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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十三章 革命の火種

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第四百二十二話 サイバーコントロール ~宣戦布告 前編~

 時は、深山の隠れ家で、アルキエルが三堂を倒した直後に遡る。警察が到着すると、ペスカ、アルキエル、遼太郎がその場で佐藤に事情聴取を受ける。


 佐藤とて警察側の関係者で、概ねの状況は理解している。ただ今回、ペスカ達が黒幕と接触した事で、事態は大きく進展するだろう。それを理解しているからこそ、その場で事情聴取し、佐藤は本部へと報告した。


 事情聴取が段落した頃、遼太郎のスマートフォンが音を立てる。遼太郎がスマートフォンを手に取ると、それは三島からの電話であった。急いで通話状態にすると、いつもと変わらない穏やかな声が聞こえて来る。


「東郷君、ご苦労様だったね」

「いえ。結局、深山の奴を逃がしちまって」

「仕方ないさ。私もさっき、深山君と会ったよ」

「はぁ? 三島さん、あんた何やってんだ?」

「君を敵に回した彼を、一度見ておきたいと思ってね」

「ったく、悪趣味な人だ。流石に疲れてるんですが、用件は?」

「そこに、佐藤君もいるよね。君の自宅に集まらないか? 佐藤君も交えて、今後の話がしたい」

「三島さんはどうやって来るんですか? 迎えをやりましょうか?」

「大丈夫だよ。タクシーで行くからね。流石の深山君も、今の私を狙おうとは思わないさ」

「気を付けて下さい。俺らは確実に、ターゲットになってるんだから」

「それは大丈夫。今の私には最強のボディガードがついているからね」

「どういう事です?」

「まぁ、彼も送り届けるから安心してくれたまえ」

「は、はぁ。では、また」


 通話を終えると、遼太郎は佐藤に声をかけた。そして会合の意図を告げ承諾を得る。


 慎重な深山の事だ、どれだけ探しても証拠らしい物は出て来ないだろう。しかし髪の毛一本、指紋の一つでも見逃すまいと、警察官は血眼にして物証を捜しまわっている。

 事情聴取が終われば、遼太郎達に用はない。寧ろこの場に留まれば捜査の邪魔になるだろう。遼太郎は佐藤に先に自宅へ戻ると告げ、ペスカ達を連れて車に向かった。


 運転席に座る翔一は、精神統一をし探知の能力を使っている。いつでも仕掛けた罠に、対応出来る様にである。そんな翔一に、遼太郎は後部座席に乗る様に指示し、自らが運転席に座る。


 ペスカが助手席に座ると、アルキエルは乗り込むなり最後尾の席を占領し横になった。アルキエルは、モンスター化した三堂の体内にある邪気を消滅させ、奪われた神気を取り戻したのだ。多少は疲れを感じているのだろう。

 

 深山の隠れ家から自宅までは、然程の距離は無い。それでも多少の時間がかかる。ペスカはカーナビを操作しTVに切り替える。映し出されたのは、事件等に深く切り込む事で人気を博しているワイドショー番組であった。


「ペスカちゃん。気が散るから、少し音を小さくして欲しいんだけど」

「何言ってんの翔一君。こんなんで気が散るなんて、修行が足りてない証拠だよ」


 集中を研ぎらせたくない翔一にとっては、車の騒音どころかTVの音量すら不快であろう。しかしペスカは、事も無げに修行不足だと言い放つ。どちらが正解なのか、判断は難しいだろう。しかし、呑気な会話は長くは続かない。


「さて、次の話題です。本日早朝に、府中駅近くの雑居ビルで乱闘事件が発生しました。警察からの詳しい発表は出ておりません。またこの乱闘事件で、数名の重傷者が出た模様です。現在は緊急搬送され、容体は不明です」

「ここ最近は、こんな話題が続いてるよね」

「そうですね。ただ今回、番組独自の取材で、能力者が起こした事件であると情報を得られました。先ずは映像をご覧ください」


 アナウンサーの声に従い、現地の映像に切り替わる。そして、中継先のアナウンサーが、破壊された特霊局事務所の惨状を声高に伝えていた。

 それなりの事件であり、襲撃から数時間が経過している。確かに報道されてもおかしくはない。しかし、車内を騒然とさせるのは、中継が終わってからであった。


「本日は、能力者の事件に詳しい専門家をお呼びしております。外務省でご活躍され、現在は弁護士として能力者に関わる様々な活動をされている深山純一さんです!」


 同姓同名の別人、そんなはずがない。TVに映っているのは、間違いなく深山本人であった。深山が紹介された瞬間、遼太郎は慌てた様にブレーキを踏み、道路脇に車を停車させる。


