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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十二章 混乱の東京

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第三百八十三話 極小の世界 ~菅谷の証言~

 能力の封印が終わり、菅谷を起こそうとした時だった。部屋の戸が開く、そして遅れた佐藤が現れた。佐藤は頭を搔きながら紙谷を少し睨む。そのあとあからさまな笑顔を作った。


「紙谷ぃ~! 俺を待たないなんて、良い度胸してるよなぁ!」

「す、すいません! 佐藤警部! なにぶん、急いだ方が良いかと思いまして!」

「おかけで、一番面白そうなシーンを見逃しちまったじゃねぇかよぉ!」

「き、記録は撮ってあるので」

「まぁ良い。首尾は?」

「上々です。これから菅谷を起こし、事情聴取を始める所です」

「その前に、やる事が有るだろ!」

「もしかして、久木の能力も封じるって事ですか?」

「そうだ。協力してくれるんでしょ? ペスカちゃん?」

「いいよ。元々そのつもりだったしね」


 久木の事情聴取は粗方終わったものの、まだ解放はされていない。一旦、菅谷を寝かせたまま、拘束中の久木を再び取調室へ連れて来る事になった。


 佐藤の要望で、菅谷に行った二つの方法を再現する事になる。そして冬也は、最初に久木の能力を魂魄に封じた後、因子を引き剝がして消去をした。

 当然、前回同様に録画をされている。加えて、神気を少し解放した際に放たれた光も、記録に収められている。


 神秘を目の当たりにした佐藤は、興奮気味に声を上げていた。


「凄いなぁ。これで能力が使えなくなったのか。これで、そちらさんの仕事も楽になるでしょ。東郷さん」

「あぁ」

「でも、実証が出来てないんだよな。いや、ここで試してみれば良いんだ。試しに久木、能力を使って見ろ!」

「いや、でもここで使うのは危険じゃ?」

「良いから使って見ろ!」

「は、はい」


 佐藤の圧力に屈し、久木は能力を発現させようとする。しかし、どれだけ集中しようが、爆破の能力は発動しない。それどころか、今まで自分の中に有った特殊な感覚さえない。

 それを理解した時に、久木は顔を青ざめさせていた。当然、表情の変化に気が付かない刑事達ではない。


「久木。まだ話してない事が有りそうだな」


 久木は直ぐに、両腕を刑事達に掴まれて別の取調室に連れて行かれる。その後、目を覚ました菅谷も似た様な反応を示した


 菅谷は慌てて能力を使って逃げようとした。しかし、どこにもワープが出来ない。しかも、多くの警官が自分を取り囲んでいる。

 逃げられないとわかった菅谷は、観念したかの様に肩を落とし「全てを話します」と語った。


 事情聴取が始まる頃には、遼太郎等が外に出される事になる。そして、隣室に通され鏡越しに事情聴取の様子を見る事を許された。

 その際に、別室で待機していた安西が合流する。安西もまた、佐藤同様に神秘の体験が出来なかった事を悔やんでいた。

 

 ただ、問題なのはアルキエルである。既に菅谷を捕らえ、能力も消したのだ。役目は果たしている。退屈そうに欠伸をしていたアルキエルは、ふと冬也に視線を送る。


「そうだ、冬也ぁ。稽古をつけてくれるって言ってたよなぁ」

「いや、それは今じゃなくても良いだろ?」

「そうは行くか! 俺は頼まれた事をやったんだ! 褒美の一つくらい貰っても良いはずだ!」

「子供かよ!」

「うん? 君達、体を動かしたいのかい? それなら署内に道場が有るから、そこを使えば良い」

「小僧! 直ぐに案内しろ!」

「刑事さん、余計な事を……」


 そうして、冬也とアルキエルは紙谷に連れられ道場へ向かう。そして、別室に残るのは遼太郎、ペスカ、翔一、安西の四人と数人の刑事達になった。

 

