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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十二章 混乱の東京

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第三百七十七話 極小の世界 ~口封じ 前編~

 高藤俊、年齢は十六歳、インビジブルサイトの能力者である。それが、午前十時半に病院内で死亡した。


 高藤は遼太郎の魔法で昏睡状態に有った為、病院へ搬送された。そこには刑事が二人と看護師がついており、万全の監視状態に有った。無論、遼太郎が睡眠だけでは無く、防御の結界魔法もかけている。

 

 万が一にも何かトラブルが起きる事は無い。そう思っていた。


 しかし、状況は急変する。高藤は当該時刻に突如口から血を吐く。直ぐに医師が駆けつけるが、死亡が確認された。


 連絡を受けた佐藤は、急いで部下の刑事を引き連れて部屋から出ようとする。しかし、それに待ったをかけたのは遼太郎だった。


 遼太郎は、佐藤の腕を掴んで引っ張ると強引に振り向かせる。


「落ち着け、佐藤! 菅谷の方はどうするんだ!」

「ったく。それも有ったな。くそっ!」


 吐き捨てる様に言い放つと、佐藤は地団太を踏む様に床を蹴る。冷静を欠いているのは、誰もが見て取れる。しかし、想定もしない事態が起きたのだ。誰もが冷静で居られる訳ではあるまい。


「お前の部下、一人で良い。菅谷の確保に当たれ! それと、現場には俺の息子を連れて行け! 有象無象より、よっぽど役に立つはずだ!」

「助かりますよ、東郷さん。聞いたか? 紙谷、お前が行け!」

「はい!」


 紙谷と呼ばれた刑事は急いで部屋を出ると、廊下を走りだす。それを確認すると、遼太郎は安西に視線を向ける。


「安西。ペスカに連絡だ。これからパトカーが二台向かう。一台は菅谷の確保だ、冬也に着いて行く様に伝えろ」

「はい!」

「いや。ちょっと待てよ、東郷さん。二台って、あんた何する気だ!」

「勿論、ペスカを現場に連れて行くんだよ。流石にあいつの知恵を借りねぇと、事態は何も進まねぇ」

「って事は、あんたも着いて来る気か?」

「当然だ。お前の車に載せてけ、佐藤」

「俺と翔一は、後から追いかけるって事で良いですか?」

「いや、翔一は俺に着いて来い。お前は念の為にここへ残ってくれ。それとペスカへの連絡だが、概要だけ伝えておけ」

「ペスカちゃんは兎も角、冬也君はそれで大丈夫ですかね?」

「迎えに行った刑事が、上手く説明してくれんだろ?」


 遼太郎は強引に話しを切ると、佐藤を差し置いて部屋を出ていく。その後を、慌てた様に翔一が続く。佐藤は目線だけで部下に指示を送ると、部屋を去って行く。

 そして、残された安西はペスカに連絡を入れる為に、スマートフォンを懐から取り出した。


「あぁ? もしもし? ペスカちゃん?」

「何? 安西さん? どうしたの? その声は困ったって感じだね」

「流石にわかるかい? インビジブルサイトが死亡した。僕等は搬送された病院へ向かう。それと、パトカーが向かうからペスカちゃんも来て欲しい」

「……あ~……、わかったよ」

「それとね。もう一台、パトカーが向かう。それには、冬也君を乗せて欲しいんだ」

「お兄ちゃんを?」

「あぁ。冬也君には、とある能力者を捕まえる手助けをして欲しい」

「良いけどさ。多分、アルキエルも着いて行くと思うよ」

「話しに有った異世界の神様って奴かい?」

「そうそう。それで良いなら、お兄ちゃんには話しておくよ」

「あんまり暴れ過ぎない様にって伝えてね」

「わかってる。詳しい説明はしてあげてね。くれぐれも丁寧にね」

「……一応さ。刑事と喧嘩しない様に、釘を刺しておいてくれないか?」

「あ~、わかったよ」


 ペスカは通話を切るとスマートフォンを机に置き、暫くは棒立ちになっていた。ペスカの頭の中では、様々な情報が入り乱れて整理を行っている所なのだろう。

 

 当然ながら、ペスカは今朝ほどの事件を知らない。そして、インビジブルサイトの件も『死亡した』事しか知らされていない。

 しかし、『単に死亡しただけでは無い』事は容易に予想が着く。恐らく目的は二つ、翔一を狙った時の様にオリジナルの能力者を消す事と、能力者から情報が漏れる事を阻止しようとしたのだろう。

 

 そうなると、インビジブルサイトが死亡したのは事故等ではない。間違いなく意図的に殺された事になる。

 それでは誰がそれを行ったのか? コピーの能力者か? それとも犯人は別にいるのか?

