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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
終章 二つの世界、それぞれの未来

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第四百八十五話 遼太郎の決断 前編

 戦いが終わり数日も経たずに、各国は戦争に至った経緯や、その背景を詳らかにした。


 邪悪な神の存在、それにミストルティンの存在と、実行部隊として存在する複数の下部組織の暗躍。他にも深山達の行動とその理由、テロリストと見なされていた特霊局の活躍、組織に反抗してまで正義を貫いた一部の警官達の存在。

 異界からの訪問者を除く、事態に関わった者達、戦い半ばにして命を落とした者達についても説明が行われた。


 そして自国の組織をテロリストと認定した日本政府は、公式に発言を撤回する。三島を除く特霊局員は、時の人となる。また、佐藤ら警察チームも功績を称えられ、昇進した上で再度警察に迎えられる。


 それと反比例する様に、ミストルティンやその下部組織へ批判は集中する。但し、既にミストルティンのメンバーは、生ける屍と成り果てている。

 唯一、無事であった三島が、ミストルティンとそれに関わる組織の解体を宣言。そして、組織全体が保有する、財産の全てを復興へと充てる事を、公式会見で明らかにした。


 そして自らは、経験と知識を新世界の為に活かす事を約した。


 深山に関しても批判の声は上がった。確かに人類を洗脳した事は許し難い。しかし、ミストルティンによる人類選別計画の阻止を、行動目的としていた深山に関しては『批判よりも養護』する声が多かった。

 

 三島の発言を受けて、富を独占していた富裕層は保有する財産の全てを集めて、復興及び慈善事業を行う為の基金を設立する。

 また三島の指導により、基金から復興に関する資金が各国に流れる。また、困窮する国々への援助活動も開始された。


 世界各地で戦争復興が行われると共に、大々的な慰霊祭も執り行われる。更に国連やその関連組織が解散となる。同時に、世界各国の首脳及び、それに代わる権限を持つ者を代表者とした、人類史上初の世界平和と統治を目的とした世界政府が樹立される。


 慌ただしく変化する情勢、その多くを指揮していたのは、依然として世界中に影響力を持つ三島であった。

 無論、首脳達を集め、戦争を終わらせたペスカの存在も、欠かす事は出来ない。ただし、ペスカは既に異界の神である。地球での影響を軽減する為に直接的な関与は行わず、あくまでも補助的な役割を果たした。それでも、世界政府を設立する中で、取り決めなければならない事は、山の様に存在する。ペスカは、忙しく各地を飛び回る事になる。

 

 また佐藤は、自ら宣言した通り公的な記録作成に取り掛かる。記録の作成に当り、佐藤は冬也に証言を求めた。冬也もまた、忙しない日々を過ごす事になった。


 ミストルティンの下部組織が全て解散した事を受けて、特霊局も解体となる。但し、主な構成員が陰陽師である赤坂と北千住事務所の面々は、正式に政府の依頼を受けて高尾周辺の復興に取り掛かる。

 また、日本では内閣の解散と総選挙が行われる。この際に深山が当選し外務大臣として入閣を果たす。そして深山の要望により、外務省の特別機関として元特霊局の面々が集められる事になる。


 ☆ ☆ ☆


 この日、珍しく休みが重なったペスカと冬也を連れて、遼太郎は外出する事にした。移動手段は、つい最近になって米軍から回収出来た自家用車である。

 ブルが着いて行こうとしたが、それを止めたのは意外にもアルキエルである。せっかっくの親子水入らずなのだ、水を差す訳には行くまい。それは、アルキエルらしい判断であった。


 後部座席を陣取る冬也に対し、珍しくペスカは、冬也の隣ではなく助手席に座る。そして、手を振るブルを横目に車は走り出した。

 

「それにしても、外務省って。パパリンはともかく、他の人達は大丈夫なの?」

「問題ねぇよ。エリーは、日本語がいまいちなだけで、フランス語とドイツ語が堪能だ。安西は中国語とハングルだっけか? リンリンはよく覚えてねぇけど、十か国語位は話せたはずだ」

「うそ! リンリンの癖に、ハイスペック! じゃあ問題は、翔一君だけだね」

「翔一の奴も問題ねぇだろ。あいつが頭良いのは、お前も知ってんだろ?」

「う~ん、翔一君は成績は良いかもしれないけど、要領が悪いからね」

「相変わらずお前は、翔一に対して厳しいな」

「だって、お兄ちゃんがいなければ、何も出来ないんだもん。本当は、モーリスに鍛えて貰うつもりだったんだけどさ。まぁいいや。パパリンがちゃんと鍛えてあげてね」

「冬也がいなければ、何も出来ねぇのは、お前だろペスカ」

「そんな事ないもん! ちゃんと頑張ってるもん! パパリンのバーカ、バーカ、うんこ!」


 車内の会話が弾んでいる訳では無い。冬也が押し黙っている為、車内の空気が重いのだ。故にペスカが、気を使って明るく振舞っている。

 別段、冬也が怒っている訳では無い。目的も告げずに、遼太郎は車を走らせている。その事に対して、冬也が不満を持っているのでも無い。

 冬也は何かを考える様に、じっと一点を見つめている。それに対して、遼太郎は一切触れない。気まずい雰囲気を、何とか緩和しようと奮闘するペスカは、娘の鏡だろう。


 一時間が過ぎた頃に、車は目的地に到着する。そして着いた先は墓苑であった。遼太郎の後について、ペスカと冬也は歩みを進める。目的の場所へと辿り着くと、そこには東郷遼太郎と書かれた墓石があった。


「これはよぉ。冬也、お前が生まれて直ぐに作ったんだ。当時は何となくって感じだったけど、今ならその理由が理解出来るぜ」


 遼太郎は静かに語り出した。


 自分の神気は全て無くなった。それにより神格の維持が困難になった。元を辿れば、アルキエルから逃れる為に神格を分断した。割れた神格を、誰ともわからない魂魄と強引に融合させたのだ。

 魂魄側に歪が出来なかったのは、神格が守ったせいである。しかし、神格の維持が儘ならなければ魂魄は崩壊する。


 地上の生物は、その一生で多くの経験を得る。しかし、魂魄には容量が有る。一生で得る経験は、魂魄の容量を超える。それ故に星の記憶へ経験を託し、真っ新な状態で転生を行うのだ。

 何度も転生を繰り返し、経験を積み重ねる事で魂魄の容量は成長を遂げる。より、多くの経験が蓄えられる程に成長した時、魂魄は神格へと変わる。


 ミスラの神格と融合した魂魄は、神格を持つが故に成長する事は無かった。言い換えれば、既に神格を備えている為に成長する必要が無かった。

 ミスラの神格が融合された魂魄から消え失せれば、容量を超えて経験を蓄積し続けた事により自壊する。


「ミスラとして、神格を分断しても生き延びた目的は、既に果たされた。これ以上、転生する目的はねぇ」


 最後の別れとも言える遼太郎の言葉に、ペスカと冬也は深い溜息をついた。


「なぁ、糞親父。俺達を馬鹿にでもしてんのか? それとも、てめぇが馬鹿なだけか?」

「そうだよ、パパリン。私達が気付いてないと、本気で思ってたの?」

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