表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
476/506

第四百七十五話 邪神ロメリア ~悪意の消滅~

 遼太郎はロメリアに向かって拳を振るう。人にしては速い。しかし、二柱の神には止まっている様にしか見えない。それは、ロメリアも同じだろう。

 ロメリアは遼太郎の拳を軽々と受け止めると、掴んだまま遼太郎を振り回して放り投げる。


「はははっ! 僕に挑んで来る位だから、どれ程かと思ったけど。さっきの雑魚共と何ら変わりないじゃないかぁ! つまらない真似はしないで欲しいねぇ!」


 遼太郎の後ろには冬也とペスカが控えているのだ。ロメリアが劣勢である事に変わりはない。しかし、ロメリアは遼太郎との差に優越感を覚え、高笑いをしていた。

 どれ程に力を増しても二柱には敵わないと悟らされた。だからこそだろう。格下を相手に優位に立てる事に、自尊心を擽られた。


 しかし、遼太郎の本領はこんなものではない。赤腕の鬼とまで呼ばれ、あらゆる格闘の技を収めた男だ。神気を失ったとて、むざむざと敗北などしない。そんな柔な覚悟で神に挑んだりはしない。


 ただ、ロメリアには遼太郎の覚悟など知った事ではない。理解する必要すらない。視界に入れる事さえ無駄な、矮小な人間だ。

 確かに、少し前に歯向かって来た連中は、人間にしては多少マシだった。しかし、纏っている邪気に手古摺る連中だ。たかが知れている。奴はそれと同じだ。


 ロメリアは瞬時にして、遼太郎との距離を詰める。相手は人間、剣は不要。そして、下から突き上げる様にして、腹部へ向かって拳を振るう。一方、遼太郎はロメリアの攻撃に反応し、瞬時に手印を結ぶ。


「略式だ! 金剛盾!」


 驚いたのはロメリアだろう。振り上げた拳は、何もない空間に阻まれたのだから。それは、先の人間が作っていた様な結界とは別物だ。

 然程、本気を出して殴った訳では無い。それでも、神の拳を人間に止められる訳が無い。邪気を受け付けない、あのメスガキが特別なのだ。

 

「何をした!」

「ロイスマリアの野郎にはわからんだろうよ。まぁ、手札を教えてやる義理はねぇし、かかってこいよ。俺とそこいらの連中を同じにすんなよ!」

「舐めた事を言うなよ、人間! 後悔するぞ!」


 せっかく書き換えた神域は、再びクソガキの神域に戻った。これでは思う様に動けない。せっかく集めた邪気は殆ど残っていない。これでは剣を出しても、クソガキに傷一つ付けられない。


 しかし、人間相手なら充分だ。


 この人間を殺せば、クソガキとクソ雌は動揺するだろう。そこに隙が出来るはず。逃げられる。それなら、残酷に、惨忍に、むごたらしくぶち殺そう。


 そして、ロメリアは剣を出現させる。そして、遼太郎との間合いを詰めながら、振り上げた。しかし、それはわかっていた事だ。

  

「あめぇよ! 羂索縛!」

 

 遼太郎が手印を結ぶと、大地から縄の様な物が何本も伸びる。そして、ロメリアの両手足を縛りつけていく。ロメリアは身動きが取れず、手から剣が離れる。離れた剣は宙で消えていく。


 それだけでは無かった。


 残り少なくなった邪気が、羂索を通じて大地に吸われていく。吸われた邪気は、冬也の神気に触れて浄化されていく。

 

 禍々しい力が邪魔なんだ。これが有るから、ロメリアが変わってしまったんだ。だから、極限まで吸い取る。ここは、冬也の領域だ。少し位は力を借りても文句はねぇだろうよ。


 遼太郎の狙いは、ロメリアを封じる事ではない。邪気を吸い取る事ですらない。本当の狙いは、変貌したロメリアの目を覚まさせる事だ。純粋だからこそ曲がってしまった可哀想な親友を助ける事だ。


 五分、十分と時間は経過していく。ロメリアが手足をバタバタとさせても、羂索からは逃れられない。既に露わになっていたロメリアの神格は、更に露出する。ロメリアから邪気が減っていくのがわかる。


 既に人型を保つことすら困難なのだろう。縛られた箇所から、腐り落ちるかの様に手足を模っていた物が剥がれ落ちる。そうして、ようやくロメリアは羂索から解放される。膝を突くしかないロメリアを、遼太郎が見下ろす。完全に形勢が逆転する。


