表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
402/506

第四百一話 オールクリエイト ~冬也の交渉~

 アルキエルがリスト化された組織を、近場から順に壊滅させている間、冬也はある指定暴力団の総本部を訪れていた。

 冬也にしては珍しい行動である。どうせ全てを潰すなら、アルキエルの様に近場から順にしらみつぶしにしても良かったはず。しかし冬也は、最初に本部を訪れた。


 トップから潰せば、簡単に組織が崩壊すると考えた訳ではない。そして冬也の持つリストの中には、その指定暴力団と関連組織の名が連なっており、ペスカの作戦を無視した訳ではない。

 ではなぜ冬也は、いきなり本部を訪れたのか。それは冬也とその指定暴力団の間に、とある因縁があったからである。


 それは数年前にも遡る。悪さをしていた中学生のグループが、事も有ろうか暴力団の構成員に手を上げた。当然ながら、中学生のグループは暴力団に報復を受ける事になった。

 蹴られ殴られならば、ましなのだろう。中学生のグループは暴力団の事務所に連れて行かれ、監禁される事になった。


 ここまでなら、ごくまれにある事なのかもしれない。暴力団とは言え、いきがった少年達をどうこうしようとは考えていない。ましてや命を取る事態には陥らない。ただし少年達には、わからせなければならない。超えてはいけない一線が有る事を。


 どんな理由があれ、暴力団の構成員に手を上げた。この事実は変わらない。


 そして、少年達に袋叩きにされた構成員も処罰される事になる。当然だろう、ただの子供に伸されるヤクザなど、面目を潰されたのも同然である。今後一切、普通に外を歩く事は出来ない体に成り果てる。


 ただ、問題なのは少年達の方だろう。それなりのけじめをつけさせなければ、それこそ面目が立たない。とは言え、少年達は一般市民である。物理的に暴力を加えた事が公になれば、当然警察沙汰になる。こんなつまらない事で、警察に付け入られる余地を作るのは、得策とは言えない。


 ここで効果的なのは、単純な脅しである。銃やドスと言われる小刀を見せつけて、命の危機に晒されている事をわからせる。


 少年達には、そんな脅しが有効であった。監禁し弱り切ったところで、多額の金銭を要求する。更にリーダー格の少年を監禁したまま、少年グループを解放する。

 すると、少年達はカツアゲや万引き等、あらゆる手を使い金銭を集める事に注力する事になる。それでも、要求された金額には届く事は無い。その結果どうなるか。暴力団の手となり足となる、準構成員が誕生する事になる。


 ただこの時、暴力団が不運だったのは、リーダー格の少年が東郷冬也の同級生であった事だろう。少年グループの一人から事情を聞いた冬也は、友人が監禁されている暴力団事務所へと単身で乗り込んだ。そして、十数名の構成員を病院送りにし、友人を救い出した。


 だがこの事件は、これでハッピーエンドとはならない。下部組織を潰された暴力団の上部組織が、黙っているはずが無い。何が何でも落とし前を付けさせようと、更に人数を集めて冬也を襲撃する。しかし冬也は、その全てを排除した。無論、体中に多くの傷を作って。


 それ以降、警察の手が入り事件は終息へと向かう。この時警察側は、東郷冬也とそれに関わる者達へ報復をしない事を条件とし、少年グループの監禁等に関わる一切を見逃す事を暴力団幹部に約束をさせた。そして、今後遺恨を残さない様にと、一応は両者が和解に至っている。

 

 いま冬也が訪れているのは、かつて争った全国的に下部組織を持つ主要暴力団の総本部である。ここ近年で数を減らしているものの、構成員の総数は未だに数千を超える。


 都内の一等地に立つビルに、冬也は足を踏み入れる。防犯カメラで、冬也が訪れた事は見えていたのだろう。それまで穏やかであった事務所は、一気に騒然とした。

 それもそのはず、和解したとは言えかつて数十人にも及ぶ犠牲を出したのだ。冬也の顔を覚えている者も多い。緊張感が走る一方で、冬也はあまりにも軽くインターホンに向かって話しかけた。


「よぉ! 聞こえてんだろ? 組長さんと話がしてぇんだ。開けてくんねぇかな? 俺の事は見えてるんだろ? 通してくれねぇなら、このドアぶっ壊して、通ってもいいんだぜ」


 挑発する意味を籠めて、冬也は言い放つ。ただ、流石に主要暴力団の総本部に詰めるのは、一筋縄ではいかない者達である。即座に事務所内に居る構成員全てに武装させ、いつでも冬也に対応出来る様に待機させた。


 そして、開け放たれる入り口。冬也を待っていたのは、ぎらついた目をし拳銃を携えた複数の構成員。ピリピリとした緊張感と怒りの感情が、冬也にも伝わって来る。形式上は和解したとは言え、酷い損害を被っているのだから仕方あるまい。

 そんな中で、冬也は憶する様子など微塵も無く、堂々と構成員達の視線を浴びながら事務所内に足を踏み入れる。そして案内役の指示に従い、応接室へと入った。


 応接室には長いテーブルが有り、上座を中心に既に複数の男達が座っていた。恐らく組長と幹部なのだろう。応接室で待っていた男達は、構成員達と違い堂々とした様子で構えている。


