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第三百八十二話 極小の世界 ~能力の封印 後編~

 飲食店近くの駐車場に乗りつけると、紙谷は冬也達を率いて飲食店を目指す。そして、遼太郎達はタクシーに揺られたまま、八王子署を目指す。その間、一番忙しかったのは佐藤だろう。


 八王子署に連絡を入れ、渋谷署には報告と能力を封じる件の許可を貰う等と、助手席の上で様々な連絡に追われていた。


 やがて、食事を終えて満足気な表情を見せる冬也とアルキエルを運び、紙谷が運転するパトカーは八王子署に到着する。それとほぼ同時刻にペスカ達が乗ったタクシーが八王子署に到着した。


 冬也を見つけるや否や、ペスカは走り寄る。その後に翔一が少し柔らかな表情で歩いて来る。

 冬也は菅谷を抱えているのとは反対の腕を上げ翔一に挨拶をすると、そのままペスカを抱きとめた。そしてペスカは、肩に担いでいる菅谷を繫々と観察し始める。


「これが例の。ふ~ん」

「何か感じるか?」

「な~んにも。なんか拍子抜けな位、能力を使いこなせてなさそうだね」

「アルキエルもそんな事を言ってたな。翔一、お前はどう思うよ?」

「そうだな~。何か、既視感が有るんだよね」

「既視感? 前に会った事が有るとかか?」

「いや、そうじゃないよ。でも、何となく見覚えが有るというか……」

「翔一君。あれじゃない? 朝のやつ」

「あ~。そう言えば、あの時感じた能力は二つ。その一つが、この人の能力に似てるのかも」

「工藤君! それは本当なのかい?」

「いや、紙谷さん。何となくそう感じるだけですよ」

「それなら、急ごう!」

「ちょっと、紙谷さん?」


 冬也達を置き去りにする様にして、紙谷は八王子署の中に入って行く。そして、入口を抜けると振り返り、冬也達を急かす様に手招きをした。


 紙谷が浮かれるのも当然だ。能力者の対策どころか、菅谷は昨夜起きた実行犯でほぼ確定なのだ。菅谷から事情聴取をすれば、もっと真相が明らかになるだろう。


 対してペスカは、意外な程に冷静だった。


 病院で投影した光景を見る限り、事前にしっかりと策を練った計画だと思われる。そんな奴等が、こんなに早く尻尾を出すとは思えない。

 恐らく深夜の事件は、高藤を殺す為の目くらましであろう。故に、この男を尋問した所で、黒幕までは辿り着けまい。そう、ペスカは予想していた。


 恐らく、遼太郎も同じ様に考えていたのだろう。硬い表情のまま、ペスカの肩を叩く。


「お~、パパリンってばエスパー?」

「エスパーじゃねぇよ!」

「まぁ、その前に能力封じだね」

「アルキエルのお手並みを拝見って所だ」


 急かされて扉を潜る冬也達へ続く様に、ペスカと遼太郎は署内に入って行った。


 通されたのは取調室、そこには既に警察官が何人も集まっていた。万が一が無い様にだろうか。それにしても厳重な様子に、流石の冬也も軽く驚きの声を上げていた。


 警察官の指示で、冬也は菅谷を床に横たわらせる。続いて警察官は、アルキエルに対して能力封じの方法を説明させた。

 面倒だと嫌がったアルキエルだが、冬也の睨みも有ったせいか説明を始める。当然ながら、『マナ』という単語自体を初めて聞いた警察官に、内容が理解出来る筈も無い。


 ただ、これも決まりなのだろう。現場の警察官が理解できるか否かはさておき、室内で起きる言動の全てが記録されているのだから。


「う~ん。まぁアルキエルにしては、及第点って所かな」

「そうだな。根本的な解決にはならねぇが、無難なやり方だ。これならエリーや支部の奴等にも出来るかもな」

「なんだよ、ペスカも親父も。俺は、アルキエルの方法が一番良さそうだと思うぞ」

「はぁ、これだからお兄ちゃんは」

「そうだ。頭を使う事に関しちゃあ、お前はてんで駄目だな」

「うるせぇな! どいつもこいつも人を馬鹿呼ばわりしやがって」

「お兄ちゃん、怒らないで。一先ず、お兄ちゃんがアルキエルの方法でやってみてよ。その後、私が因子を分離するから」

「てめぇに出来んのかぁ、ペスカぁ」

「やれないとでも思ってんの? そもそも、私達はこの因子を回収する為に日本へ来てるんだからね」


 そう言われては、アルキエルも引き下がるしか有るまい。何せ、邪神ロメリアが起こした事件の後片付けをしに来たのだから。

 それには、能力者から因子を取り上げるのが最良だろう。封じてしまうのは、暫定的な処置にしかならない。


「まぁ、取り合えずやれ! バカ息子!」

「あぁ? てめぇ、喧嘩売ってんのか、馬鹿親父!」

「おぉ? 喧嘩なら俺も混ぜろや、冬也ぁ! ミスラぁ!」

「うるさい! 三馬鹿! 黙ってやる事をやりなよ!」


 普段は暴走気味な妹が珍しく兄を叱る光景を見て、翔一は笑いを堪えていた。それを見て、ようやく冷静になったのだろう。アルキエルと遼太郎は押し黙り、冬也は跪くと菅谷の体に軽く触れた。


