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第四百三十七話 テロリスト ~人質救出作戦~

 ペスカの言葉で、否応なしに緊張感は高まった。


 邪神ロメリア。それは実際に戦った、冬也とペスカ、それに空と翔一は言うまでもない。しかも、ここにいる皆が八王子の大爆発を知っている。中には、結界を張る為に参加した者もいる。


 邪神ロメリアが蘇り、日本という国を中心に世界中で暴れ回ったらどうなるのだろうか? モンスターが溢れて、建物を破壊し人を喰い散らかす。喰われた後も、人の形を残したまま動く屍になる。

 実際にロイスマリアでは、人間の国が七つも滅びたのだ。死者の数は、数える事さえ出来ない。


 特に地球の兵器は、ロイスマリアの比較にならない程に進化を遂げている。それが邪神ロメリアの手に渡れば。寧ろ邪神ロメリアなら、核の発射ボタンを躊躇なく押すだろう。

 モンスターが暴れ、死骸が動き、戦争が起こり、核が放たれる。そうなれば地球は、生きとし生ける者が住める世界では無くなる。


 それと止める為ならば、動き出さねばなるまい。


 既に二国の大統領発言により、世界中で混乱が生じているのだ。深山が能力を発動させるまで、時間はそう残されてはいまい。

 恐らく状況を見計らっているのだ。混乱がピークに達した所で、ネットを通じて洗脳を行うだろう。それとて、数日中には行われるはずだ。


 短期間で出来る事は数少ない。追い詰められた局面で、効率を重視する為に熟考するより、行動する事が重要ではないか。当然、無策という訳にはいくまいが。


 だが少しでも、やっておかなければならない事がある。


 先ずは、思い上がった施政者達の目を、覚ましてやる事が先決であろう。彼らが用意したのは、恐らく専門部隊である。短時間で十数名の職員を、拉致した事がその証だ。それはこちらを、牽制する目的とした行為ではない。制する目的で用意されたのだ、本気度が伺える。

 

 圧倒的な力の差を示し職員を救い出せば、逆に二国を牽制する事が出来る。言わば、容易に手を出せる相手では無い事を示し、振り上げた拳を降ろさせる。そして、話し合いの場に戻せればいいのだ。

  

 深山を捕らえるチャンスは有った。しかし、彼からロメリアを引き剥がすチャンスは、二度と来ないだろう。ならばせめて、少しでも深山の計画に狂いを生じさせる必要がある。


 時間を稼ぐ中で、もし深山を政治犯にする事が出来れば状況は完全に一変する。深山の語る言葉に、人々が疑いを持ち始めれば洗脳効果が薄れる。そうなれば、暴走する可能性が極めて低くなるだろう。


 遼太郎はエリーに、拉致した連中と交渉する様に言い渡した。相手がアメリカの部隊である事を予想した結果である。アメリカ出身のエリーならば、遼太郎よりも交渉をスムーズに行う事が出来るだろう。

 

「リョータロー。奴らは、あなたと息子のトーヤ、二人だけで来る事を望んでいます」

 

 交渉中のエリーが、指示を求めて遼太郎に視線を送る。同時にエリーは周囲を見渡す。相手がプロなら、殺されるだけだ。決して受け入れられる条件ではない。周囲の職員達、特に安西は顔を真っ赤にして怒っている。

 だがペスカは軽く頷くと、親指と人差し指で丸を作り、オッケーサインをエリーに送った。

 

 遼太郎は絶句し、ペスカを見つめる。交渉中のエリーでさえも、思わず大声を上げそうになる。誰もが唖然とする中、冬也は顎をクイっと動かし、エリーに話しを進める様に催促する。


 そんな冬也をエリーは見つめた。冬也の瞳は、雄弁と語っていた。俺が負けるはずが無いと。

 エリーはそれを信じて、交渉を続けた。そして、引き渡し場所を聞き出した。引き渡しは、港区の倉庫と神奈川県厚木市の倉庫である。


 ただこれを、交渉と呼ぶ事は出来ない。人質の解放を要求した代わりに、遼太郎と冬也の命を要求されたのだ。一方的な条件を要求する相手に、引き渡し場所を聞き出せただけでも上々であろう。


 遼太郎は、ペスカの意図を理解していた。無論、冬也もである。ある意味では、無言を通した空と翔一も同様であろう。しかし、納得できない者もいた。二人の事を案じる余り、声を荒げる者もいたのだ。


「ふざけんなよ、東郷! お前がどれだけ強かろうと、本物の軍人相手に、生きて帰って来れる訳ないだろろうが!」

「そうですよ、冬也さん。無茶な事は止めて下さい。全員で行けば良いじゃないですか!」


 冬也の胸倉を掴み、雄二は声を荒げる。美咲は、冬也を説得しようと詰め寄った後、周囲に助けを求める様に視線を送った。しかし、ペスカは首を横に振る。そして冬也は、雄二の腕を振りほどくと言い放った。


