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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十五章 邪神の再誕

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第四百六十二話 邪神ロメリア ~アルキエルの敗北 後編~

 常に居丈高な態度を取るアルキエルが、殊勝な願いを伝えて来たのだ。聞き入れない訳がない。冬也とブルは立ち止まる。そして、それぞれの役割を果たすべく、神気を高めた。少しでも、アルキエルが楽に戦える様に。


 アルキエルは、空中で体勢を整える。そして、着地するや否や大剣を構える。そんなアルキエルを見下す様に、ロメリアは言い放った。


「まだわかってないのかい? 流石に君は強いからね、消滅させない様に戦うのは、難しいんだよ。だって簡単に消滅させちゃあ、クソガキの苦しむ顔が見られないだろ? いい加減、足掻くのは止めて、嬲られなよ! 疲れちゃうじゃないか」


 酷く舐めた口振りである。事実、勝つ見込みが無いのだから、反論のしようがない。そして、この相手に対してだけは、虚勢を張るだけ無駄なのだ。

 アルキエルは、ロメリアの言葉を意に介さず戦う姿勢を崩さない。ロメリアは、少し溜息をつく様な仕草をした後、邪気で漆黒の剣を作り出した。


「君みたいなのは、心が折れるって事を知らないからね。仕方ないから、君の土俵で戦ってあげるよ。まぁ戦いの神と言っても、そこに転がってる人間に成り下がった馬鹿も居る位だしね。手段を問わずに、勝ちに執着する所だけは、認めてあげてもいいけどさぁ。ただそれだけなんだよ、実際はさぁ」


 長ったらしく続くロメリアの言葉を遮るかの様に、アルキエルは再び駆けだす。そして、目にも止まらない速さで、大剣が降り下ろされる。しかし、ロメリアは軽々と大剣を受け流す。そのまま軽く剣を振るい、アルキエルの体に傷を作る。


 ロメリアは一歩も動いていない。その周りを、アルキエルが駆け回り油断を誘う。一見すると、ロメリアは棒立ちしている様に見える。隙だらけにも感じる。しかし、実際には身体の周りを膨大な邪気で覆っている。


 今のロメリアに、人間では近付く事さえ出来ないだろう。空の結界が無ければ、ここに集った者達は邪気の影響で消滅していたかもしれない。

 力の弱い神ならば、近付く事さえできないだろう。仮に遼太郎が健在だったとしても、ロメリアには攻撃をする前に膝を突いただろう。

 アルキエルがロイスマリアの中でも力の有る神だから、ロメリアに攻撃する事が出来た。しかし、ロメリアは強くなり過ぎた。


「ハハッ。この世界は最高だよ。丁度良く狂っている、こんなに悪意が充満している世界もそうないよ」


 ロメリアの邪気とアルキエルの神気がぶつかり合う度に、大地が大きく揺れる。それは、高尾の地を中心にして日本中へと広がっていき、地下深くのプレートを刺激する。日本中で大きな地震が勃発する。それは、巨大な波を呼び寄せる。


 それを止める為に、高尾の地に神気を注いでいた冬也は神気を解放し、日本を中心とした地域に神気を急速に広げた。

 一時的に冬也の支配下へ置かれた日本で、群発地震は収まる。巨大な波が引いていく。それは神のみが起こせる奇跡だったろう。


 しかし、それで全てが解決した訳ではない。戦いは始まったばかりだ。しかも、こちらは圧倒的に劣勢なのだ。

 

「クソガキ、お前は勘違いをしているんだよ。この場所で、僕を倒したつもりだろう? ロイスマリアで二回も僕を倒したつもりでいるんだろ? それは、本当の僕だったのかい?」


 アルキエルとペスカは薄々感じていた。その可能性も有ると。しかし、冬也はそんな事を考えもしなかった。

 確かに言われてみればわかる。最初の時は、メルドマリューネの地でだ。あの時は、神に至っていなかった。次はドラグスメリア大陸でだ。あの時は、アルキエルが一方的に斬り捨てた。


 全ての悪意を一手に引き受ける様な存在が、そんな簡単に倒されるものなのか?


「反フィアーナ派の馬鹿共は、良くやってくれたよ。僕を本物に見立てて行動してくれたんだからね。あの時からずっと、僕はこの地球に居たっていうのにね。はははっ、騙されたかい? 悔しいかい? 悔しがってくれよ! さあ、怒りなよ! あははははははぁ!」


 アルキエルは、ロメリアの言葉に耳を傾ける事無く攻撃を続ける。そして、ロメリアは高笑いをしながら、アルキエルの攻撃を躱す。

 アルキエルの身体に傷が増えていく。それでもアルキエルは、戦う事を止めない。時間を稼ぐと言ったから? いや、譲れない想いがあるから。


 その時、アルキエルの頭には、かつて倒した勇者の姿が浮かんでいた。

 

『そうか、てめぇもこんな気持ちだったのかも知れねぇな。圧倒的な力を前にして、臆する事無く立ち向かう。確かにてめぇは勇者だ、シグルド。てめぇを殺した俺が、負ける訳にはいかねぇよな。てめぇともう一度戦うまで、消滅する訳にはいかねぇよな』


 既にアルキエルは、全力を使い果たしていた。高尾の地が冬也の支配下に置かれた段階で、神気を解放する準備は出来ていた。そして、全力を持ってロメリアに挑んだ。それでも届かなかった。

 体に大穴を開けられ、全力の一撃は止められ、何度も繰り出す攻撃は尽く往なされ、そして大量の傷を受けた。


 神気はもう使い果たしている。その上、冬也から送られてくる、神気の供給を拒んでいた。冬也は切り札だ、神気を食い潰す訳にはいかない。そんな理由で供給を断っていた。


 そんな空っぽの状態では、顕現する事さえ難しい。だがアルキエルを支えていたのは、意志の力であった。

 絶対に負けない。その意思がアルキエルの足を踏み出させる。動かせない体を使い、大剣を振り下ろさせる。


 いつ倒れてもおかしくない、いつ消滅してもおかしくない、だが決して倒れない、攻撃の手は緩めない。そんなアルキエルに対しロメリアが焦れ始める。


 見たかったのは、そんな光景じゃない。地べたに這いつくばって逃げ惑う姿なのだ。だが、アルキエルは勇敢に戦い続ける。真逆の光景を見せられても、面白いはずがない。


 ロメリアは、初めて理解したのだろう。どれだけ嬲っても無駄だという事に。どれだけ傷をつけても、アルキエルが戦いを止めない事に。そして狙いを変える。神格を破壊して、この下らない戦いを終わらせようと。


 だが、狙いを変えた瞬間に隙が生まれる。これまで応じ技に徹していたロメリアが、攻撃を仕掛ける。その出端を狙い、アルキエルは最後の力を振り絞って大剣を振るった。


 アルキエルの大剣は、ロメリアの剣を打ち払うと、体に僅かな傷を作る。決して消える事の無い、破邪の意志を籠めた傷である。そして、力を尽くしたアルキエルは前のめりになって倒れ伏した。


 アルキエルは敗北した。ペスカが到着するまでの時間を、稼ぐ事は出来なかった。しかし、ほんの僅かでも、ロメリアの体に傷を付けた。それは、勝つ見込みが無い戦いに差し込んだ、一条の光となる。


 それでもまだ、ロメリアの優位は揺るがない。過酷な戦いは、始まったばかりであった。

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