第三百八十四話 極小の世界 ~検討 前編~
ペスカと遼太郎は、佐藤ら刑事達を残して部屋を出ていく。そのまま署内の道場へ向かい冬也とアルキエルを回収した。
無論、アルキエルは不満気にしていた。何せ、興が乗って来た所で止められたのだから。ただ、そこで憤慨しても何も変わらないのは理解している。だから、嫌々ながらもペスカの後に着いて行く事を決めた。
警察署から出るとタクシーを探す。運が良かったのか二台のタクシーを掴まえると、事務所に向かって走った。事務所には一時間足らずで到着する。
事務所と言っても、テナントビルの一階を貸し切っているだけで、そこまで広くは無い。一歩足を踏み入れれば、デスクが見渡せる程だ。
遼太郎が入口を開けると、中には数人が集まって談笑していた。続いて冬也が覗き込むと、中の一人が冬也に気が付く。そして、冬也に走り寄ると抱きしめて来た。
「冬也! 冬也じゃねぇか! なんだよ! 久しぶりだなぁ!」
「雄二……。相変わらずテンションたけぇな。取り合えず離れろ」
「悪い悪い。それより、ありがとうな」
「何が?」
「学校で助けてくれた事だよ。翔一から色々と聞いてはいたけど、もう会えないとおもってたからよ。改めてな」
「気にすんな。あれは、みんなでやった事だ」
「ねぇ、設楽先輩。私もすっごく頑張ったんだけど」
「おう! 東郷妹もありがとうな」
学校が炎上した際は、誰もが懸命に残された者を救うおうとした。もう少し言葉が有っても良いかも知れない。しかし、明け透けの態度は女性を安心させるのだろう。ペスカは少し苦笑いをしていた。
冬也と雄二が入口で盛り上がっている間、アルキエルは勝手を知ったかの様にずかずかと進み、事務所内に有る椅子に腰掛ける。それを眺めながら、遼太郎が後に続いてアルキエルの隣に座る。
見も知らぬ者が事務所に入って来るのは、誰もが訝しむだろう。遼太郎の行動は、それを見越しての事だった。
遼太郎の行動を見て少し安心したのか、奥に有るパソコンの前に座っていた太った男はアルキエルから視線を逸らす。そして背の高いグラマラスな女性が一人、冬也達の会話に加わった。
「ワタシもショウカイしてクダサイ!」
「おう! 冬也、東郷妹。この人はエリー・クロフォードさん。霊能力者だ。そんで、パソコンの前に座ってるのが」
「リンリンでしょ?」
「あぁ、そっちは知ってる。エリーさんよろしくな。東郷冬也だ」
「トウゴウ? リョウタローのコドモ?」
「あぁ。偉そうに座ってる糞親父が俺達の父親だ」
「私は妹のペスカだよ。ペスカって呼んでね」
「トウヤ、ペスカ、ヨロシクデス」
「親父の隣に座ってるのが、アルキエル。俺の家族みてぇなもんだ」
「カゾク? キョウダイ?」
「兄弟じゃねぇんだが、色々な……。まぁ、仲良くしてやってくれ」
「ワカリマシタ。アルキエル、ヨロシクデス」
エリーの言葉に、アルキエルは片手を上げて軽く振るだけだった。しかし、アルキエルが人間に挨拶を返すだけ進歩だろう。隣に座っていた遼太郎は、目を見開いていた。
そして、遼太郎は少し息を吐くと、財布からお札を取り出して雄二に視線を送る。
「取り合えず、紹介が終わったなら夕飯にしようや。わりぃが雄二、これで弁当でも勝って来てくれるか」
「はい、わかりました。それでリクエストは?」
「俺はかつ丼だな」
「ワタシもオナジでイイデス」
「拙者はカツカレーですな」
「冬也、なんだカツカレーってのは?」
「昼に食ったやつだよ」
「なら、俺はそれだ」
「わたしも~!」
「冬也、お前は?」
「俺は荷物運びを手伝うよ」
「そっか。ありがとな」
事務所の入口を潜ると、空は黄昏色に染まっていた。雄二と冬也は少し足早に弁当屋へと急いだ。
