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改訂版 妹と歩く、異世界探訪記  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
第十二章 混乱の東京

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第三百七十二話 新たな日常 ~街ブラ~

 少し重くなった雰囲気を変える為に、ペスカは冬也とアルキエルに提案をした。ペスカの心配りに、冬也達は笑みを浮かべて頷いた。

 善は急げとばかり、駅方向へ一同は歩みを進める。久しぶりの街探索に、ペスカは少し浮かれた様にステップを踏んでいた。楽し気に見えるのは、ペスカだけではなかった。これから何が待ち受けるのか、アルキエルも心なしか浮かれている様に見えた。


 駅に着くなり、アルキエルには驚きの連続が訪れた。券売機、改札、そして初めて乗る電車。初めて尽くしの体験に、アルキエルは子供の様にはしゃぐ。

 また、べったりと車窓に顔を付け外の景色を眺めている姿は、傍から見れば旅先で浮かれている外国人観光客にも見えただろう。


 道中のアルキエルは、改札の仕組みから電車の構造に至るまで、ずっと質問をしていた。ペスカはアルキエルの質問に対して、一つ一つ丁寧に答える。冬也とは違い、アルキエルは頭を働かせる事を苦手としていない。最後の方には、電車に供給される電力の仕組みにまで質問が発展した。


「なぁ、アルキエル。電車が気に入ったのか?」

「そうじゃねぇよ冬也。ロイスマリアで、ペスカが何を目指しているのかが知りてぇんだ。ペスカの知識はこの世界から来てるんだろ?」

「まぁそうなるね」

「ペスカぁ。あの混乱から数年でロイスマリアは大きく変わった。でもな、それが必ず正しい変化とは、誰も言い切れねぇだろ?」

「確かにアルキエルの言う通りだよ」

「もし世界に悪影響を及ぼすなら、俺はペスカが作り上げる文明を破壊し尽くすぜ。だがよぅ、どの文明にも長所と短所は有るもんだ。ちゃんと根本を理解しなければ、善し悪しは判断出来ねぇだろ?」

「って事は、アルキエルは私に協力する気マンマンって事だね」

「せっかく面白くなってきたんだ。中途半端に終わらすなんて、勿体ねえぇだろうが」


 冬也とペスカが、既にアルキエルを家族として思っている様に、アルキエル自身もまた冬也達をかけがえのない存在だと感じているのだろう。

 歯に衣着せぬ物言いをしても、家族の為に立ち回っている。それは、アルキエルの大きな変化であろう。


 冬也は終始笑顔を絶やす事なく、アルキエルを眺めていた。 


 数駅を過ぎて、幾つかの路線が集中する目的の駅へと辿り着く。地元の駅よりも大きな改札を抜けると、辺りにはは大きなビルが立ち並ぶ。そこはかつて、ペスカと冬也が良く訪れた街。その懐かしさに、思わずペスカはくるりと一回転した。


「ここに来たら、やっぱりヤマトベーカリーのふかふかパンだよね!」

「ペスカぁ。なんだそりゃ、食い物か?」

「そうだよ。超美味しいの!」

「なら、食わせろ!」

「まぁ待て。親父から当座の生活資金は貰ってる。今日はお前にとっておきを食わせてやる!」


 満面の笑みで話すペスカと、話の中に出て来たパンに興味を示すアルキエル。しかし冬也は、余裕たっぷりの大人を気取り、自分の胸をドンと叩いた。

 

 冬也を先頭にペスカとアルキエルは、街並みを進んでいく。駅から数分ほど歩いた所に目的地は有った。

 少し古びた暖簾には寿しの文字、暖簾をくぐり店内に足を踏み入れると、カウンター越しから威勢の良い声が響いてきた。 


「らっしゃい! ってなんだてめぇ、冬也じゃねぇか! 急にいなくなりやがって! 何してやがった!」

「色々有りまして。心配かけてすみません」

「てめぇの事だ、どうせ妙な事に巻き込まれたって所だろ? それで、今日は久しぶりに手伝いに来たのか?」

「違います親方。今日は外国の客を連れて来たんです。お勧めを頼んます」

「おぅよ、任せとけ! おい政! こいつらを座敷に通してやれ!」

「わかりやした」

 

