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第四百二十七話 サイバーコントロール ~追い込まれる日本~

 決して和やかとは言えない会合が終わり、三島達が去る。そして空と美咲が食器を片付け始める。手伝いもせずにアプリを弄っていたペスカが、遼太郎に視線を向け徐に口を開いた。


「ねぇパパリン。せっかくだから、美咲さんとお出かけして来るよ。いいでしょ? 美咲さん」

「私は有難いけど、良いんですか?」

「あぁ、構わねぇよ。気分転換に行ってこい。ついでに空ちゃんも連れてってやれ」

「うん。そうするよ」


 食器の片付けが終わるのを待ち、女性陣は出掛ける準備を始める。残されたのは遼太郎と冬也だけになる。

 先程まで十名が、所狭しとリビングに集まっていた。一気に数が減り、リビングが広く感じる様になる。幾ら親子と言えど、男同士で会話が弾む訳も無く、TVの音だけが喧しくリビングに響いていた。


 考えなければならないのは、深山への対策には留まらない。当然、イゴールという男への対策も、検討しなければならない。他にも深山が抱える能力者は存在する。

 特に三島の言葉通りならば、数日を経たずに日本政府は、海外各国から叩かれる事だろう。そうなれば、内外に敵を作り、四面楚歌の状態に陥る。政界は自分に任せろと語ったが、流石の三島でも一人の手に負える問題ではないだろう。

 考えを巡らせる程に、遼太郎の中には苛立ちが募っていった。


「おい、冬也。表へ出ろ!」

「あぁ? 暇なら親父も手伝えよ!」


 ダウンロードしたアプリを弄っていた冬也は、頭を上げずに視線だけを遼太郎に向ける。


「いいから出ろ!」

「なんだよ、暴れ足りねぇのか? 仕方ねぇな、久しぶりに相手してやるよ」

「あぁ? 調子に乗ってんじゃねぇぞ冬也! 神気を封じられてるてめぇに、負けやしねぇよ」

「なら試してみるか? 親父の腕が落ちてねぇといいけどな」


 腕をグルグルと回しながら、遼太郎は玄関へ向かう。対する冬也は、面倒くさいといった様子であった。

 そして、庭に出るなり彼等の稽古は始まる。遼太郎は先手を取り、猛烈な勢いで拳を繰り出す。冬也はそれを事も無げに往なす。彼らの行動に然したる意味は無いだろう。

 鬱憤を晴らす為に、遼太郎は体を動かしたかった。冬也は遼太郎の意図を汲み、それに付き合った。ただそれだけである。だが、そんな些細な事が今は重要なのかもしれない。


 苛立ったままでは、冷静に思考する事は出来まい。

 

 やがて女性陣の支度が終わり、連れ立って街へと繰り出す。それでも彼らの稽古は終わらない。

 何かを吹っ切る様に、ひたすらに遼太郎は拳を繰り出す。そして冬也は、それを発散させるべく拳を往なし続けた。彼らの稽古は一時間を超え、遼太郎の息が切れ始めた所で終わりを告げる。


 リビングに戻ろうとする遼太郎は、依然として険しい表情をしている。しかし少しは気が晴れたのだろうか、ほんの僅かに険が取れた様にも見える。だがそんな遼太郎を再び荒立たせるのは、予想以上に早い海外からの反応であった。


 北米を始め、東アジアやEU加盟諸国が次々と声明を発表したと、TVのアナウンサーが喧しく騒ぎ立てていた。

 各国が発表した声明内容は、ほぼ同一である。これが何を元に発せられたものかは、一目瞭然であろう。


 日本政府は、一部の国民に対し差別的な行為を行っている。これは人道にもとる行為である。彼らが望むなら、我が国は彼らを迎える用意がある。

 

 全ての国に深山が手を回した訳ではない。その内の一部であろう。しかし、それ以外の国もこの騒動に便乗しようと、日本政府に声明を発表した。

 それだけ各国にとって能力者は、魅力的に映っていたのだろう。喉から手が出る程に欲しい能力者を、合法的に手に入れられるなら、幾らでも圧力をかける。そんな浅ましさがにじみ出ていた。