 敗北感で包まれる。絶望に塗り替えていく。


 これまで、どんな時だって生き延びて来た。原初の神にだって抗ってみせた。それが、クソガキやクソ雌ならば納得もしよう。それだけの存在だ。それは認めよう。でも、目の前に立ちはだかっているのは、たかが人間だ。

 その人間如きにここまで追い込まれた。もう、消滅するしかない。もう、勝てる見込みはない。

 

「く、くそが、こんな、はずじゃ」

「もう限界か? そうじゃねぇよな。そんなんじゃねぇよな。ダチ公!」


 格下と思っていた相手に見下ろされ、尊大に吐かれた言葉は、敗北感で埋め尽くされたロメリアを怒りで塗り替える。

 

「逆だ、見下ろすのは僕だ! ボロボロにして見下ろして、その台詞を言うのは僕なんだ! 決して貴様なんかではない、クソガキぃ!」

 

 ロメリアは気を吐いた。だが、それだけで覆せる差ではない。ロメリアの瞳に闘志が宿る。未だかつて見せた事の無い闘志が。そして、再び立ち上がる。


 それこそが、奇跡の始まりであったのだろう。


 ロメリアはただ拳を握り、目の前の男を殴りつけた。そして、遼太郎はその拳を躱す事をせず、頬で受け止めた。

 もう邪気は感じられない。それ程に弱っている。だから、どんな攻撃を受けても痛くはない。何度も、何度も、何度も、ロメリアは遼太郎の顔を殴りつける。どれだけ殴られても、遼太郎は鼻血すら出さない。それでも諦めずに、ロメリアは殴る。

 

 ロメリアを構成する様々な悪意が、怒りの一つに変わっていく。純粋な怒りは、純粋な闘志を呼ぶ。それこそが、大きな壁を乗り越える力となる。

 次第に、ロメリアの拳に闘志が宿っていく。怒りが、憎しみが昇華されていく。一心不乱にロメリアは拳を振るう。


 ロメリアは知らない。それは、既に邪悪ではない事に。


 悪意と善意は対極に有る様で、裏返しでもある。言わば、表裏一体の関係なのだ。悪意しか持たない、善意しか持たないのは、寧ろ歪んでいるとさえ言えよう。

 

 誰でも嫉妬する、だから負けまいと向上する。誰でも怒る、それが前進する力となる。だから、成長するのだ。

 神が成長を止めたとすれば、どちらか一方しか持たない事が原因なのだろう。そもそも、システムとしての神ならば、それに則り行動するしか出来ない。

 だが古のロメリアは、邪神というシステムを乗り越えて一歩を踏み出した。それを奇跡と呼ばずに何と呼ぶ。

 

 かつては、消滅させる事しか出来なかった。そして新たに生まれた邪神、アルドメラクは、システムに則り浄化という最後を迎えた。

 しかし遼太郎に導かれ、ロメリアが出した答えは、第三の可能性を示唆する。それは、浄化の先に有るものだろう。


「なぁ、ダチ公。本気でぶつかり合えば、分かり合えんだよ。面白れぇだろ?」

「忌々しいだけだ! 僕が、この僕が何で、こんなに必死にならなくちゃいけない!」

「そりゃ、勝ちてぇからに決まってんだろ! 負けりゃ悔しくて、だから次は勝ちてぇと思う。てめぇだって、そんな風に考えるだろ!」

「僕は邪神だぞ! 僕に敗北は無い! 全ての悪意を集めて、全てを壊して無に帰す! ただそれだけだ!」

「いや、お前は違うね。お前は悔しがるんだ! だから執念深く冬也達に挑んだんだ! 違うか? お前は運命に抗った時、既に手に入れてたんだよ」

「何をだ!」

「可能性だ!」

「馬鹿か! 何を言ってる!」

「いいか。神って連中は、己の使命を全うするだけの存在だ。機械みてぇなもんだ。だが今のアルキエルを見ろ! あいつは、戦いに縛られない。だから、何にでもなれる。俺は神の座を捨てて人間になった。お前だってそうだ」

「いつまでも、戯言を抜かすな!」

「いい加減、認めろよ! 自分自身を縛り付けてるのは、お前なんだ! せっかくの可能性を、今度こそ逃すんじゃねぇ! 勝ち取ってみせろや!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