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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十五章 邪神の再誕

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第四百六十話 邪神ロメリア ~邪神の復活~

 遼太郎は神気を高めて、深山に触れた。神であった頃と異なり、今の遼太郎には僅かな神気しか残されていない。遼太郎は、そんな僅かな神気を最大に高めた。


 能力者の力の根源となっているのは、邪神ロメリアが植え付けた悪意の種である。それさえ取り除けば、能力は失われる。しかし、魂魄と交じり合った時点で、安易に分離する事は不可能となった。

 強引に引き剥がそうとすれば、著しく魂魄を傷付ける。場合によっては転生が不可能になる程、魂魄という体を成さなくなる可能性さえある。


 今回の場合は、更に困難な状況である。世界中の人々と繋がる深山の能力、それは深山自身を形作るものである。悪い事に、深山の能力を媒介に悪意が集まっている。

 既に深山の魂魄は悪意に塗りつぶされ、災厄の種子は今にも花を咲かせようとしている。魂魄が完全に悪意で染まり一つの形を成した時は、深山の魂魄は消滅するだろう。


 ここまで邪神の悪意に染まっていては、例えペスカの神気を持ってしても、深山の魂魄を傷付けずに、分離をさせる事は出来ない。ペスカに出来ない事が、冬也とアルキエルに可能な筈がない。無論、遼太郎に至っては論外だろう。


 実に八方塞がりなのだ。


 遼太郎の額からは、脂汗が流れる。少しでも間違えれば深山の魂魄を消滅させかねない。深山を失った上に邪神が誕生するなら、遼太郎の行動は全く意味を成さない。深山を犠牲に災厄の種子を消滅させた方が、世界にとっては正解だ。


 遼太郎の緊張が、周囲に伝播していく。そんなピリピリとした空気を打ち破ったのは、アルキエルの一言であった。 


「ミスラぁ。緊張してんのか、柄じゃねぇな。いや、てめぇは本当に人間になっちまったんだな。まぁいい、てめぇが出来ねぇなら俺が代わってやる。こいつをぶち殺したついでに、ロメリアの野郎が生まれるのを阻止してやる。まぁそん時は、こいつの魂魄は欠片しか残らねぇだろうがな。欠片でも残りゃぁ充分だろ? 魂魄の治療を、セリュシオネにやらせりゃいいんだからな」

 

 アルキエルの言葉は、『死後の世界を知らない人間』には到底理解出来ない感覚だろう。

 

 人間は、死んで肉体を失い、魂魄だけの状態になって初めて、星の記憶に触れる。そして、魂魄はこれまでの記憶や経験の全てを、星の記憶に収めて転生を行う。それは、一種の浄化システムでもある。

 魂魄にも容量がある。全ての記憶を持ち続けて転生を行う事は、ほぼ不可能に近い。だから生前で犯した罪を星の記憶に託し、真っ新な状態で転生を行うのだ。

 

 能力者から能力を強引に引き剥がして『魂魄に傷をつける』位なら、殺した方がいい。以前ペスカが三島に語った台詞は、この浄化システムを知るからである。

 また生と死を司り、星の記憶を管理する女神セリュシオネは、使命の一つとして欠損した魂魄の修復を行う。地球にも同じシステムが有るはずだし、同じ様な使命を帯びた神も存在するはずだ。


 アルキエルが人間の生死に頓着しないのは、転生の仕組みを理解しているからである。大して意味が無いのだ、極僅かな時間を生きる事に執着する事は。それよりも死んで真っ新な状態になり、生まれ変わった方が世界の為になる。


 ただそれは、あくまでも神の目線であろう。地上の生物にそれを理解させるのは、それこそ無駄なのだ。僅かな時間を生き、全てをリセットして転生を続ける人間だから、生まれる価値観が有る。それは互いに理解出来ぬ感覚であろう。


 神として生まれ、人間として生きた遼太郎だから、命を賭けても助けたいと思える。それは遼太郎にとって、絶対に譲れない一線なのだろう。

 

