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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十二章 混乱の東京

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第三百七十四話 極小の世界 ~事件発生~

 シグルドとの再会を果たし、図書館へ向かったペスカ達は、日が落ちるまで読書に没頭した。ペスカが勧める専門書を読みふけるアルキエルは、人目にはどう映ったのだろうか? アルキエル自身に自覚はないのだが、本を睨め付ける様にする姿は、さぞかし迫力があったに違いない。


 その後、買い物も済ましたペスカ達は、充実した一日を終えて帰宅する。ペスカ達が帰宅した頃には、空達も帰宅をしていた。


 夕食時を迎え冬也は台所に立つ。冬也が夕食の準備をしている間、他の面々は現代の社会や文化、科学等について議論を深めていた。

 医療という専門的な知識を求める空と異なり、見識を深める事を目的として日本に訪れたクラウスは、社会科学や理学、工学、農学分野に留まらず、情報分野や哲学に至るまで広く学んでいる。

 アルキエルの率直な疑問に対し的確な答えを返す姿は、さすが知恵者であるエルフといった所であろう。


 ペスカを中心にした議論は、夕食が完成しても終わる事はなく、夜を徹して続けられた。翌朝になり寝不足となったペスカが、冬也に拳骨を貰うのは言うまでもない。


 ペスカを起こしていると、隣の部屋でけたたましい音が鳴り響く。恐らく、スマートフォンが鳴っているのだろう。それから直ぐに、翔一の声が聞こえる。

 翔一は、朝っぱらから騒ぎ立てる様な男ではない。少し気になった冬也は、翔一のいる部屋を覗き込む。

 翔一は慌てて身支度を整え、スマートフォンだけを持って部屋を出ようとしていた。


「冬也? びっくりした。ごめん、ちょっと急いでるんだ。直ぐに出かけなきゃ」

「何か有ったのか? 力になれる事は有るか?」

「いや。今は未だわからない」

「そうか、何か有れば直ぐに言えよ」

「あぁ。ありがとう」


 余程急いでいたのだろう。翔一は、勢い良く階段を降りると、そのまま玄関を開けて外へ出る。少しすると猛スピードを上げた車が、門の前で急停車する。翔一が乗り込むと、車は急発進していった。


「それで、安西さん。本当に能力者がらみの事件なんですか?」

「詳しくは現場を見てからだ。でも、十中八九間違いないだろうな」

「それで、遼太郎さんはもう現場ですか?」

「あぁ。鑑識の連中も到着してるはずだ」


 安西の深刻そうな表情から察するに、これは能力者が起こしがちな窃盗等の軽犯罪とは訳が違うだろう。翔一はそう結論付けて、それ以上の質問を止めた。

 それから終始無言のまま車は走る。小一時間もすれば現場へ到着する。既に封鎖は完了し、多くの警察官が慌ただしくしていた。

 

 封鎖の前で車を停めると、安西は警察官に軽く挨拶をし、翔一を連れて現場へと向かう。到着した現場は、住宅街の外れに有る古びたアパートだった。ベランダ側から見ただけだが、どの部屋も生活感がない様に見える。寧ろ、誰も住んでない様にも思える。


 こんな場所で死体が有ったとして、誰が見つけて通報したと言うんだ? そんな疑問を感じながらも、ボロボロの外階段を慎重に上がり、二人は目的の部屋へ到着した。


 部屋に入ると予想外の綺麗さに二人は驚く。まるで、今の今まで誰かが住んでいた様だ。しかし、部屋には家具の一つも無い。それどころか、入口付近には血痕どころか足跡すら見当たらない。


