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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十三章 革命の火種

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第三百九十四話 オールクリエイト ~動き出した陰謀~

 新型ウイルスの騒動から一か月が過ぎようとしていた。ウイルスの感染者数は激減し、緊急事態宣言の解除が政府から発表される。


 それまで外出を控えさせられていた人達は、街へと繰り出していく。そして、街は活気を取り戻すことになる。

 但し、この騒動で本社機能を関東外へと移していた大企業が、直ぐに東京へ本社機能を戻す事は無かった。それでも、オフィス街にも活気は戻りつつある。


 街に人が戻っていく。それは、騒動の種が街へと現れる事と同義である。沈黙から解き放たれた街では、様々なトラブルが増加する。警察は沈黙の一か月を取り戻すかの様な忙しさに謀殺されていた。


 また、WHOを始め世界各国から、『新型ウイルス発生の原因を追及する事』と『情報開示』の要求が有る。それに対し政府は、『能力者によるテロ行為の可能性が高い』とだけ発表した。


 その発表が主な要因となり、元々悪印象が有った能力者に対するイメージは、更に悪化していく事になる。

 加えて、海外からの日本の評価は大きく変わる事になる。それは円価や日経平均にも影響を及ぼす事になる。


 そして、これまで鬱屈した不満を一気に吐き出すかの様に、東京各所で『能力者の排除』を要求するデモ活動が行われる。また、街中で能力者が見つかると暴行を受ける騒ぎにまで発展する。

 それを恐れてか、一部の能力者は警察へ保護を願い出る。そして、警察に協力的な善良なる能力者でさえも立場を失いつつ有った。


 日本国民がそこまで過激な反応を見せたのも、新型ウイルス騒動で多くの死者が出た事に起因するのだろう。経済的な圧迫が有れば猶更だ。

 それに、一般人からすれば異能力とは恐ろしい物なのだ。悪意ある使い方をすれば、多くの命を脅かす騒動に発展しかねない。


 そんな国民感情は、『能力者』から『能力者を捕らえられない警察』へ、そして『能力者を野放しにしていた政府』へと移っていく。遂には内閣総辞職を求める声まで上がる様になる。

 

 そんな中、警察に保護を訴えた能力者の力を消す為に、ペスカと冬也は各署を周っていた。


「なぁ、ペスカ。能力者から力を奪った所で、何の解決にならなくねぇか」

「これも黒幕さんの狙いって事じゃないの?」

「黒幕は一体何を考えて、こんな騒動を起こしやがったんだ?」

「多分ねぇ。政府とかに不満が集中する様に仕向けたかったんじゃない?」

「だから、それは何でだ?」

「どうせ日本を変えるんだとか何だとか、下らない事を考えてるんじゃない?」


 黒幕の思惑は、推測の域を超えない。しかし、『革命めいた何か』を考えているのは間違いないだろう。

 但し、それは真っ当な方法で行われなければならない。多くの犠牲を伴う方法では何も変えられはしない。仮に『正義という仮面をした権力者』だけが得をする社会であろうともだ。 


 必ずしも武力が必要な訳ではない。そうでなくても解決出来る方法は有るはずだ。どれだけ困難であろうと、それを探るべきなのだ。

 しかし、ペスカは既にロイスマリアの神である。積極的にこの世界へ関わるべきではない。それは実に歯痒い事であろう。


 ☆ ☆ ☆


 とある日の昼過ぎ、疲れた表情の遼太郎が翔一を連れて、自宅へと戻って来る。そこには、所轄で捜査を進めていた佐藤の姿もあった。


「パパリン、だいぶ疲れた顔をしてるね」

「あぁ。結構な能力者を捕まえたと思ったけどな。中々、本命には辿り着かねぇ」

「黒幕? 例のウイルスを作った能力者の事?」

「両方だ。それに今の警視庁は、内部の敵探しに躍起になってやがる」

「警察も大変だねぇ?」

「他人事の様に言うんじゃねぇよ」

「でも、翔一君の探知ではわからなかったんでしょ?」

「八王子署の時はな。でもよ、町田での暴走やら、八王子事件の絡みやら、どう考えても内部に黒幕と繋がってる奴が居るとしか考えられねぇ」

「それを炙り出そうって?」

「あぁ。ただでさえ、新型ウイルスの騒動で政府や警察に不満が集中してるんだ。お偉いさん等も重い腰を上げずにはいられねぇだろうよ」

「そんで佐藤さんまで連れて、何をしに戻って来たの?」

「あぁ? 何を言ってやがるペスカ。ここが日本で一番セキュリティが万全なんだよ。お前のせいでな」


 異世界からの住人が住む家として、余計な外部干渉を受けない様に、東郷邸は幾重にも結界が張られている。当初は、女神フィアーナ、シルビア、ペスカの保護を目的としたものであった。しかし、これらのセキュリティは、ペスカに利用され改造され今に至る。