「深山! なんでこいつがTVに! 翔一、罠に反応は有ったか?」

「反応は無いです、東郷さん」

「くそっ!」


 放送しているチャンネルを確かめると、遼太郎は車を急発進させようとする。しかし、それはペスカによって止められた。


「慌てないでパパリン。ちょっとスマホかして。家に連絡するから」

「お前、自分のスマホは?」

「家に置いてきた」

「はぁ?」

「仕方ないでしょ! ロイスマリアじゃ、スマホなんて使わないんだから!」


 そう言って遼太郎から、スマートフォンを受け取るとペスカは自宅に電話をかけた。数コールで電話が繋がる。電話口に出たのは、空であった。そして、ペスカはクラウスに変わる様に伝える。そして数秒の後、クラウスが電話口に出た。


「何の御用でしょうか、ペスカ様」

「あんたが、たまに見てるワイドショー番組があるでしょ?」

「えぇ。それが何か?」

「それを今すぐに録画して! マナの流れが視認出来る様にだよ、やれるよね!」

「畏まりました、ペスカ様。直ちに録画を開始いたします」


 ペスカは、深山本人を見た事が無い。しかし遼太郎の反応で察知した。紹介された男がつい先程、遼太郎が取り逃がした黒幕のリーダーであると。その為、自宅に連絡を入れて、魔法を使って録画する様にクラウスへ指示をしたのである。


 だが、クラウスとの通話が終わった瞬間に、遼太郎のスマートフォンが振動する。ディスプレイに表示されてたのは、三島健三の名前。ペスカは直ぐにスマートフォンを遼太郎に返した。


「三島さん、深山の件か?」

「そうだ。思わぬ方向に進んでいるね」

「俺達はこのまま、テレビ局へ向かう!」

「それは止めておきたまえ。行っても、深山君は捕まえる事は出来ない」

「何でそんな事が言える!」

「当たり前だろう。相手は深山君だよ。冷静になった彼は、君の次に敵に回したくない相手だ。予定通り、私は君の自宅へ急ぐ。わかったね」

「了解だ。三島さん」

 

 通話を切ると、スマートフォンを懐に入れ、遼太郎は車を発車させる。しかし発進直後に、ペスカが遼太郎に声をかけた。


「ねぇパパリン。リンリンが入院してる病院って、結構遠い?」

「いや、そうでもねぇ。少し迂回しなきゃなんねぇけど」

「ならその病院に寄って! 付き添いの許可を貰ってね。翔一君は、リンリンに付き添う事!」

「リンリンが狙われるとでも思ってんのか?」

「思ってるんだよ! 翔一君もいいね、リンリンをガードするんだよ」

「あぁ。わかった」

「わかったよ、ペスカちゃん」

 

 やや声を荒げるペスカに圧倒されて、遼太郎は車を方向転換させ病院へ向かった。慌ただしくなる状況下でも、翔一は冷静に状況を把握した。自分の出来る事、やらなければならない事をしっかりと理解しているからであろう。


 一方、番組ではパネルを使い乱闘事件の説明を行っていた。アナウンサーが説明を終えると、番組司会者が深山に意見を求める。


「これが能力者の仕業だとすれば、何の意図が有ったんでしょう?」

「遺恨でしょうね」

「遺恨? それは何故?」

「それを説明するには、先ず一つの組織について語らなければなりません」

「組織? それは民間のですか? それとも国の?」

「国の組織です。秘密裏に組織され、存在を知る者は内閣を含めて、一部の人間しか知り得ません」

「まさか! そんな組織が有るんですか? 問題じゃないですか!」

「ええ。仰る通り、かなり不味い状態です。この組織は、秘密裏に能力者を取り込む事を目的とした組織です。そして彼らは、能力者を利用し日本の軍事力を強化しようとしています」

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