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第三百八十七話 極小の世界 ~大神との対面~

 ペスカが旅行の支度をする間、冬也は神社での出来事を語って聞かせた。そしてペスカは、まるでその状況を予想していたかの様に「そう」と一言だけ答えた。


 次の日には、ペスカ達は三重県に向かって旅立った。私鉄を使って東京駅へ、そこから新幹線に乗って名古屋まで。そこから私鉄に乗って伊勢までというルートだ。

 東京駅は緊急事態宣言のせいか、想像以上に閑散としていた。すんなりとチケットを取れた一向は、駅弁を確保しつつ新幹線に乗り込んだ。

 

 電車より圧倒的に速度が有る新幹線に、アルキエルが目を輝かせる。これは、日本の大神に挨拶をするのが目的だ、唯の旅ではない。それでも、道中を楽しんではいけない決まりはないはずだ。


 ロイスマリアの殆どを巡った冬也とペスカであるが、日本での旅行は初めてに近い。冬也は学校にバイト、残りの時間を鍛錬と忙しい日々を送っていた為、旅を楽しんだ事が無い。

 ペスカとて、自身にマナを蓄える事に必死だったのだ、旅行など考えてもいなかった。冬也とペスカとて海外を訪れた事は有る。それは、アマゾンの奥地に放り込まれた時だけだ。


 ペスカと冬也は弁当をつつきながらも、富士山が見えて来るとはしゃいだ声を上げる。ロイスマリアで雄大な景色を幾つも見て来たアルキエルも、「ほう」と感嘆の声を上げていた。


 これこそが、旅の醍醐味だろう。


 名古屋駅で下車すると、そこはもう見知らぬ風景である。エキナカの食堂に目を奪われつつ、ほんの少しのドキドキを膨らませながら、一向は私鉄に乗り換え目的の駅に降り立つ。


「流石にこの辺まで来ると、観光客がいっぱいだな」

「私達も観光客だけどね」

「出迎えが来てやがる。ここの神は、近くのガキとは違ってわきまえてやがるな」

「珍しく、アルキエルが褒めたね」


 一般の観光客には見えていないだろう。駅の前には白い影が数体ほど立っている。誰もが素通りするなか、白い影は一向に近付いて来る。そして、目の前まで近付くと一斉に頭を下げた。


「ようこそ、お越しいただきました」


 天照大御神の使いと言えば、八咫烏や鹿などの動物と言われている。目の前に居るのは、人間の形を模したものだろう。

 また、その丁寧な口調は、もてなしの意味が籠っている様にも感じる。土地神との対応の違いに、一向は少し目を見開く。


「まだ、バスに乗って移動すると思うんだけど。こんな所からお出迎えなの?」

「はい。皆様にお手間は取らせません」


 やがて、辺りには白い煙が立ち込める。やはり一般の観光客には見えていない。そして、白い煙に害が無い事をわかっていたのか、アルキエルは泰然として立っていた。

 

 白い煙が収まった頃には、辺りの風景が変わっていた。


 そこは、光が溢れる空間だった。そして、一際眩い光の塊が見える。それは、膨大な神気を内包している。少し離れた場所からでも、ビリビリとした威圧感を感じる。

 一向を迎えに来た白い影は、その周りに集まると膝を折る。誰が見ても、そこに鎮座する存在こそが大神である事がわかる。

 

 やがて、白い影は消えていく。それと共にひりつく様な威圧感も薄れていく。光は徐々に収まっていき、それを放っていた中心から人影らしきものが見えて来る。


「其方達ですね。異界からの訪問者は?」


 その問いかけに応じ、口を開こうとした冬也をペスカが手で制する。そして一歩前に進むと、ペスカは腰を屈めて礼をした。

 

「天照大御神とお見受け致します。ロイスマリアの一柱、ペスカに御座います。右の者は我が兄、冬也。そして兄の眷属であるアルキエルでございます。どうぞ、お見知りおきを」


 これは、ペスカにとって精一杯の挨拶だった。挨拶として正しいかどうかはわからない。そもそも、遜る必要が有るかどうかもわからない。ペスカは、ロイスマリアにとって欠かせない、重要な神の一柱なのだから。


 しかし、礼を欠いてはならない。その気持ちを汲んだのだろう。大神は少し微笑むと徐に口を開いた。 


「お互い神同士、堅苦しい口調は止めませぬか?」

「そう言って頂けると」


 そうして、大神とペスカは笑顔を零す。それを見て、冬也は肩から力が抜けた様な感覚を覚えた。

 