 いずれにせよ、詳しい状況がわかるまで不確実な推測しか出来ない。ペスカは少し頭を横に振ると部屋を出る。そして、階段を下りながら声をかけた。


「おに~ちゃ~ん。どこ~?」


 一方、安西は事情聴取を見届ける為に部屋へ残る。そして、翔一を連れた遼太郎は佐藤を急かす様にして、パトカーへ乗り込んだ。パトカーに乗るなり、遼太郎はサイレンを鳴らす様に佐藤へ指示を出す。

 

「いや、東郷さん。無茶言うな!」

「馬鹿か佐藤! 充分、緊急じゃねぇかよ!」

「あぁ、もう! 怒られたら東郷さんのせいにするからな!」


 高藤が搬送されたのは町田市内の病院で有る。車で行けばそう時間はかからない。緊急車両なら猶更だ。そしてパトカーは走りだした。


 様々な状況が一変に重なる時に必要なのは、優先すべき事が何かを見極める事だろう。しかし、今回は優先すべき事が一つではない。高藤の状況確認、菅谷の安全確保、この二つは直ぐにでも行わないとならない。


 死亡してから時間が経過すれば、能力者の痕跡も薄くなる。実際に先の死体からは、殆ど痕跡を発見できなかった。ましてや、意図的に何かを隠そうとしたなら、更に発見は困難になる。


 ある意味では、翔一の能力が通用しなくなるという事だ。それでは、黒幕連中の後塵を拝す事になる。


 菅谷に関しては、今回の事件と関わっている可能性は高かろう。菅谷が犯人一味の役に立っているなら未だ安全だ。

 しかし、高藤と同じ様に口封じを行われる可能性が無いとは言えない。それに、菅谷が事件と関わっているなら、犯人一味や黒幕連中の情報がわかるかもしれない。


 取り合えず、八王子署には安西を残してきた。安西は格闘のエキスパートでもある。久木が狙われたとしても、安西が居れば万が一は起こるまい。


「毎度毎度、お前頼りになってるな」

「それが僕の役目だと思ってます。それより遼太郎さん」

「なんだ?」

「インビジブル、いや、高藤の死因が自然死って可能性は?」

「この状況だと考え辛いだろうな。どうなんだ? 佐藤!」

「医師の見立てでは、久木が疾患持ちって事は無さそうって話しでしたけど」

「詳しい検査は、目を覚ましてからだった……」

「ええ。悔しいが後手に回ってますよ」


 バックミラーに映る佐藤の表情は、苦々しく歪んでいる。それから車内には無線の音だけが響き、やがて病院へ到着した。

 到着するなり、遼太郎は勢い良く車を降りて走りだす。それに、佐藤と翔一が続いた。翔一に関しては、既に探知を働かせている。

 未だ体には遼太郎の神気が残っている、言わばバフがかかっている状態だ。それから逃れられる能力者など稀有な存在だろう。


 病院の中を速足で急ぎながらも、翔一は院内全てはおろか周囲数キロを探知している。何も異常を感じないのか、翔一は一言も発しない。


 院内に入り、直ぐに病室へと辿り着く。そこは中々に広い個室だ。中には刑事が二人と、医師に看護師、そして両親だろうと思える者達がいた。


 恐らく母親だろう、泣き腫らした目で現れた遼太郎を見つめる。如何に元神だろうと、死んだ人間を生き返らせる事は出来ない。縋る様な目をされても、もう遼太郎は人間だ。

 そんな母親の肩を父親が抱き、慰めている。その父親でさえも、表情は酷く暗い。


 仕方がない。息子が死んだのだ。但し、その両親達にかけてやれる言葉を、遼太郎も佐藤も持ち合わせてはいない。

 何せ高藤俊は能力を使って軽犯罪を繰り返した挙句、『街一つを壊滅させかねない』能力の暴発を起こしたばかりの男なのだから。


 遼太郎は室内を見渡すと、自身がかけた結界が壊れているのを確認する。そして、悔しそうな表情のまま翔一に視線を向けた。


「翔一!」

「わかってます!」

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