぁエレナだけじゃ頼りないから、二人が支えてあげてね。特に知恵の部分はさ」

「畏まりましたペスカ様」

「確かに師匠は、冬也様と似ている所がございます。承りましたペスカ様」

「こら、ソニア! そんな言い方は、師匠と冬也様に失礼ですよ! お二方とも、大変ご立派な方です!」

「レイピア、叱らないであげて。ソニアの言う事は、尤もだもん。だって脳筋仲間だし」


 ペスカの言葉に二人は笑顔を見せた。話しながらも確認作業は進む。そして冬也達が荷物を魔法陣の上に積んでいく。後は、皆が魔法陣の中に集まり、ゲートの魔法を発動させるだけとなった。

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