 親方と板前の気風の良いやりとりに、流石の冬也が押され気味になる。三十半ばだろうか、風格の有る板前が冬也達を案内した。


「冬也、元気そうでよかった。お前が突然、手伝いに来なくなったから、親方は随分と心配してたんだぞ!」

「すみません、政さん」

「それは、俺じゃなくて親方に言ってやりな」

「はい、わかってます」

「ところで外国のお客人。寿司は初めてですか? 苦手なものが有りましたら、お聞きします」

「特にねぇ。ただよぉ、冬也の奴はとっておきって抜かしてやがった。うめぇんだろうな?」

「勿論、気に入って頂ける様、精一杯務めさせて頂きます」


 雑談を交わしながら、冬也達は座敷に通される。通常営業では、カウンターのみを使用する。座敷は宴会若しくは、特別なお客様が来店した場合にしか使われない。


 ふすまを開けると、やや明るめの畳と壁の色合いが目に優しく飛び込んでくる。次の瞬間には中央に鎮座する、重厚感の有る漆塗りの座卓に目を奪われる。

 見渡すと、床の間と掛け軸に心を奪われる。そこは豪華絢爛とは異なる、和室と言う名の美を体現していた。


 美的感覚とは程遠いアルキエルの口から、「ほおっ」と感嘆の声が漏れる。ペスカは「スゴっ」と小声で呟いた。


 座椅子に腰かけて、暫く待つと寿司が運ばれてくる。目の前に置かれた寿司下駄には、カンパチや金目鯛、鱧などの旬の握りが十貫ほど綺麗に並べられていた。

 ペスカは寿司に手を伸ばそうとせずに、ただ見とれている。そして、勝手がわからないアルキエルは、じっと寿司を眺めていた。

 

 それを見ていた冬也は、食べ方を教えようと最初に寿司に手を伸ばす。下駄の左上に乗る寿司を親指、人差し指、中指の三本で軽く寿司をつまみ上げ、ネタを少し醤油につける。そして、ネタが下になる様に口へと運んだ。様子を見ていたペスカとアルキエルは、冬也を真似て食べ始める。


「なんだこりゃあ、食った事のねぇ味だ。うめぇ! 最高だぜ冬也!」

「凄くネタが新鮮で美味しいよ。ネタの味がダイレクトに伝わって、ほろっと口の中でほぐれシャリと一体になる。ほっぺが落ちそうだよ、お兄ちゃん」


 口に入れた瞬間に、アルキエルとペスカが満面の笑みを浮かべる。アルキエルはやや興奮しながら感想を伝え、ペスカは寿司をじっくりと味わいながら、感想を述べた。

 最初の一貫で、心を鷲掴みにされたのだろう。アルキエルは、次々と寿司を口に運んでいく。ペスカは対照的に、ゆっくりと一口を噛みしめる様に食べ進めた。

 楽しそうに食事をするペスカ達を見て、冬也は微笑みながら呟いた。


「そりゃ良かった」

「ねぇ、お兄ちゃん。このお店って、掛け持ちしてたバイト先の一つ?」

「あぁ。親方と政さんには、色々と教えて貰った」

「なら、てめぇもこれが作れるって事か?」

「練習はさせてもらったけど、ここまで上手くは握れねぇよ」

「じゃあ、修行しろ!」

「あぁ、そのうちな」


 大満足の昼食を終え、親方と板前に挨拶をし、一行は店を出る。そして、駅方面へと戻りながら、商店街を散策した。

 ただこの時、一行は知らなかった。この街で思わぬ再会を果たす事を。

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