表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
終章 二つの世界、それぞれの未来
478/506

第四百七十七話 ロメリアの承認 前編

 全てが純白で一切の澱みが無い神の空間。神の意志で作られたその空間は、次元という概念が存在しない。有ると思えば存在する。無いと思えば触れる事さえ叶わない。

 そこに入る事が可能なのは、神気を持つ者のみ。例え、どんなに意志の力が強くても、神気を持たぬ者には空間の存在を認識出来ない。


 その神の空間へ、久方ぶりに神々が集められていた。アルキエルの件以来、大幅に数を減らした神々。今回集められたのは神だけでなく、その眷属までもが呼ばれていた。

 

 ラフィスフィア大陸を拠点とする、女神フィアーナを頂点とする原初の神々。その眷属として、モーリス、ケーリア、サムウェルが顔を揃える。


 アンドロケイン大陸を拠点とする神は、先の戦いで多くを失った。参加したのは、女神ラアルフィーネと数名の神、そして眷属から神へと至ったばかりのエレナであった。


 アンドロケインとは対照的に、ドラグスメリアから参加した面々は、圧巻と言わざるを得ない。

 女神ミュールを中心とした神々。そして眷属であるズマを先頭に、四大魔獣と巨人族のスルト、アトラス、アルゴスが集まっていた。


 そして、女神セリュシオネの眷属として、旧ライン帝国の皇帝と、クロノスが参加している。


 通常ならば、議長を中心とした円形の席が設けられる。しかし、神の数が減少している。その為、今回は座談会の様な形式を取っていた。

 それぞれの神と眷属が役割を果たす中、久しぶりに顔を合わせる者も少なくはない。銘々が情報交換等を行い、未だ到着していない二柱の女神を待っていた。


「結局、いつもあなたは遅れるんですね。それ程、忙しいとも思えないのですが」

「今回は仕方ないのよ、セリュシオネ。冬也君から突然連絡があって、ロメリアを送って来たんだもの」 

「まぁ、そういう事にしておきましょう。いつも出迎える、私の身にもなって下さい」

「悪かったと思ってるのよ」

「なら、少しでも急いで下さい。皆があなたの到着を待ってます」


 溜息交じりに話しをするのは、生と死を司る女神セリュシオネ。そして柔らかい口調で、呑気な態度を崩さないのは、神々の長とみなされている大地母神フィアーナ。


 地上の生物と神々が協力し、世界の行く末を決める様になってから、神々の協議会が開かれる事は減っていた。それだけ、神のみで決議する事項が少なくなっているのだろう。

 前回開かれたのは、ブルとエレナが神として承認された時。そして今回の議題は、新たな神として生まれ変わったロメリアが、神の一員として承認するか否かである。


 古の邪神にして、狡猾な手段で世界に混沌を引き起こしてきたロメリアである。遺恨が有る神も多かろう。簡単に承認されるとは思えない、寧ろ協議の場は荒れるだろう。その事が、フィアーナの歩みを遅くしていた。


 一方その頃、協議会の会場では一同が雑談に花を咲かせ、ガヤガヤとした賑わいをみせていた。


 世界は復興の只中に有る。しかし神々が、自由に動き回り旧交を温め合う。その光景は、今までには無かったものである。それは、新たに加わった眷属達の影響も大きいのだろう。間違いなく、神の世界も変革を迎えていた。


「ところで、ミューモの旦那。あんたは、行かないで良かったのかい?」

「既にアルキエルが行っている。その上、ブルが向かったのだ。我らが行けば、過剰戦力になり、地上への影響は計り知れない」

「相変わらず、お堅いねぇ。あんた等は、主の危機に一も二も無く馳せ参じるじゃねぇか」

「当然だ。我らは家族だ。家族の危機には何を置いても駆けつける」

「でも、向かったのは。農耕の神だろ? 役に立つのか?」

「サムウェル。幾ら貴様でも、ブルを馬鹿にする事は許さんぞ! モーリス、ケーリア、エレナ、そして貴様は、人間や亜人にしては恐ろしく強い。だが、ブルの足元にも及ばん。我らでさえブルを傷付ける事は、至難の業なのだ」

