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第四百七十二話 邪神ロメリア ~怨念の浄化~

 剣を砕かれたロメリアは、その場で再び剣を作り出す。そして、勢いよく振り下ろした。その間、ゼロコンマゼロゼロ数秒。その僅かな間で行われた攻撃でも、銃弾を受け止める事が出来る冬也には、造作も無く躱せる。

 しかし、冬也は剣を躱さずに左手で受け止める。そして、右手でロメリアの腹部に、掌底を叩きこんだ。


 ロメリアは、その場で蹲る様に崩れ落ちる。その時、ロメリアは全身に途轍もない喪失感を感じていた。己の中から膨大な邪気が消えたのだ。

 人間達が、挙って周囲の邪気を消した。しかし、それは我が身から溢れ出ただけのもの。世界中から悪意を集めて、邪気に変え我が身を構築したのだ。未だに膨大な力を有している。それが一瞬にして、膨大な量を消し去られた。ただの掌底でだ。


 一瞬、ロメリアは、力の差を理解が出来なかった。


 確かに、ここはクソガキの神域である。クソガキに対して全てが有利に事が運ぶ。かつて、メルドマリューネの地で戦った時とは全くの逆だ。奴らは我が領域にも関わらず、逆境を跳ね返してみせた。

 ロイスマリアで集めた数とは桁が違う。その悪意は我が身に有った。例えここがクソガキの神域でも、一矢報いるどころか圧倒する事さえ出来るはずだ。


 まだ負けていない。確かにこいつは強い。強くなった。だけど、まだ僕の方が強い。少し位、邪気を消された所でどうって事は無い。


 負けるか、負けるか、負けてたまるかぁ!


 一体、どれ位の人間がこの戦争で死んでいった? 戦の高揚を力にするのが戦いの神なら、憎しみを糧にするのが邪神だ。

 死ぬと魂は輪廻に戻る。しかし、残された怨念は何処に行く? それを食らい尽くすのが邪神だ。


 ここに居ない小娘が何かしたのだろう。戦争は収まりつつ有る。悪意も消えつつ有る。しかし、力はここに有る。この世界に未だ溢れている。


 この瞬間、ロメリアの体は光り出した。そして、世界中に溢れている怨念を吸収していく。それは、冬也の神域を徐々に穢していく。

 

「抗うかよ。いいぜ、やってみろよ!」

「それで僕を超えたつもりかい? 僕を負かしたつもりかい? 僕は負けないんだよ! どんな時だって生き延びて来たんだよぉ!」

「でも、これで終わりだよ。糞ロメ、あんたはお兄ちゃんの神域から逃げられない」

「だから何だって言うんだい? 貴様等を殺せば良いだけだよ」

「出来ると思う?」

「出来るさ」


 怨念を吸収し尽くしたロメリアの体は、急速に膨張していく。同時に邪気も膨れ上がる。それこそ、空達が命懸けで削った事がまるで無駄だったかの様に。

 次第にロメリアの邪気は変質していく。次第に人型を成していく。それは、かつて見た歩く死者とは異質の禍々しさを内包していた。


 人型を模していても完全では無く、まるでスライムの様に流動的である。体は真っ黒に染まり、夥しい瘴気を放っている。その瘴気に触れれば、瞬く間に精神を侵されるだろう。一度、旧帝国でゾンビを相手にした事が有る空や翔一でも、その悍ましさに肌を粟立てせるだろう。


 レイピア、ソニア、ゼルの三人は、傷付いた体で剣を構える。空は倒れた仲間を庇う様にして結界を張り、クラウスはその結界を強める様に空にマナを注ぐ。

 遼太郎は三島を庇う様に立ち上がる。そして、ブルは全員を守る様に結界を強固にし、アルキエルは少し体をふらつかせながらも大剣を掲げた。


「遼太郎。あ、あれは……」

「戦争で亡くなった人達の怨念だ」

「さっきから震えが止まらない」

「当然だろ。普通の人間に耐えられるモンじゃねぇよ」

「でも、彼等は武器を構えている」

「平気な訳がねぇ。良く見ろ、足が震えてるだろ!」

「言われてみれば……」

「この状況で口が開けるのも大概だぜ、健兄さん」

「やはり、俺は間違っていた。こんなものが、地球に居て良い筈がない!」

「ガキぃ、その位にして黙っとけぇ! ブルと空の結界が無ければ、てめぇの命はとっくにねぇぞ!」

「そうだぜ、健兄さん。ここからはもう、神の戦いだ」


 人型の何かが動く度に冬也の神域が黒ずみ、ロメリアの神域へと変わっていく。それ程の力を持った存在が数を増やして行く。

 恐らく、普通の方法では傷つけられないだろう。現代兵器で駆逐出来るとは思えない。人間を呑み込み増やしていくのだろう。そうやって、全ての生命を滅ぼそうとでもいうのだろう。