 幹部らしき男の一人が椅子へ腰かける様、冬也に視線を送る。冬也は黙ってそれに従い椅子に座る。ただ普通の会社訪問と大きく違うのは、冬也の後ろには拳銃を持った構成員が、いつでも発砲出来る様に構えている事と、応接室の入り口と外にも多数の構成員が拳銃を持って、臨戦態勢に備えている事だろう。


「何しに来やがった東郷。てめぇとは手打ちにしたはずだ。あれ以来こっちは、てめぇの関係者には一切手を出しちゃいねぇ。アヤつけられる理由はねぇぞ!」


 冬也が座るなり、幹部らしき男が口を開く。男の脅す様なドスの利いたトーンに対し、冬也は普段と何も変わらない様子で答えた。


「質問があるんだよ」

「あぁ? 何言ってんだてめぇ!」

「俺達は今、ある能力者を探してる。あんた等、何かしらねぇか?」


 能力者という単語に、幹部らしき男の表情がピクリと反応する。そして僅かな機微を、冬也が見逃すはずは無い。 


「やっぱり知ってるか。その能力者を拘束しているのは、あんた等の組織で間違いねぇのか?」


 矢継ぎ早に、冬也は質問を投げかける。それなりの修羅場を潜って来たのだろう、最初に反応を示した幹部はおろか、他の誰もが冬也の問いに無表情を通した。

 沈黙は金、雄弁は銀。恐らくどんな答えをしても、ぼろが出ると思ったのだろう。暫しの沈黙が応接室に訪れる。

 衣擦れの音だけが響く程に、応接室は静まりかえり、咳をするのも憚られる様な緊張感が応接室を包む。


 幹部の男達から、威嚇する様な視線が冬也を射抜く。対して冬也の視線は、既に何もかもを見通しているかの様に男達を貫く。やがて、冬也の視線に耐えかねた幹部の一人が、徐に口を開いた。


「それを聞いてどうする。どこまで知ってやがる。これ以上踏み込むと、タマはねぇと思えよ!」


 幹部の言葉に反応し、冬也の後ろに立つ構成員が拳銃の安全装置を外して、銃口を冬也の後頭部に突き付けた。それと同時に、応接室の入り口を固める構成員達が、冬也に銃口を向ける。


 脅しではない。


 それは明らかであろう。そして、彼らはこのまま無事で、自分を帰すつもりもないだろう。幹部たちの目を見て、冬也はそれを理解し溜息をついた。

  

「アルキエルと違って、俺の体は人間なんだよ。そんなもんが当たれば、いてぇし血が出るんだよ。出来れば、穏便に済ませたかったけど、あんた等がそう来るなら、俺にも考えがあるぜ」

「あぁ? てめぇ! いてぇで済ますか!」

「一応、聞いておくぜ。俺の言う事を聞いて、全治一週間程度で済ますか、それともこれからの人生、半身不随で生きていくか。選べよ、馬鹿野郎共!」


 冬也の言葉で、怒りの感情が頂点に達したのか、緊張の糸が切れた様に時が動き出す。冬也の後頭部に銃口を突きつけていた構成員が、引き金に指をかける。

 ただ、その引き金が引かれる事は無かった。その構成員は冬也に腕を掴まれて、一本背負いの様な形で投げられ、長いテーブルを転がった。


 次に冬也は、入り口に素早く移動する。そして、掌底を放ち入り口を塞ぐ構成員達を、一撃で昏倒させた。


「銃なんか食らわねぇぞ、いてぇからな。あんた等の答えは、半身不随って事で良いんだな?」


 この時すでに、完全に立場が入れ替わっていた。否、最初から男達は冬也を脅して優勢に立ったと思い込んでいただけなのだろう。

 冬也の声には神気が籠る。言わば、その言葉は神の意志である。それに耐えられる人間など、いるはずがない。

 応接室の外で拳銃を構える構成員達の足は、ガクガクと震えだす。それまで悠然と構えていた幹部連中すら、顔を青く染めていた。

 

 自分達は、敵にしてはいけない男を敵にしてしまった。それに気が付いた時には既に遅い。自分達は狩る側では無く、狩られる側であった。それを自覚するには遅すぎる。


「なんなら、関西の連中に助けを求めろよ。どうせ、あんた等みたいな組織は、全部壊滅させる事に決まってるんだからな」


 冬也の言葉を理解する事なく、一人また一人と構成員達が昏倒していく。そして幹部が倒れ、最後に組長だけが残された。


「最後にもう一度聞くぜ。能力者の居場所は何処だ?」


 冬也の言葉で卒倒してもおかしくはない。流石に主要暴力団のトップといった所だろう。震えを堪える様にし、冬也の問いに答えた。 


「芝浦ふ頭近くの、うちが持ってるビルだ」

「地図のどの辺だ?」

「ここだ。今夜まではここに居る事になってる」

「わかったありがとよ」

  

 地図上で場所を指差させると、冬也は掌底を食らわせ組長の意識も奪う。そして、スマートフォンを操作し、佐藤に通話を繋げた。


「佐藤さん、能力者の居場所はわかったぜ。これからそこに直行する。大丈夫だ、そっちは俺に任せておけ。それより警察は、後処理を頼む」


 能力者の居場所が判明した。しかし、主要暴力団の総本部が壊滅した事は、関係する者達の怒りに火をつける事になる。それは本格的な抗争の始まりでもあり、今はまだ渦中に過ぎない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