「まぁ、その位にしておけ、ミューモ。こ奴らは、まだまだ力を付けている最中じゃ。油断していると、足元を掬われる」

「慢心せずに精進を重ねるからこそ、あなた方は強く有り続けられるのでしょうな」

「モーリス。お前の言う通りだ。我らはこの中でも、一番のひよっこだ。負けずに精進あるのみ」

「あぁ、やだねぇ。真面目な奴ばっかりでさぁ」

「サムウェル。ケーリアの言う通りですよ。あなたは、少し真面目に取り組む事を知りなさい」

「レオーネ。最近、やたらと口やかましな」

「それは、あなたが悪いんです!」

「少なくとも、俺は真面目だぜ。時間も守ってるしな。少なくとも、そこで寝息を立ててる猫や、食い歩きをして遅れた、どっかの女神様とは違うんだぜぇ」

「御一同、そろそろ到着の様です。お静かに」


 余り会話には参加せず、凛とした姿で座るのは、王であった頃の名残であろうか。ズマの一声で、会場は静まり返る。 

 そして、静かにフィアーナと女神セリュシオネが、議場に足を踏み入れた。


「お待たせしました。早速ですが始めましょう。皆さん、お座りください」


 フィアーナの一言で、一同が車座になり次の言葉を待つ。そして、フィアーナは、異世界である地球で起きた出来事と、今回の議題について説明を行った。


 フィアーナは重い口調で、しかも言葉を選びながら説明を行う。


 一大事である事は、間違いないのだ。ロイスマリアの神が、異世界に悪影響を与えた。しかもその結果、大きな混乱を招いた。

 ただ今回の議題は、原因の究明や糾弾ではない。新たに生まれた神を、ロイスマリアの神として承認するか否かである。


 神を除き、邪神ロメリアと実際に対峙した者は、眷属の中には存在しない。ドラグスメリア出身の者でさえ、邪神ロメリアを模した分霊体と対峙した経験しかない。しかし、邪神ロメリアがどの様な存在か、その所業も含めて十二分に理解している。

 

 原初の神に反旗を翻した、今は無き反フィアーナ派でさえも、邪神ロメリアに唆された犠牲者と言えよう。

 元を正せば、邪神ロメリアは全ての元凶である。冬也等が浄化したから、もう問題は起こさない。その保証が、何処にある。

 疑ってかかるのは当然だ。説明を終えたフィアーナへ、多くの質問が投げかけられるのも、無理の無い事だろう。


 だが、フィアーナは質問に対して一切の返答をしなかった。発したのは一言だけ。


「実際に、自分の目で見て確かめなさい。質問はそれからよ」


 フィアーナは皆にそう告げると、議場の入り口に向かって、手招きする様な仕草を行う。そして、議場にゆっくりと足を踏み入れた新たな神は、邪神ロメリアそのものの姿をしていた。


 一同は息を呑む。さもありなん。その姿は、かつて世界を混乱に陥れた邪神の姿である。否応なしに、過去の惨劇を思い出させられる。


 邪神というシステム上、ある程度の所業は大目に見て来た。それを理解しているからこそ、不安を感じざるを得ない。

 確かに目の前にいる、新たな神からは一切の邪気を感じない。しかし、過去の記憶を全て有しているなら、再び邪神になり得る可能性も秘めているはずなのだ。リスクを回避するならば、存在を抹消するのが適切な対応なのだろう。


 原初の神々からは、危険性を訴える声が次々と上がる。しかし、それに異を唱えたのは、意外にも地上の生物から眷属となった者達であった。


 過去の行いと、未来の可能性は、切り離して考えるべきだ。過去を省みて、危惧するのも仕方がない。しかし、それだけで未来を摘み取るのは、今までと何も変わらない。地上では種族を超えて、手を取り合おうとしている。地上の者達が出来て、なぜ神が出来ない。

 少なくとも、我々は彼の意志を聞いていない。我々の勝手な憶測で決断するのは、公平だと言えるのか?


 直接の被害を被ったのは、神々ではなく地上の生物である。遺恨が有り容易に認めれない、それが眷属達の口から放たれるなら理解出来る。


 ただ、眷属達の口から、そんな言葉が出るとは、原初の神々でさえ驚きを隠せなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