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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十四章 革命の結末

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第四百五十五話 第三次世界大戦 ~八王子事変 其の二~

 自衛隊の特殊車両が遠目に見える。まだ準備が整っていないのか、戦闘を仕掛けては来ない。

 世界中で、戦火が拡大しつつある状況だ。大陸側の牽制を行わなくてはならない。高尾付近だけに、戦力を集中させる事はしないはず。


 恐らく相手となるのは、関東から東海にかけた範囲を担当とする第一師団。そして、直ぐに到着したのは、都内各所から出動した部隊に違いない。暫くすれば御殿場から第一戦車大隊も到着するだろう。そうなれば、本格的な戦闘が始まる。

 米軍が用意周到の様子で攻撃を加えて来たのだ、第一師団も時間をかけずに集結し、攻撃に移るだろう。


 天を仰げば、アルキエルが蠅でも叩くかの様に、戦闘機を打ち落としている。様子を見る限り、ペスカの指示した事を守る意志が有る様だ。

 無造作に暴れているならいざ知らず、今のアルキエルなら手を出す必要がない。寧ろ余計な事をすれば、米軍機のパイロットの命が危うくなる。


 まだ始まらぬ地上戦。冬也とゼルは、自衛隊の集結を遠目で眺めつつ、会話に花を咲かせていた。


「なぁゼル。あれを見て、まだアルキエルに弟子入りしてぇか?」

「勿論です。隊長は、教える事は無いと仰ってくれます。しかし、俺はそう思いません」

「だったら、トールさんの下で修業を続ければいいじゃねぇか」

「あの大会を経て、俺は様々なものを得ました。技術と心、両方が備わってこそ、真の強さを得る。俺はまだまだ足りてない。だから、もっと強くなりたいんです。俺はこれでも負けず嫌いなんです。ベヒモス殿に敗北したままではいられない。そして、あの高みに必ず立つ」

「で、最終的にお前が目指すのは、何なんだ?」

「当然、守る事です。それは変わってません。味方は勿論、敵でも守るつもりです」

「すげぇな。それだけ言えれば、充分だろ。なら次は、証明してみせてくれよ」

「はい。冬也様とアルキエル様の戦いを見て、色々学んで帰りたい。その前に、俺が異界の地で通用するのか、確かめたいです」

「ははっ、負けんなよ」

「冬也様の出番は、頂戴します」

「いい覚悟だ。なら、行こうぜ!」

「畏まりました!」


 ゼルは冬也を崇拝している。しかし冬也からすれば、ゼルは歳の近い弟みたいなものだろう。だから、類まれなる剣の才を持つゼルを、応援したくなる。叱咤をすれば、褒めもする。

 見守ってやりたい、強くしてやりたい、多少なりともそんな気持ちは有る。だが、手を出す気は更々ない。何故なら自ら考え、悩み、勝手に強くなると信じているから。

 そして何よりも、期待をしている。自分を追いかけ、更には追い抜こうとする事を。今はモーリスにすら及ぶまい。しかし数年も経てば、化ける可能性が高いのだ。


「ライバルが増えるってのは、楽しいぜ。全くどいつもこいつも、向上心の塊だ」


 自衛隊が集結し、火蓋が切られ様としている。我先にと、突撃するゼルの背中を眺め、冬也は呟いた。


 戦車が並び、砲塔が向けられる。それだけでも迫力がある。そして爆音が響き、一斉に砲弾が射出される。訓練を重ねて来たのだろう、実に統率された動きである。しかし、ゼルには掠りもしない。


 身体強化を行うゼルに対し、狙いを定める事は難しいと言えよう。また、射出角度や落下位置を予測した上で、優れた動体視力と脚力があれば、砲弾を躱す事は可能かもしれない。無論、人間業とは思えないが。


 戦車が通用しないのは、想定外に違いあるまい。それで戦意を失わないのは、訓練の賜物である。自衛隊は、横並びにライフルを構えて整列し、一斉に射撃を行う。それでも、ゼルを近づける事を阻止できない。

 

 ライフルですら捉えれない事を悟ると、自衛隊は近づけさせない様に戦法を変える。尚もゼルは、様子を見ながら接近を試みる。


 ゼルは冬也に対し大言を吐いた訳ではない。武器の特性、連携の方法、作戦等、様々なものを見極めながら近づいている。単に敵を滅するだけなら、勢い任せに突っ込んで、剣で薙ぎ払い続ければ済む。剣や槍などの、見知った武器を持つ者を相手にしていたら、今頃は始末を終えている。