 初期に設置されたのは、赤外線と陰陽道を併用した物理と霊的両面での侵入警告。それと、自宅内には、監視カメラであった。


 ペスカは先ず、ダミー情報が流れる様にし、監視カメラを無力化した。そして、陰陽道の結界を利用し、対物、対魔術結界を構築した。

 当然ながらペスカは、通信回線上にも対策を施した。過去に特霊局のメンバーが、ペスカのパソコンをハッキングしようと試みた時、失敗したどころか大量のウイルスを送りつけられ、パソコン数台を壊された例が有る。 

 これによって東郷邸は、盗撮や盗聴、ハッキング、物理的な侵入、遠隔からの狙撃に至るまで防ぐ、日本で一番安全な場所となっていた。

 

 ペスカは遼太郎達が家に入る前に、予定が無く部屋で勉強をしていた空を呼ぶ。そして、佐藤に触れさせた。特に反応が無い事を確認してから、佐藤を家に入れる事を許可した。


「毎回悪いね。でも、知らない間に洗脳させられてるなんて、恐怖でしかないからね」

「まぁね。それほど疑ってはいなかったけどさ。この方法が一番早いんだよ」


 佐藤に触れた後、空はそそくさと部屋へ戻り勉強の続きを始める。そして遼太郎達は、リビングのソファにドカッと腰を下ろした。ようやく落ち着いたとばかりに、遼太郎達はそれぞれに体を伸ばした。


「それで何か進展したの?」


 ペスカの問いに、一同は揃って口を噤んだ。その姿は、何から説明したらいいのか、言い淀んでいる様にも感じた。

 遼太郎は整理をしているのか、腕を組みこめかみ部分を押さえている。翔一と佐藤は遼太郎の手前、遠慮しているのか、遼太郎が口を開くのを静かに待っていた。


 暫くすると、遼太郎は静かに口を開く。

 

「今の警察はな、外だけじゃなくて内の対応にも天手古舞って訳だ。身動きが取れねぇ」

「そんな時に、新型ウイルスの第二弾なんて来たら、目も当てれないんだよ」


 確かにそうだ。清水は捕まえた、能力も消滅させた。しかし、黒幕側にはコピー能力者が存在している。極小の世界をインストールしていてもおかしくはない。そうなると、コピー能力者単独での犯行が可能になる。遼太郎達は、それを恐れているのだ。


 しかし、ペスカはその可能性をきっぱりと否定した。


「黒幕側は、もうウイルスを撒かないと思うよ」

「ペスカちゃん。その心は?」

「あれはさ、なんて言うかさ、ブラフみたいなもんだと思うよ」

「ブラフ? 下手すると世界中を巻き込む騒動になったアレが?」

「本当の狙いは、ウイルス関連による騒動って所だろうね」

「その裏で何か狙っていると?」

「そうだろうね」


 佐藤は、そこまで言うと一呼吸置く。そして、遼太郎達の表情を伺い鎮痛な面持ちで口を開こうとした。だが、中々声にならない。それを慮ったのか、遼太郎は居住まいを正した。

 佐藤の様子を見て、悪い情報を持っている事は間違いないだろう。そう考えて話を促した遼太郎は、佐藤の報告で頭を抱える事になる。


「佐藤。なんでもいい、話してみろ」


 佐藤は深い溜息をついた後、ゆっくりと話し始めた。それは遼太郎の想像を、遥かに超えていた。


「マトリからの報告がありました。都内でクスリの取引が活発化してます。エスやエイチ、シー、タブレット、種類は様々です。かつて無い量が出回っており、マトリだけでは手が追えない状態です」 

「出所は?」

「不明です。少なくとも、国外から持ち込まれた物ではない様です」

「まさか、それも能力者がらみって事か?」

「少なくとも、僕はそう考えてます、東郷さん」

「十中八九、黒幕連中が絡んでやがるな」

「僕もそう思います」


 一般に麻薬といっても種類は多種に渡る、有名なのは覚せい剤や大麻であろう。昨今ではLSDや脱法ハーブも世間を賑わせている。例えば大麻は、医療用としても利用されている。

 麻薬に関する取引等は法律上は免許制であり、免許を持たない者が所持や譲渡、製造等を行う事を禁止している。法の下で行われた正当な行為であっても、取引数量や使用量等は厳しく管理されるのが現状である。

 即ち違法と呼ばれるのは、法律上から離れて取引される物である。違法な麻薬は密売人によって、国外から持ち込まれる。そして、闇組織によって売りさばかれる。


 都内で麻薬の取引が活発化しているならば、流通ルートが有るはず。しかし、それほど簡単に国内へ持ち込める程、入国管理局は甘くない。大量に流通している時点でおかしいのだ。仮に、知られてない新たな密売ルートがあったなら、話は別だろうが。ただ、それも現実的ではない。


 極小の世界事件を皮切りに、警察内部の紛争に麻薬の流通と、立て続けに頭を抱える難問が起こる。

 遼太郎は完全に頭を抱えて唸っている。翔一と佐藤の表情は酷く暗い。匙を投げたくなる状況であろう。しかし、ペスカはニヤリと笑った。


「色々とやらかしてくれる子には、お仕置きをしないとね」

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