 これに伴い、世界中のTVや新聞で一連の騒動が報道される。大きな憶測を踏まえたニュースを受けて、世界中で一気に日本政府への不信感が高まっていく。


 ただ、ここに至るまでの地盤は既に作られていた。


 能力者という異端者が誕生してから、東京都の治安は悪化していった。更にここ数か月で、大規模な事件が多発している。

 これまで上昇を続けていた日本への観光客は、ここ数日で激減した。その上で行われた、深山による暴露報道である。

 

 政府の声明が真実であると、捉える者は多いだろう。ましてや偏向報道に近い形でTV等に取り上げれば、プロパガンダに近いと評しても遜色は無いだろう。


 更に日本政府を危機に貶めたのは、ネットで拡散された「能力者の技術的価値と利用方法」と書かれた書類であった。

 悪意を持つ第三者が面白半分に作ったのならば、大きな話題にならないだろう。真偽の程は兎も角として、その書類の中には時の内閣総理大臣の名が記載されていた。


 書類には、深山がTVで語った事を、更に詳細に記している。これが誰の仕業であろうと、深山の暴露に端を発した一連の騒動は、全て真実であると誤認させるのに充分であった。


 一連の騒動を受けて日経平均は更に下落し、不渡りを出す企業が出始める。経済的にも追い詰められ国内の不満は更に高まる。 

 この状況で日本政府が何を発しても、鎮静化させるのは時間がかかるだろう。窮地に追い込まれ、右往左往する日本政府に止めを刺すべく、深山は次の手を画策していた。


 ☆ ☆ ☆


 TVの出演を終えた深山は、鵜飼がコピーしたインビジブルサイトの能力で、新たな拠点に移動していた。

 拠点には既に仲間が集っている。深山はソファに背を預けながら、一人一人に指示を出していた。


「鵜飼。葛西のモデフィケーションはインストール済みだったな?」

「はい」

「それなら、イゴールのサイバーをインストールしておけ。両方、扱える様にしておくんだ」

「わかりました」


 鵜飼は指示通りに、二人の男へ近づくと能力のコピーを始める。鵜飼の指示を終えた深山は、次の仲間に視線を送った。

 

「山岡。奴らの動きはどうだ?」

「女が三人、家から出て行きました」

「呑気なもんだな、買い物か?」

「そうでしょうね。どうします?」

「今はほっとけ。それより、三島と東郷の動きに注意しろ」

「東郷は自宅で息子と殴り合ってます。三島は例の外国人を連れて、何処かに向かってます。佐藤も一緒です」

「概ね予定通りだな。林の様子はどうだ?」

「先程、東郷の自宅から、別の外人が車を乗って出かけました。進行方向を見るに、林の入院先に向かってる可能性が高いです」 

「見舞いじゃなさそうだな。そっちもチェックしておけよ、動きが有ったら直ぐに知らせろ。奴らは妙な技を使うからな」

「林は回収しなくて良いんですか?」

「そうしたい所だが、罠の解除が先だ。それに病室には、探知の奴が居るんだろ? 下手すれば、こっちの居場所がばれる。狙うなら、林が一人になった瞬間だ」

「わかりました」


 深山は少し息を吐くと、能力のコピーを終わらせたろう鵜飼とイゴールに視線を向ける。


「イゴール、良い頃合いだ。そろそろ、取り掛かってくれ」

「了解、ボス」

「罠が、ネット上にも張り巡らされてると考えて良い。鵜飼、TV局の時と同じ様に解除しろ」

「わかってます」

「今はこっちに集中するんだぞ。間違っても、オートキャンセルには手を出すな! 付き添ってるのは、あの小娘なんだからな」

「わかってます」

「林が不在の今がチャンスだ! ここまで世間が盛り上がっているんだ。息の根を止めるぞ! 如何に三島でも、世界を敵に回せば何も出来まい!」

「了解だ、ボス。派手に行こう」

「それとイゴール。ネットの罠が解除されたらでいい。情報統制とは別に、ロシアとアメリカの大統領へ通話を繋いでくれ」

「あぁ? 報酬の話し合いなら受け付けないぞ」

「違う。アメリカには、もっと圧力をかけて貰わないと困る。その時、お前の祖国が役に立つ」

「そういう事なら了解だ」


 目論見通りに事が運んでいく。そして、次なる手が打たれる。崖っぷち追い込まれた日本政府は、崖の下に突き落とされ様としていた。

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