 そうして、菅谷の尋問が始まった。


 菅谷の証言では、深夜に起きた事件は自分ともう一人の能力者で行ったとの事だった。もう一人の能力者は名前も知らず、犯行を起こす直前で会ったと話していた。

 犯行の目的は、その能力者の力を試す事。そして、ターゲットになった被害者は、偶然に見つけた通りすがりの男性であった。


 自分は運ぶだけ、その能力を見てはいけない。そう指示を受けていたので、犯行自体は見ていない。しかし、実際の犯行現場はわかる。

 その後もう一人の能力者の指示で、先に指定されていた場所にワープし、意識を失った被害者を置き去りにした。


 後は報酬を受け取るだけと思って、家でくつろいでいた所に警察が来た。捕まると思って、慌てて逃げた。


「お前に指示をしたのは誰だ?」

「わかりません。スマホで連絡を受けていただけなので」

「そんな訳が無いだろ! 会った事は? 声は? 男か? 女か?」

「知りません。多分、声を変えていたと思うので」

「音声ソフトの様なものか?」

「はい」

「それなら、実行した奴はどんな恰好をしていた?」

「多分、男で間違いないと思います。でも、ニット帽を深く被っていたので、顔までは」

「そいつとは、どうやって出会った?」

「いや。だから、スマホの指示で」

「被害者を置き去りにしたのも、その指示なんだな?」

「そうです」

「お前は何も知らずに、犯行の手伝いをしただけなんだな?」

「そんなつもりは無いです。能力を使う時に怪我人が出るだろうと。それで、怪我した人を部屋に運んで置いて来いって言われて」

「さっきと言っている事が違うな! 犯行の目的まで知っていたんだろ?」

「詳しくは聞かされてないんです。本当に、怪我人を運んだだけです。その後に救急車が来るもんだと思って」

「それなら何故、警察がお前の家に尋ねた時に逃げたんだ? やましい気持ちが無ければ、逃げないだろ!」

「捕まるのが怖かったです」

「それなら、お前と久木との関係は?」

「知らないです。誰ですか?」

「久木はお前の名前を出しているんだぞ!」

「その久木って人は会った事も無いし、名前を聞いた事も無いです」


 被害者を運んだのは認めるが、直接犯行には関わっていない。指示を受けてやった事だが、それを指示した者はわからない。

 菅谷の証言は何とも歯痒い。これでは真相へ一向に近付かない。しかし、事情聴取は未だ始まったばかりだ。それこそ重要な証言はこれから取れるだろう。


 しかし、ペスカは既に見切りをつけたのか、少し背伸びをしていた。


「飽きたって顔じゃねぇな」

「う~ん。これ以上は、この人から黒幕の情報は出なそうかなって」

「まぁ、そうかも知れねぇな」 

「ねぇパパリン、別の事情聴取を見て来ない?」

「そうだな。安西、悪いがこっちを見ててくれないか? 翔一は、何か見えたら直ぐに報告してくれ」

「わかりました、先輩」

「了解です、遼太郎さん」


 そうして、ペスカと遼太郎は久木の事情聴取を見学する為に部屋を出る。ただ、久木の事情聴取も順調とは言い難かった。


  先に証言したのは、全て指示された通りに言っただけ。自首をして指示通りに証言をする。受け答えも事前に何パターンか用意されていた。

 そして、折を見て爆破を使って警察署から脱出する。そこまで出来れば、報酬が貰えるはずだった。


 そこまでは素直に話した。しかし、菅谷同様に指示した者の存在は一切知らないと答えていた。それと、この様な仕事を受けたのは初めてで、自首の件以外は一切の関わりが無いとも話していた。


「佐藤。こっちも駄目そうだな」

「良かったのは、八王子署を爆破される前に、能力を封じられた所ですかね」

「大混乱どころじゃねぇしな」

「いや、ホント。全く笑えないですよ」

「佐藤。現場へ誰か行かせるんだろ?」

「菅谷の証言に出た? もう所轄の刑事が向かってるはずです」

「あぁ。そこに翔一を向かわせたい。一応な、確認ってやつだ」

「構いません、一報入れときますよ」


 遼太郎とペスカは佐藤を連れて、安西達がいる部屋に戻って来る。遼太郎とペスカは相変わらず優れない表情を浮かべ、佐藤は先程とは打って変わって難しい表情になっていた。


「翔一。何かわかったか?」

「これと言っては……」

「朝に現場で感じた気配は、こいつで間違いなさそうか」

「断定は出来ないですけど、やっぱり気配は似ています」

「そうか。悪いが、菅谷の証言に有った現場に向かって、色々と見て来てくれ」

「わかりました」

「安西、翔一を連れてってやれ。現場を一通り確認したら、事務所に戻って来い」

「先輩は先に行ってるんですか?」

「あぁ。エリーに封印のやり方を教えてやらないとな」


 安西と翔一は部屋を出ていく。そして佐藤は思い出したかの様に、刑事課へ内線を入れた。安西等が部屋を出た後、ペスカも続いて部屋を出ようとする。そんなペスカに、遼太郎は声をかけた。


「ちょっと待てペスカ。何処に行くんだ?」

「何処ってお兄ちゃんを迎えにだよ。話し合いには必要でしょ?」

「いやいや。要らねぇだろ、あんな馬鹿!」

「必要なんだよ、私の精神安定に!」

「ペスカ、お前……」

「それに、お兄ちゃんが居ればリンリンが視姦して来ないんだよ!」

「あぁ? あの野郎! うちの娘をいやらしい目で見てたのか?」

「そうだよ! それに合法ロリって!」

「一度、ぶっ飛ばさねぇといけねぇなぁ」

「まぁ、ぶっ飛ばすのは後にして、ガツンと言ってやって!」

「あぁ、わかった」

「そうじゃなきゃ、リンリンの股間に電流を流して去勢しちゃうからね!」

「止めとけ! 流石に犯罪だ!」

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