 挨拶が終わり、和やかな空気に変わる。大神にもそれなりの緊張が有ったのだろう。それは仕方がない。強い神気の持ち主が三柱も現れたのだから。

 故に、迎えを出した。礼を欠いたと腹を立てぬ様に。だが、杞憂に終わってホッとしているのだろう。それは、漂う空気が物語っている。


「それで、用向きは異能の力でよろしかったですか?」

「はい。それに伴う、我々の行動許可を」

「彼の地から訪れた悪神の討伐と、それが振りまいた種子の回収。それが成されるなら、我等は其方達がこの地で活動する事を許しましょう」

「案外、話しがわかるじゃねぇか。良かったなペスカ」

「お、お兄ちゃん! 流石に言葉が過ぎるって!」


 流石のペスカも、冬也の遠慮の無い様に驚いたのだろう。そうならない様に、自分が前に出たのだから。しかし、冬也の態度にも大神は笑って返す。


「構いませんよ、ペスカ殿。我々とて、其方達と事を構えようとは思いません」

「ありがとうございます、大神様。それで、ありがとうついでなんですが」

「悪神の居所でしょうか?」

「ええ」


 使えるものは使え。ペスカの悪い癖だ。しかし、そんな図々しいペスカの問いかけにも、大神は笑顔を浮かべた。ただ、その答えがペスカの望む物とは限らないが。

 

「残念ながら、我々にもわかりません。余程、巧妙に姿を隠しているのでしょう」

「そうですか。それでは、今回の騒動についてですが……」

「異能の力に依るものです。但し、病原体を作り出した者とばら撒いた者は別に存在します」

「二人居ると?」

「ええ。病原体を作り出した者は、いずれかに監禁されています。ばら撒いた者は、未だ活動を止めておりません」

「因みに、そのばら撒いた者の居場所なんかわかったりは?」

「こことは別の次元を行き来している様なので、はっきりとはわかりません。しかし、その能力ならば」

「それって?」

「概ね、ペスカ殿が予測している通りでしょう。彼の者の能力は極小になれる事。小さくなる事で体内に入り込み、病原体を植え付けたのでしょう」


 そこまでは、翔一が探知で得た結果から推測出来る。確かに、ナノレベルまで小さくなれば、人の体に入り放題だろう。そうして、ウイルスをばら撒いたとしたら、納得がいく。


「なぁ、ペスカ。小さくなれるなんて言っても、不便じゃねぇのか? 体に入り込むんでも、一苦労だぜ」


 冬也の質問も最もだ。小さくなったとして、どうやって体内に入り込むというのだ? しかし、それは協力者が居れば解決する。


「多分さ。インビジブルの能力が使われたんだと思うよ」

「どう言う事だ?」

「冬也殿。不可視の力は姿を消す事では有りません。次元を移動する力です。その力を利用して彼の者、いや、仮に極小の世界とでも呼びましょう。極小の世界を隠し、移動させる等したのでしょう」


 恐らくだが、大神が『世界』と称したのには理由が有る。


 それは、ナノレベルまで小さくなる事が重要なのだろう。そこには、敵と思われる者が存在しない。誰にも小さくなっている事がわからない。翔一の探知でさえも正確な位置を特定するのは難しいかも知れない。

 その意味では、その能力を使っている最中であれば無敵に近いのだろう。故に大神は『世界』と称したのだろう。


 しかし、対抗策が全く無い訳では無い。


 大神の説明を聞きながら、ペスカの頭は目まぐるしく動いていた。そして、ニヤリと口角を吊り上げると、再び大神に向かって頭を下げる。


「大神様。お許しの件と貴重な情報をありがとうございます」

「構いません。ご理解なさっていると思いますが……」

「はい。地上に影響を及ぼす真似は致しません」

「それが聞けて何よりです」


 そうして、ペスカ達は天照大御神の領域から出る。


「思ったより、スムーズに行ったから日帰りで帰れそうだね」

「なら、土産を買って直ぐに帰るか」

「なんだ、もう帰るのか? なにか食わねぇのか?」

「そうか。昼飯にしても良いんだな」

「せっかくだからご当地名物でも食べよっか」


 そうして、食事を済ませ土産も手に入れた一向は、直ぐに電車へ乗り込む。そして、夕方には東京へ辿り着くのであった。

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