 敵であったとしても、守る為の戦いをゼルは行っている。それがどれだけ高潔であるか。モーリス、ケーリア、サムウェル、シグルド、トール、偉大な先輩達の教えは次代にしっかりと受け継がれていた。


 自衛隊は、ゼルを近づけさせない様にし距離を取り、戦車砲で仕留める算段なのか。徹底的にライフルを浴びせ続ける。

 新宿での抗争を自衛隊は目にしている。敵がそれだけの化け物だと、想定もしているのだろう。しかし、彼らの戦意は冬也の登場により失われる事になる。


 ゼルの動きを後ろから眺め、ゆっくりと歩く冬也が何気なく取った行動。よっぽど目が良い者が、自衛隊内にいたのだろう。


 百六十キロで飛ぶ野球のボールを、『正面から受ける事』は可能である。ただし、相応の訓練が必要になるが。

 しかし、百六十キロで飛ぶボールを、決して『横から掴む』事は出来ない。その百倍を優に超える速度で飛ぶ、ライフルの弾丸を横から掴めるはずが無い。

 だが冬也は、自分の横を通り過ぎようとする流れ弾を、軽々と掴んで見せた。それも一度ではなく、二度三度と。


 化け物、という呟き。その怯えが隊内に波及していく。そして有り得ない事に、脱走者まで生み出した。そして遂に、自衛隊は瓦解した。


 ゼルという怪物を相手に極度の緊張を強いられたのが、大きな要因だろう。しかし、止めとなったのは冬也である。

 見せつけたのは圧倒的な戦力差。しかも鼻息交じりに離れ業を行う相手。そんなものが近づいてくれば、予感させるのは死の到来だろう。

 新宿での抗争を詳細に映した映像を、繰り返し見させられた。脳裏にはしっかりと焼き付いている。ならず者達が、成す術無く倒れていく姿が。


 彼らは、倒れる『ならず者』と『自分達』を重ねてしまった。そのイメージは、恐怖となって心を縛る。一人が逃げ出した事をきっかけに、次々と脱走者を生み出していく。ついには戦車でさえ反転し、逃走を始めた。


 だが、簡単に逃げ果せる訳も無い。ここは、冬也の神気が流れる地なのだ。冬也が足を踏みしめるだけで、大地が呼応し隆起する。逃走する特殊車両や戦車は、軽々と横転する。

 後は、ゼルが剣を持って兵器を壊すだけ。砲塔を切り裂き、車両を大破させる。隊員に追いつくと、ライフルを砕いたついでに意識も奪う。


 薄れゆく意識の中で彼らは知る。上空で行われていたのは、夢ではなく現実なのだと。そして自分達は、決して敵にしてはならない相手に、刃を向けてしまったのだと。

 

 相手が冬也とゼルだっただけ、幸せなのだ。かつてのアルキエルなら、敵前逃亡など言語道断とばかりに殺していた。

 それはスールが、纏わりつく鬱陶しい羽虫を追い払うのに、ブレスを使って焼き尽くす様なものだ。 


 この光景は、見ている仲間達も唖然とさせた。

 

「あれは、本当に冬也なのか?」

「本物ですよ、設楽先輩。尤も、私が知っている冬也さんより、よっぽど強くなってますけど」

「確かに、な。上空の彼といい、冬也君といい、彼らが神だと言われても、今なら信じられるな」

「佐藤さん、今更ですか? ペスカちゃんが、あれだけ有り得ない事をやってのけて来たのに」

「新島君。あの子は別格だよ。天才と言う名が、あの子の前では逃げ出すんじゃないか? だから、その凄さを見逃してしまうんだ」

「あのゼルって野郎は、ガキ臭さがだいぶ抜けたな。にしても、冬也が強くなるってのは、ムカつくな」

「まだ言ってんですか先輩。冬也君が旅立つ前、ぐうの音も出ない位に、負けたってのに」

「馬鹿野郎、安西! あれはてめぇの誤審だ! 何度も言っただろう、スリップダウンだってよ」

「ヘロヘロだった癖に、よく言いますね先輩。口喧嘩なら、まだ冬也君に勝てますよ。敢えて弱点を言うならその位だろうし」

「まあまあ、皆さん。その位にしておきましょう。ペスカちゃんが言うには、これは前哨戦らしいですからね」

「あぁ、確かにな。美咲の言う通りだ。お前等、気を引き締めろよ!」


 遼太郎の掛け声に、皆が反応し声を上げる。戦いは始まったばかり、そして世界では戦火が拡大の一途を辿る。終わらない戦いに幕を引くのは、人類の死滅となるのか。それを回避する為に、別働隊となったペスカや翔一達が動いていた。

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