「良い? お兄ちゃん。マナじゃなくて、魂魄を探るの」

「あぁ、わかってる」

「魂魄の中に、澱みが混じってるのがわかる?」

「あぁ。糞野郎と同じ臭いだ」

「それが、糞ロメの因子だよ。それを魂魄の中から出て来ない様にするの」

「あぁ」


 冬也はペスカの声を聞きながらも、菅谷の魂魄に集中していた。下手に傷を付ければ、一生目を覚まさない所か、輪廻すらままならなくなる可能性が有る。


 魂魄に触れるという事は、それだけ大事なのだ。


 冬也は慎重に、ロメリアの因子が溶け込んだ魂魄の周りに、マナで覆っていく。それから完全に覆い切った所で、目を開けた。その様子を脇から見ていたペスカも頷く。

 

「これで、良いか?」

「まぁ、最初はこんなもんかな」

「不器用なお前にしちゃあ、良くやった方だ」

「言ってやるな、ミスラ」

「だってよぉ。こいつは、プラモすら組み立てられねぇんだぞ」

「プラモ? なんだそりゃ!」

「そんな事は良いんだよ! それよりペスカ、分離するって方法を見せてくれよ」

「わかったよ。ちゃんと見ててよね」

 

 ここからが本番なのは、部屋に居る誰もが理解していた。紙谷を初め刑事や警察官等は理解出来なくとも、翔一には何が起きているのかわかっている。


 これは、少なくとも資質の問題である。


 マナを扱う事に慣れた者であれば、冬也が何をしていたか、これからペスカが何を行おうとしているのかが見えるだろう。それは、記録映像を通じてでも変わりはない。


 ただ、この状況に着いて来れていないのは冬也であった。


「お兄ちゃん。コーヒーにミルクを混ぜるとするでしょ? そのミルクって完全に混ざり切ってるんだと思う?」

「思うな。だって、色が変わるだろ?」

「そうじゃ無いんだな。例えば、ミルクを混ぜたコーヒーを冷やすとするでしょ?」

「うん」

「そうしたら、ミルクが浮き上がる事が有るの」

「どうしてだ?」

「詳しい説明は、お兄ちゃんには難しいから省くけど。完全に混ざったのに分離するって、おかしいと思わない?」

「そうだな」

「それで。さっき、お兄ちゃんは糞ロメの因子を感じたよね?」

「あぁ。はっきりとわかった」

「その染み込んだ汚れを、浮かせってポイって訳」

「そんな洗剤みたいに行くのか?」

「ちゃんと見ててね」

 

 最も、先程のやり方よりも慎重さを求められる。何せ因子は、魂魄に混じり切っているのだから。現実的な物質であれば、遠心分離の様な方法が一番簡単かもしれない。だが、これは魂魄だ。そんな方法が取れる訳が無い。

 ならばどうする? 答えは簡単だ。ペスカの言う通りに、ロメリアの因子を異物として認識し、それだけを取り出せばよい。

 

 但し、実際に行うのはより高度な精密さを求められる。そして、何よりも肝心なのは、ここから先は『死と生の神セリュシオネの領域で有る』という事だ。日本であれば、『イザナミノミコト』がそれに近いだろう。言わば、これは神のみぞ行える秘術である。


 故にペスカは問いかける。それからペスカは、ほんの少しだけ神気を解き放つ。辺りには眩い光が走る。集まっていた警官達はとっさに目を覆う。


「我、生と死の神セリュシオネの代行者なり。そして、イザナミノミコトに願わん。彼の地にて放たれし邪悪の種を、愛すべき子より取り除く事を許したまえ」


 魂魄を直接触れる許可を得ると、ペスカは慎重に魂魄に触れ、そこに混じるロメリアの因子を集めていく。


 それから、五分が経過しただろう。慎重に、慎重に、ペスカは集めたロメリアの因子を魂魄から引き抜いていく。そして、完全に引き抜いた所で、ロメリアの因子を握りつぶして消滅させた。


「あぁ、そうか。神気でか。でも、日本の神様にお伺いを立てないと不味いよな」

「そう言う事」

「この方法は、流石に僕等じゃ無理だね」

「仕方ねぇよ、翔一」

「うん? 終わったのかい?」

「そうだよ、刑事さん。これで、この人はもう能力を使えない。起こしたら、事情聴取をしなきゃね」

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