 それは、最終兵器と呼んでもおかしくはない。 

 

「帝国で作り出した雑魚とは違うからねぇ。今度は簡単に浄化出来ると思うなよ!」


 あの時は、ペスカの作り上げた魔攻砲が有った。加えて、フィアーナの助力が有った。それ故に、旧帝国領に溢れた大量のゾンビ達を浄化出来た。

 今は、そのフィアーナが存在しない。当然ながら、魔攻砲すらない。そんな中で、仲間達を守りながら戦わなければならない。


「相変わらずの執念だな。やっぱりてめぇは糞野郎だ」

「ホント、止めて欲しいよね」

「呑気に話している場合なのかい? 貴様の神域はどんどんと僕の神域に変わっているんだよ。この小さな島くらい、直ぐに染め変えられるんだ」

「やれるもんならやってみろよ、糞野郎! てめぇの邪気が、俺の神気を上回れるならな!」

「糞ロメ、私も居る事を忘れないでよね。一対一じゃないんだよ、二対一なんだ。わかる? お馬鹿さん?」

「言わせておけばぁ! やってやるよ、やってやるよぉ!」


 ペスカに煽られて憤慨したのか、ロメリアの邪気は更に膨れ上がる。そして、人型の何かは何倍にも数を増やす。それは、冬也の神域を瞬く間に侵していく。


「馬鹿かあいつはぁ。あれじゃあ、タールカールの時と同じじゃねぇかぁ」

「同じじゃねぇよ。あいつは今、独りだ」

「そうだったな、ミスラぁ。あの時は、てめぇが居たよなぁ。今度も逃がしてやるか? 無理だよなぁ」

「あぁ。俺にはあそこに立つ資格はねぇ」

「馬鹿かよミスラぁ。あれは、てめぇの後悔だろ。てめぇの拳で決着をつけたくねぇのかよ!」

「俺の手で決着がつけられるなら、とっくにそうしてる」

「それなら、やってみせろよミスラぁ! ちんけなガキ一匹守るんじゃなくて、世界を救って来いよ、ミスラぁ!」


 三島を庇う様にして立つ遼太郎に、アルキエルが檄を飛ばす。しかし、アルキエルさえ力が及ばなかったのが今のロメリアだ。悪い事に、ロメリアは更に世界中から悪意を吸収している。


 遼太郎は、冬也に神格の殆どを渡し、僅かな神気しか使えない。仮に万全の状態だったとしても、人型の何かすらたおせはしないだろう。如何に後悔が有ろうとも、如何に手を差し伸べてやりたかろうとも、叶わぬ願いだ。


「アル、じいじを虐めたら駄目なんだな」

「うるせぇよ、ブル!」

「うるさいのは、アルなんだな。元気になったんなら、アルも戦いに参加するんだな」

「てめぇの目は節穴かぁ、ブルよぉ! 今の俺は邪魔にしかならねぇよ!」

「わかってるんなら、黙ってるんだな」

 

 戦いの神を圧倒しても、如何に神域を侵そうとも、ロメリアと相対しているのはロイスマリアで最強と謳われた神なのだ。決して互角ではない。これは一方的な戦いだ。


「お兄ちゃん」

「あぁ、わかってる。こいつ等も浄化してやらねぇとな」

「大丈夫、私も協力するから」

「頼むぜ、ペスカ」


 軽く言葉を交わすと、ペスカは神気を解放する。その神気は温かく辺りを包んでいく。仲間達の震えが止まる。勇気を与える。力が戻って来る。


「姉さん。マナが回復しています。傷も癒されて……」

「これが、ペスカ様の。いや、大地母神のお力なのですね」

「レイピア殿、ソニア殿。力が溢れて来る様です。未だ戦えます!」

「それなら、倒れている皆さんの為に力を尽くしましょう。あの戦いを邪魔してはいけません」

「「はい!」」


 戦いは最終局面を迎えようとしている。更に力を蓄えたロメリアが、戦況を覆すのか? それとも二柱の神が圧倒するのか。それは神のみぞ知る。

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