「変ですね? 綺麗すぎます」

「あぁ、そうだな」


 奥の部屋からは、聞きなれた声が聞こえる。二人は、部屋の様子をくまなくチェックしながら、奥の部屋へと足を踏み入れる。奥の部屋に入るや否や、声の主は声をかけた。


「急がせて悪いな」

「いえ、遼太郎さん。早速始めますか?」

「あぁ頼む。ギリギリ間に合うか?」

「どうでしょう。やってみないと」


 奥の部屋には死体が横たわっている。遼太郎の他には刑事と検察官が、遺体や部屋の中を確認している。

 遺体の右腕は、二の腕から千切れた様に無くなっており、周りには血の海が出来ている。見るも無残な状態に、翔一は少し口を塞いだ。


「翔一、キツイのはわかるが……」

「わかってます……」

「先輩。これは、出血性ショックじゃ……」

「恐らくな。ただ、千切れた右腕が無い」

「それは……」

「それに見ろ、この部屋は綺麗すぎる」


 お奥の部屋に入る前から、その事には気が付いていた。もし、この部屋の中で犯行が行われたとしたら、もっと血痕が飛び散っても良いはずだ。

 仮に屋外で行われた犯行だったとしても、この部屋までの間に何かしらの痕跡が残るはずだ。


 有るのは腕から流れ出した大量の血だけ。おまけに、遺体の腕は綺麗に切られたとは言い難い。


 少なくとも、腕を強引に千切るなんて真似は『能力を使わない限り』か、『何かしらの道具』を使わない限りは出来はしない。


「もう一度聞くが、拭き取った後は?」

「痕跡は見つからなかった。入口からこの部屋までもだ」

「この部屋の鍵は?」

「かかっていた。勿論、窓もだ」

「密室って事か」

「そうなるな」


 遼太郎と刑事の会話を聞く限り、転移の能力者が『被害者の腕を千切った後にワープさせた』としか考えられない。


 基本的には、能力は一人につき一つ。二つ以上の能力を使う事は、『コピーとインストール』の能力者位だろう。それとて異例中の異例だ。


 部屋の中では、未だ検察官が検視を行っている。極力、彼等の邪魔にならない様に遺体の近くまで寄ると、翔一は探知の能力を発動させた。

 探知の目的は、死体に残る能力の残滓から情報を得る事だ。どんな能力が使用されたのかは勿論の事、能力者の正体までわかれば、それに越した事は無い。


 同席していた刑事が、終始面白くない表情を浮かべている。しかし、気にしている場合ではない。

 翔一は探知の能力を通じて、遺体を隈なく丁寧に調べていく。しかし、死後から相当の時間が経過しているのだろう。断片的な情報しか、頭の中に流れて来ない。


 次に翔一は、遺体の周囲を探知する。それは、遺体が外部から運ばれた可能性を確かめる為だ。これも、やはり時間が経過し過ぎているせいか。断片的な情報しかわからない。


 ややあって翔一が探知を止め目を開けると、遼太郎が顔を覗き込む様にして問いかけて来る。


「それで? 何かわかったか?」

「いえ。殆ど何も……」

「そうか……」

「でも、能力者が行ったのは間違いないです」

「能力の残滓が有ったか?」

「ええ。それも二つ」

「やっぱりか」


 それだけ聞くと、遼太郎は刑事に問いかける。 


「それにしても、どこの誰が通報したんだ?」


 インビジブルサイトの件が有る。今回の事件も例の黒幕連中が関わっていたとしたら、同じ方法で警察を攪乱してもおかしくはない。

 それは、この刑事も理解しているはず。しかし、遼太郎に対して首を横に振った。


「通報者は、このアパートの管理人だ。定期的に空き家を清掃していたらしい」

「それで、いつもの様に掃除しようとしたら、遺体をみつけたと?」

「そう言う事だ。但し、被害者を特定出来る物は見つかってない」

「被害者に関しては、こっちでも探して見る」

「馬鹿な! それは刑事課の仕事だ!」

「言ってる場合かよ!」


 被害者の服装は小奇麗だ。スラックスの折り目もきっちりしている。元は三つ揃えのスーツなのだろう。着用しているのはベストだけで、上着は無くなっている。恐らく上着毎、財布などを持ち去られたのだろう。


「上着だけ無いって事は、物取りの可能性は?」

「それも有るかもしれないな。どの道、あんた等がわからないなら、地道な捜査しかないしな」

「いえ、刑事さん。腕は千切られたんじゃないです」

「はぁ? どう言う事だ!」

「体の内部から爆発してます」

「そう言う能力って事か?」

「はい」

「まぁ、その線で当たって見るか。でも、結論は検視の後だ」

「情報はお互いに共有しようや。取り合えずは、リンリンに連絡して探らせるぞ!」


 周囲に発破をかける様に声を上げると、遼太郎は立ち上がり部屋を後にする。そして、訝し気な表情を浮かべる刑事を後目に、安西と翔一がそれに続いた。

 

「遼太郎さん。例の黒幕との関連は有るんでしょうか?」

「いや。情報が少なすぎて、さっぱりわからねぇ」

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