「わりぃが、あんたらは足手纏いにしかならねぇ。この状況を丸く収められんのは、俺とペスカ、それに親父とアルキエルだけなんだ」

「ふざけんな! 俺達は、役に立たねぇって言うのか?」

「そうじゃねぇよ、雄二。お前らは別の所で役に立てばいい。前線で体を張るのは、俺達に任せろって」

「くそっ! これじゃあ、ずっとお前に助けられるだけじゃねぇか! 能力を暴走させた時も、中学の頃も。あぁ、くそっ! 何の為に強くなったと思ってんだ! 俺も連れて行け、東郷!」

「めんどくせぇから、我儘言うな! そんな台詞は、せめて本気の親父に拳を当てられる様になってから言え!」 

「でもよぉ」


 雄二は中々引き下がろうとしない。それもそうだろう、能力を暴走させて高校を炎上させた時に、命を救ったのが冬也なのだ。美咲とて同じ思いだろう。


 安西も怒鳴りつけたいのを、我慢している様に見える。遼太郎は何も言わない。それは、遼太郎が決断したという事だ。その決断を、自分が覆す事は出来ない。だから唇を噛みしめて、懸命に納得しようと自分に言い聞かせている。


「はいはい。みんな落ち着く! 特に設楽先輩! なんちゃってヤンキー時代に、色々拗らせて迷惑をかけたからって、いつまでも気にしないの!」 

「なっ、そ、それは関係ねぇだろ! 東郷妹!」

「そうやって噛みつくから、暴力団に拉致されるんだよ! 黒歴史を暴露されたくなければ、黙る事! いいね!」

 

 半ば脅す様に雄二を黙らせると、ペスカは説明を始めた。


 拉致を行ったのは、大統領の発言により正式に派遣された部隊でない。事前に送り込まれた部隊なのだ。

 拉致した連中が、人質に手をかける事はない。何故なら目的は、こちら側の戦力を削ぐ事であるから。最終的には、全員抹殺する事も視野に入れているだろう。


 正式に軍の派遣が決定すれば、秘密裏に入国し人質を取った事など、幾らでもうやむやに出来る。それまでの間、テロリストと断言した者達を、捕え易い様に整理出来ればいい。


 そう考えてなければ、こんな強引な手段を取れるはずが無いのだ。

 

 奴らは、最初に最大戦力を潰す事で、今後の作戦をし易くする事を目論んでいる。だが、それは大きな誤算である。冬也と遼太郎ならば、一個小隊を相手にしても全滅させられるのだから。


 やつらは知るだろう、こちらがどれだけ脅威であるかを。


 ただ、気を付けるべきは、引き渡し現場だけではない。東郷邸は、間違いなく襲撃を受けるだろう。その際に防衛も必要となる。

 加えて深山の動きを追う者も必要だ。こちらも幾つか班を分けねば、深山側に対応出来なくなる。


 そこまで説明をすると、ペスカは具体的な作戦の指示を行う。


 先ずペスカは、美咲へドローンを数台作成する様に指示をした。そして林には、引き続きウィルスの除去と、ドローンを使った戦闘の録画を指示した。

 林の補助として、空と美咲を指名する。翔一は引き続き探知を続行。そして、連絡及び緊急時の指示役として、安西を指名した。

 東郷邸の襲撃には、ペスカを筆頭にエリー、雄二、クラウスの四名が対応する事になった。


 東郷邸の襲撃に人員を割いたのは、ここが住宅地のど真ん中であるから。その為に、物理的な結界を張れるペスカとクラウス、そして戦闘能力が有るエリーと雄二を選んだ。

 実際の救出は、車を運転できる遼太郎が冬也を港区の現場に送りつつ、厚木の現場へ向かう事になった。


 救出が完了した後、職員達は警察に連絡し保護を求める。同時に、録画した動画をネット上にアップし、二国の蛮行を世間に訴える。二国の行動が、国際法違反だと認知されれば、大統領発言の正当性が失われる。


「ピンチをチャンスに変えるんだよ! まぁ念の為に、助っ人を頼んであるから。安心していいよ」

「ペスカ。まさか、お前」

「フフン。そのまさかだよ。誰が来るかはわからないけど、そろそろ到着してもいい頃だと思うよ」


 こうして、拉致された特霊局職員を救出する戦いが始まった。この戦いを皮切りに、世界を巻き込んだ闘争へと発展していく。


 平和な未来はまだ遠く、希望の光はまだ見えない。それでも、彼らは一歩を踏み出した。

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