「アルキエル。手を借りなきゃダチ一人助けらんねぇ。そんなの終わってるぜ。俺がどれだけ情けねぇ糞野郎でも、こいつは助けるって決めたんだ。俺に任せてくれ」

「ハァハッハァ。それでこそ傍若無人のミスラ様だぁ。いいぜ、てめぇが死んだら、俺の眷属にしてやる。これは決定だぁ、文句は言わせねぇぞ」

「馬鹿かお前は! そんなの死んでも御免だ!」

「なら、死ななきゃ良いんだ。そうだろ、ミスラぁ」

「ったく、お前はいつも強引なんだよ。でも、ありがとな」


 深山という存在一人の為に、世界を犠牲にするなど言語道断だろう。神二柱がそれを是とするのは、使命の放棄とも言えよう。

 遼太郎は最善よりも最良を選択した。例えそれが誤った選択でも、仲間はそれを受け入れた。


 何よりも大切なのは、意志の力なのだ。それはロイスマリアと地球、場所が違えど何ら変わりはない。

 友を守ろうとする、佐藤の意志。佐藤だけではないだろう、遼太郎を慕う大勢が周りを囲み、彼を守ろうとしている。遼太郎を、遼太郎の意志を。それこそが、現状を打開する力となる。


 この時、遼太郎の集中力は極限まで高まっていた。


 深山の体を通じて、遼太郎に膨大な悪意が迫る。生身で受ければ、発狂して狂い死にしそうな程に。だが遼太郎は、限りある神気で、それを防ぐ。そして蠢く悪意の中に有る、高潔な意志を探る。


 見えないはずの境目を探すのではなく、高潔な意志を感じ取り、その手に悪意を集める。遼太郎の顔が痛みで歪む。少しでも気を緩めれば、侵食されて全てが終わる。遼太郎は苦しみに耐え、ゆっくりと慎重に悪意を一つにまとめる。


 周囲の緊張も高まり続ける。まるで時が止まった様に、ほんの僅かな時間が永遠に感じる。それでも皆が、心の中で遼太郎にエールを送る。


「見つけたぞ深山、今助けてやる。俺の神気をありったけ持っていけ。絶対に死なせねぇぞ!」


 遼太郎の叫びと共に、深山の体内から悪意の塊が引き抜かれる。その瞬間、力を使い果たした遼太郎は意識を失った。

 遼太郎が倒れ、意識を失ったままの深山の傍で、一つになった悪意の塊は、意志を持ち始める。そして、人の体を模していく。


 間髪入れずに、佐藤の指示で警察チームが一斉射撃を行う。そして安西の指示が飛び、エリーがサイコキネシスで、倒れた二人を悪意の塊から遠ざける。レイピアとソニアは、二人に駆け寄ると、状態を確認して直ぐに治療に取り掛かる。

 

 見事な連携である。そして、アルキエルが大剣を振りかざし、飛び掛かろうとした瞬間、悪意の塊から笑い声が漏れた。


「ハハ、ハハハ。ハハァハァハァハァ。ヒャハハハ、ヒャヒュヒャヒャヒュヒャヒャ。ようやくだ。ようやくだよ。あぁようやく会えた、久しぶりだクソガキ共! なんだ、アルキエルもいるのかい? 糞メスがいないようだが、まぁいい。貴様らの死骸を晒した後で、ゆっくりと始末した方が、きっと楽しい。あぁ、この時を待っていたんだ。そうだよ、どれだけ待っていたか、わかるかい? 何度も僕を殺してさぁ、僕に死の恐怖を味合わせてさぁ、許されると思ってるのかい? 人間如きを何匹踏みつぶした所で、僕の溜飲は下がらないだよ。ゴミを掃除するついでにじっくりと嬲ってやるよ。混血のガキ、それに裏切り者のアルキエル!」

 

 誤った選択の末、邪神ロメリアは復活を遂げた。そして運命は、残酷な程に牙を剥く。それは、決して誰にも逆らう事の出来ない定め。終末の時が始まり、世界は終わりを迎える。

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