それから親睦を兼ねた夕食が始まる。ただ、自然と話題は事件の話しになっていく。未明に起きた事件や高藤俊の殺害は、特霊局の面々を驚かせた。
無論、彼等にとっての朗報も有る。それは能力の封じ方だ。それを説明すると、エリーは目を輝かせていた。
「ソレナラ、ワタシニもデキソウデス。サッソク、シブにツタエマショウ」
「あぁ。頼むぞエリー」
「聞いただけで、てめぇに出来んのか?」
「ダイジョウブヨ、アルキエル。ワタシはスゴいサイッキックダヨ。オチャノこサイサイ」
「それよりも、翔一君達が帰ってきたら一旦整理しない?」
「そうだな、ペスカ。あいつ等もそろそろ帰ってくんだろ」
夕食が終わり、一同はそれぞれにリラックスし始める。それから小一時間程で安西と翔一が事務所に到着した。そこに、大学での用事を終えた空と護衛のクラウスや、取り合えずの用事を済ませた佐藤が合流する。
「みんな、お疲れさん。それでお前等、飯は?」
「途中で食ってきましたよ」
「私達もです」
「こっちもですよ。所で、局長さんは?」
「三島さんは来ねぇよ。今はお偉いさん達と悪だくみだ」
「今度は何を暴露させるんです?」
「さあね」
「あの人達は、国民の目を逸らせられれば何でも良いんでしょうね」
「一先ずは、これまでの情報を整理するか」
一同が席に着く。そして、遼太郎が一連の事件を説明し始めた。
インビジブルサイトこと、高藤俊が起こした窃盗事件から始まった。高藤が能力を使って窃盗を重ねている映像が、警察に送られて来たのだ。
当然、高藤本人がそんな映像を送って来たとは思えない。故に、バックに高藤を操る黒幕が存在すると推測した。
そんな最中、高藤が町田駅近くで能力を暴走させる。その暴走の最中に、遼太郎達が異世界から戻って来た。
高藤の暴走を止める事は出来た。しかし、突如として別の能力者が現れて、翔一を襲う。それがコピーとインストールの能力者だ。
コピーの能力者は高藤からインビジブルサイトをインストールし、次に翔一の探知をインストールしようと企んだのだろう。しかし、遼太郎の機転で翔一は難を逃れる。
そして、遼太郎と翔一は直ぐにパトカーに乗り込み、コピーの能力者を追った。しかし、コピーの能力者を追うパトカーは次々と一般車両に追突される。そして、遼太郎達が乗るパトカーも追突されて爆発した。
遼太郎と翔一は大きな怪我も無かった。しかし、被害甚大の為にコピーの能力者を追う事は中止せざるを得なかった。
コピーの能力者を取り逃がしたのは致命的とも言えよう。しかし、問題はそれだけではない。暴走の際に起きた通信障害は、警察を混乱させる為のものだろう。加えて、クラウスが張った結界が書き換えられたという。
黒幕の中にそんな事が出来る能力者が存在する証拠になるだろう。
加えて遼太郎は、黒幕の中に洗脳能力者が居ると踏んでいる。その能力者により、警察内部に黒幕連中へ加担する者が存在する可能性も示唆していた。
黒幕連中の目的は定かではない。ただ、世界中を大混乱に陥れるだけの危険を内包している存在だ。警戒するに越した事は無いだろう。
そんな最中、八王子市内で事件が起こった。
それは殺人事件だった。被害者の身元は不明、片腕が無くなった状態で発見される。部屋の状態から片腕を無くしたのは別の場所で、被害者は発見された部屋に能力で運ばれたと遼太郎達は推測した。
遼太郎達が現場を離れようとした時に、犯人が自首をしてきたと連絡が入る。そして、急いで警察署を訪れ、遼太郎達は事情聴取を見学する事になる。
自首をして来たのは久木翔、爆破の能力者だ。彼の証言では菅谷隆夫というテレポート能力者が関与していたと言う。
だが、事態は一変する。事情聴取の最中に連絡が入ったのだ。それは、高藤が運ばれた病院内で死んだとの連絡だった。




